上田上葉さん - 「魂の脱植民地化」を読み解く

いろんな読み方があると思いますが、考えさせられることの多い論考です。 ぼくは安冨歩入門として読みました。 長い文章を読みやすくするために章立てしていますが、分け方やキーワードなどは上田さんの意図と異なるかもしれません。
1
前へ 1 2 ・・ 10 次へ
上田上葉 @waferwader

"あのひとはわたしに気がつきもしなかったわ。あなたはどうお思いになって? わたしは四年間一緒に暮らした人間ですよ。五歳の年から九歳の年までねえ。それだのに、あのひとはわたしの顔をおぼえてもいなかったわ"(『鏡は横にひび割れて』)

2012-05-03 02:31:16
上田上葉 @waferwader

"「子供というものは敏感なものなのよ」とミス・マープルは自分でうなずきながら言った。「まわりの者たちが想像もつかないほどいろんなことを感じるものだわ。傷つけられた気持ち、はねつけられたという感じ、のけ者にされているという感じ。"(『鏡は横にひび割れて』)

2012-05-03 02:35:20
上田上葉 @waferwader

"傷ついた心は、いろんな恩恵を与えてもらったからといって、なおるものではないわ。教育も代償にはならないわ。いい生活をさせてもらったり、収入を保証されたり、知的職業にたずさわらせてもらったり、したとしてもねえ。いつまでも胸の中でうずいているものなのよ」"(『鏡は横にひび割れて』)

2012-05-03 02:40:24

理解すれば救えるか?

上田上葉 @waferwader

犯人を唯一理解し愛していたのはその配偶者でしたが、悲劇を止めることはできません。理解し愛していたがゆえに、自分自身も地獄へ落ちるしかなくなります。(これは、人には人を救うことなどできない、ということを語り手が示唆しようとしてるようでもあり、興味深い。)

2012-05-03 02:45:43
上田上葉 @waferwader

(“破壊”の度合いによっては、死ぬよりほか、のがれ道のないという人もいるだろう。これについては、いろいろ思うところがあるがどうもうまく書けない。)

2012-05-03 02:50:14

害意のないハラスメント

上田上葉 @waferwader

殺人被害者は殺人犯となる人物を前にしながら、その人格を見てはいませんでした。彼女にとって殺人犯となる人物は、有名人という意味しかもってなかった。逆に、殺人犯となる人物にとっても、殺人被害者は単なるファンの一人にすぎなかった。この断絶に、偶然橋がかかることで、鏡は横にひび割れます。

2012-05-03 02:55:10
上田上葉 @waferwader

"なんの害意もなかったのです。害意などは持ったこともないひとなのですが、ヘザーのような(わたしの以前からの友だちのアリスン・ワイルドのような)人たちは、ひとの心を傷つける可能性を持っています――親切心がないからではなく、親切心は持っているのですが"(『鏡は横にひび割れて』)

2012-05-03 03:01:42
上田上葉 @waferwader

"――自分の行為がひとにどういう影響を与えるかについての、真の意味の配慮がないからですわ。いつもその行為が自分にどういう意味を持っているかを考えるだけで、ひとにどんな気持ちを与えるかということは、ぜんぜん考えようともしないからですわ"(『鏡は横にひび割れて』)

2012-05-03 03:05:39
上田上葉 @waferwader

ちなみに、ミス・ナイトは『鏡は横にひびわれて』のあと解雇されたようで、クリスティが最後に書いたマープルものの長編『復讐の女神』で、そのことについて少し触れられています。マープルは名前が思い出せなくて、ミス・ビショップだったかしらといってますが(笑

2012-05-03 03:10:17
上田上葉 @waferwader

"ほんとうの意味ではね、新しいことなんかないものなのよ。わたしは人間の性質に興味を持っているわけだけど、人間の性質は、映画のスターだろうと、病院の看護婦だろうと、セント・メアリ・ミードの人たちだろうと、大して変わりのないものなのだからねえ"(『鏡は横にひび割れて』)

2012-05-03 03:15:39

『猫の事務所』

上田上葉 @waferwader

(さて、以下は「もう少し、自分にはいろいろといいたいことがある」と書いたことの続きである。といっても、自分に大して書くことがあるわけでもないが…… http://t.co/y1xYYc1V http://t.co/d3GOjdA4

2012-05-03 03:31:02
上田上葉 @waferwader

『猫の事務所』の獅子の科白は、もうゴン太君に引用してもらいましたが、実は『猫の事務所』には初期形も残ってて、私はそちらの方が好きで、あのとき念頭にあったのもそれである。以下、引用はちくま文庫『宮沢賢治全集8』「猫の事務所〔初期形〕」より。 http://t.co/RpTmpBHk

2012-05-03 03:35:22

まだお前たちには早いのだ。やめてしまへ。

上田上葉 @waferwader

"「何といふお前たちは思ひやりのないやつらだ。ずゐぶんこれはひどいことだぞ。黒猫、おい。お前ももう少し賢こさうなもんだがこんなことがわからないではあんまり情けない。もう戸籍だの事務所だのやめて了へ。まだお前たちには早いのだ。やめてしまへ。えい。解散を命ずる。」"(『猫の事務所』)

2012-05-03 03:40:14

みんなみんなあはれです。かあいさうです。

上田上葉 @waferwader

初期形の『猫の事務所』には、この獅子の科白の後に、事務所の猫たちだけでなくそういう獅子も含めて、「みんなみんなあはれです。かあいさうです。かあいさう、かあいさう。」という語りがあって、それも「かうして事務所は廃止になりました。ぼくは半分獅子に同感です。」という語りより好きである。

2012-05-03 03:45:54
上田上葉 @waferwader

"釜猫はほんたうにかあいさうです。それから三毛猫もほんたうにかあいさうです。虎猫も実に気の毒です。白猫も大へんあはれです。事務長の黒猫もほんたうにかあいさうです。立派な頭を有った獅子も実に気の毒です。みんなみんなあはれです。かあいさうです。"(『猫の事務所』)

2012-05-03 03:50:25
上田上葉 @waferwader

はじめて自分が『猫の事務所』を読んだのは、確か国語の教科書ででした。そのとき、語り手が獅子に同感なのが半分だけなのはなぜかとか、もう半分に異論があるのであればそれはどういうものと思われるかといった問題が出されたという記憶があります。……私は上手に答えられなかったと思いますが(笑

2012-05-03 03:55:10
上田上葉 @waferwader

『猫の事務所〔初期形〕』であれば、釜猫はともかく、なぜほかの猫たちまでも「かあいさう」で、更に獅子まで「気の毒」なのか、という問題が出せると思います。これは、もし子どもだった頃に出されたら答えられなかったであろう問題ですが、いまは答えられるような気がします。つまり――

2012-05-03 04:01:43
上田上葉 @waferwader

――釜猫は差別を受けいじめられているので「かあいさう」です。ほかの猫たちは釜猫を思いやる心がないので「かあいさう」です。獅子は強権的に自らの正義を押しつけることしかできないので「気の毒」です。『猫の事務所〔初期形〕』の語り手の科白を、私はそう受け止めました。

2012-05-03 04:05:17
上田上葉 @waferwader

要するに『猫の事務所』では、獅子を含めて誰一人として他者の背景に思いを馳せることがないのです。慈悲(思ひやり)を欠いたこの状況を、最後に語り手は、初期形では「かあいさう、かあいさう。」と歎き悲しみますが、月曜版(完成形)では「ぼくは半分獅子に同感です。」と一歩引いて見ています。

2012-05-03 04:10:24
上田上葉 @waferwader

ということで、「魂の脱植民地化」を考えるコンポジウム「原発事故で何が吹き飛んだか? ~日本社会の隠蔽構造とその露呈~」終了後の主催者たちの発言を見て、『猫の事務所』の獅子の科白が出かかり、やめて「みんなみんなあはれです。かあいさうです。かあいさう、かあいさう。」と思ったのでした。

2012-05-03 04:15:58
前へ 1 2 ・・ 10 次へ