ドゥームズデイ・ディヴァイス #5
走りながら彼は、デスドレインを、デスドレインの裸の上半身の巨大な傷痕を見据えていた。カンジ・キルの傷痕を。オミヤゲ・ストリート。ダークニンジャはデスドレインを殺す事ができた。だが殺さなかった。かわりに、カンジ・キルで呪った。 50
2012-04-25 20:40:51カンジの呪いは、その対象をインガの重圧で狂わせる。それは裁きだ。だが、人が人を、ニンジャがニンジャを裁けるのか?いかなる清廉潔白の士に、そんな権利がある?無い。そんなものは無い。理不尽で一方的な断罪だ。それは、人を、ニンジャを統べる者……ヌンジャのみわざである。 51
2012-04-25 20:47:46ベッピンはヌンジャのみわざを可能にした。カンジの呪いを受けたデスドレインは罪に狂い、運命を乱す。ケオスの種、バタフライ・エフェクトの種となり、ダークニンジャの前途に整然と敷かれたレールを破壊する因子のひとつとなる。運命者マスタートータスが予定外に滅びたように。 52
2012-04-25 20:54:05……だが、ダークニンジャがはじめからそのような行いを選択せず、あの場でデスドレインを殺しておれば……マコの死は引き起こされなかったのではないか?これが、運命に石を投じた報い?より大きなインガオホーであろうか? 53
2012-04-25 20:58:37どこかで間違えたか?ベッピンを持とうと、ヌンジャのみわざは、所詮ハガネ・ニンジャの憑依者には過ぎた力であったか?マコは何故フジオの前に現れたのか?何を誤ったのか?それとも、何も誤ってはいないのか?運命に投じた一石がもたらした、粛々と通過すべき小さな試練に過ぎぬのか? 54
2012-04-25 21:05:46フジオは刮目した。(全て引き受ける。それだけだ)捻れた思考を引きちぎる。すると目の前にはデスドレイン。その目が驚愕に見開かれている。二秒前からの空白が、ダムの決壊めいてダークニンジャの記憶に押し寄せる。彼は八方向から襲い来たアンコクトンを全て躱し、敵の目の前に到達していた。 55
2012-04-25 21:17:17「ヤベェ……ヤベェ!何かねェのか畜生……アズール!何かしろ!アズール……ラン……」「イヤーッ!」ダークニンジャはデスドレインの斜め後ろに、振り向きながら着地した。その手のニンジャソードが砕けた。「グワーッ!」デスドレインの肩から腰にかけ、一直線に、裂けた! 56
2012-04-25 21:22:25「オゴッ……アバーッ!」デスドレインがよろけた。肩の傷の左右がストリングチーズめいて裂けてゆく。「アバーッ!」その傷口から真上へ噴き上がる鮮血!だがやがて、溢れ出す液体はドス黒く変色し、粘るタール状の液体に変わる。それが裂け落ちようとしていた上半身をつなぎ、引き寄せた! 57
2012-04-25 21:32:56「クソが……畜生……死ぬかよ……俺は死ぬわけがねえ……」「だろうな」ダークニンジャは素手のカラテを叩き込むべく、真っ直ぐに近づく。歩く彼の衣類の繊維質がねじ曲がって織り合わさり、余剰の布が崩れ落ちると、そこにはオブシディアン色のニンジャ装束に身を包んだニンジャの姿があった。58
2012-04-25 21:42:21「ア……ア……」デスドレインは振り返り、手を翳した。アンコクトンがボダボダとコンクリートに落ち、黒い水たまりを作った。……「ねえ、あなた死ぬの?」59
2012-04-25 21:44:42「死なねえ……死にたくねえ」デスドレインの前に立ったのは、アズールだ。彼女はダークニンジャを無感情に見た。「この人が死んだら、私を誰も連れて行ってくれない。それは許さない」「……」ダークニンジャは拳を握った。不穏な動きがあればカラテを叩き込む。60
2012-04-25 21:48:24「助けろ……アズール、俺を助けろ」デスドレインは尻餅をついた。アズールはデスドレインを見た。拡がる黒い水たまりに、足跡が点々と生まれた。成人の頭ほどはある、獣の足跡だ。アズールはデスドレインに言った。「……いいザマだよね、お前」61
2012-04-25 21:52:57(第二部「キョート殺伐都市」より:「ドゥームズデイ・ディヴァイス」 #5 終わり。 #6へ続く)
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