つぶやき怪談があるのならリレー小説があってもいいかと、Twetter版「怪集」を始めてみました。
目覚めたまま床から天井を見ている。私は今入院中なのだという。狭い和室だ。だが、私がどんな病で、ここが何処かは誰も教えてくれない。そもそもどうやって来たのかも思い出せない。父と母はどうしたのだろう。頭がぼうっとする。その時廊下から「もうすぐ死ぬわよ」と声をかけられた #kaishu
2010-06-28 01:29:19「どちらかと言うと、買わないほうに比重を置いている」と俺は答えた。「だとしても、客に文句を付けてくるのは古本屋のあり方としては頂けないな」猫は唸った。「確かにそう言われると身も蓋もない。ところで猫が喋ることについては何とも思わないのかね?」「へっ」俺は思わず嗤った。#kaisyu
2010-06-28 01:48:55「まあまあ、喋ろうが唸ろうが」俺はしゃがんで茶虎の首元を撫でた。「おい。こら。買うのか……買わんのか……うーん。ゴロゴロ」「まずもってそんな可愛くては、むしろその愛嬌に驚くというものだ」 #kaishu
2010-06-28 02:57:54「買ってくれたら背中に憑いてる女を祓ってやる」猫は目を細た。「そんな心当たりはない」胸を張った途端、「嘘つき」耳許で囁かれた。「どうする?漱石全集で手を打つが」すっきりした背中に風を受け、俺は店を出た。レシートには肉球がスタンプされていた。#kaishu
2010-06-28 07:09:03無言で古書店の奥までずんずん入り、居眠り中の主人の襟首を掴み上げた。「…何だ。人がせっかくいい気持ちで…」俺の怒張していた血管がさらに膨れあがった。「人じゃないだろ! …いや、そんなことよりあの本は何だ?」「何だとは?」「幽霊が憑いてるじゃないか。……夏目漱石の!」#kaishu
2010-06-28 19:49:34「何だ漱石か」主人は欠伸混じりに切り捨てた。「何だじゃないだろおい」「漱石なんて可愛い方だ。多少癇癪持ちだが適当に相づちを打ってればいい。太宰なんか延々と死にたい死にたい言い続けてうんざりする。宇野千代は成人指定だし、芥川は喋らないのが却って薄気味悪いくらいだ」 #kaishu
2010-07-06 17:47:24「あの幽霊はまがい物だ。夏目先生ならば雑司が谷。清の幽霊なら小日向の養源寺——そして俺ならば弁天町」猫はあくびをした。「太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい、という訳か」そう嘯くと、猫はにやりと笑い、「分かってるな」と言った。 #kaishu
2010-07-08 01:22:34「そうだ。太宰といえば、こんなモノが手に入ったぞ」一冊の文庫を手渡される。「なになに『幽霊失格』? 太宰不治(おさまらず)? ねこま……文庫?」俺は表情を曇らせた。「新作だ」そう言って目の前の茶虎は口の端をつり上げた。縞が得意気に歪む。俺は途方に暮れた。 #kaishu
2010-07-08 11:01:37「堅苦しいのが厭ならこんなのもある」店主は微笑んだ。見ると、「ねこま文庫 超怖~い本」という、いかにもな怪談本だった。「これには▽△▽明という作家の霊が憑いている。一晩中キモ怖い怪談を話してくれるので大変お得だ。ただ、どういうわけか皆、笑い死んでしまうんだよ」#kaishu
2010-07-10 02:16:34廊下には腰が直角に曲がった老婆が杖に寄りかかって立っていた。まだ頭のあちこちに靄がかかったままだが、彼女のことははっきりと思い出せる。「……わかっています」 そう、選んだのは私だ。「ですから」老婆が遮る。「約束だろ? 守るよ」 老婆は去り、安堵した私は瞼を閉じた。 #kaishu
2010-07-10 23:22:32「面倒くさい、どいつが最強なのか戦わせてしまえ!」 隣室に霊憑き本が集められる。暫く騒々しかった室内がやがて静かになり、女の高笑いが響く。「おい、あれは誰だ?」「岩□◇□子。官能怪談の女帝だ。あれには誰も適うまい」 隣室から声がする。「坊や、遊んであげようか?」 #kaishu
2010-07-10 23:36:18やがて契約通り、私の肉体は無となり、意識だけが残った。あれほど切望した人の意識の間を移ろう永劫の旅が始まったのだ。まずは、この文章を読んでいるあなたへ入り込み、あなたを追い出す。あなたは、あの老婆のものになるだろう。わたしはあなたとなり、短い旅路を楽しんであげよう。#kaishu
2010-07-11 12:02:44「おーい」「おーい」気付くと草原の真ん中に立っていた。辺りを見回しても誰もいない。風が肌を撫でるばかりだ。「おーい」「おーい」微かに誰かが呼ぶ声がする。声の方へ目を向けると、遥か遠くに手を振る人。あれは私。私が捨てた過去。もう心細くはない。声に背を向け、光の方へ。 #kaishu
2010-07-11 13:27:16その日の午後、うたた寝していた聡美はまたあの夢を見た。ばっと起き上がると腹部をまさぐり、何事もないことを確認した彼女は安堵の吐息を漏らし、乱れた息を整える。そして彼女はそっと枕の下へ手を差し入れる。ひんやりとした感触がその指先に触れると、聡美は笑みを浮かべた。 #kaishu
2010-07-17 01:11:06