野家啓一氏「実りある不一致のために」に関する島薗進氏の呟き

『学術の動向』5月号特集に関する島薗進氏(@shimazono) の考察の続編に当たります。 今回は野家啓一氏(日本学術会議哲学委員会委員長)が書いた「実りある不一致のために」という文章についての内容です。
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島薗進 @Shimazono

1野家啓一氏(日本学術会議哲学委員会委員長)「実りある不一致のために」『学術の動向』5月号。「おそらく政府関係者にせよ専門科学者にせよ、念頭にあったのはパニックによる社会的混乱の防止ということであったに違いない。しかし、そこで目立ったのは、むしろエリートたちの混迷ぶりであった」

2012-05-26 09:18:47
島薗進 @Shimazono

2野家啓一氏(東北大前副学長)「実りある不一致のために」『学術の動向』「もどかしく思ったことは、原発事故から数ヶ月に被災者が最も知りたかった放射線被曝の人体への影響について、国民目線に立ったわかりやすいメッセージと説明が、皆無とは言わないまでも少なかったことである」

2012-05-26 09:19:09
島薗進 @Shimazono

3野家啓一氏「実りある…」理系学協会の対応は「海外の風評被害」に対処することは必要だとしても、「正確な情報を発信すべきは、むしろ国内の原発被災地域に対してではなかっただろうか」学術会議も同様(昨年5/19の私のブログ記事「福島原発事故災害への日本学術会議の対応について」)

2012-05-26 09:20:01
島薗進 @Shimazono

4野家啓一氏「実りある不一致のために」昨年9/18同委員会主催シンポ「原発災害とめぐる科学者の社会的責任―科学と科学を超えるもの」の開催はこのようにして生じた「「信頼の危機」を回復するためには、何よりも科学者の責任を明らかにする」ことから始めねばならない、と考えたからである」

2012-05-26 09:20:20
島薗進 @Shimazono

5野家啓一氏「実りある不一致のために」『学術の動向』5月号。「もちろん「科学者」には、当然ながら人文・社会系の研究者も含まれている。今回の原発事故に関しては、専門家ではないにせよ、リスク・コミュニケーションの面で人文・社会科学者も責任の一端を担うべきだからである」

2012-05-26 09:20:54
島薗進 @Shimazono

6野家啓一氏「実りある不一致のために」『学術の動向』5月号。「「科学と科学と超えるもの」という副題については、多少の説明が必要であろう。20世紀後半から科学・技術は社会システムの不可欠の一部として機能しており、科学技術政策の立案は国家の進路を左右するまでになっている。」

2012-05-26 09:21:42
島薗進 @Shimazono

7野家啓一氏「実りある不一致のために」「それゆえ、科学・技術のあり方は単に学問的領域のみで自己完結することはできず、政治・経済・社会の諸領域と交錯し、さらに価値や倫理の問題とも深く絡み合っている。いわゆるトランス・サイエンス(領域横断的科学)的」な問題状況である。」

2012-05-26 09:21:49
島薗進 @Shimazono

8野家啓一氏「実りある不一致のために」「トランス・サイエンス的問題に対しては「専門家任せ」にすることはできず、科学・技術の「シヴィリアン・コントロール」という視点の導入が不可欠である。もちろん、それは非専門家(地域住民、市民)に専門家と同水準の科学的知識を要求することではない」

2012-05-26 09:22:41
島薗進 @Shimazono

9野家啓一氏「実りある不一致のために」「そこで求められているのは、専門家の意見に対して率直な疑問を呈する…生活者の感覚に基づいたチェック機能と言い換えてもよい。その点では、医師と患者の間の「インフォームド・コンセント」や司法の場面での裁判員制度が一つのモデルとなりうる」

2012-05-26 09:23:09
島薗進 @Shimazono

10野家啓一氏「実りある不一致のために」「もちろん、シヴィリアン・コントロールには地域住民・市民の側にもそれなりの自覚と責任が要求される。科学・技術が「ゼロ・リスク」ではありえず、必ずや社会的リスクを伴う以上、住民には一定のリスクを負担・分担することが求められるからである。」

2012-05-26 09:23:40
島薗進 @Shimazono

11野家啓一氏「実りある…」「現代社会はすでにU.ベックの言う「リスク社会」の段階に達している。…そこでは、最新の科学的知見に基づいた情報の公開を通じて、リスクの分配が公共的議論に委ねられねばならない。昨今の瓦礫処理…騒動は、そうした自覚と責任の欠如を示すものであろう」

2012-05-26 09:23:59
島薗進 @Shimazono

12野家啓一氏「実りある…」最後に自らは脱原発の立場としつつ「現実的解決」が必要と。「そのためには、原発推進と反原発の間の「不毛な対立」を乗り越えて「実りある不一致」へ向けて歩み寄り、正確な科学的データに基づいて可能な選択肢を提示することが必要であろう」とまとめる。

2012-05-26 09:24:24
島薗進 @Shimazono

13野家氏の論は狭い範囲の専門家にリスク評価を独占させようとしてきたことの問題を指摘しつつ、人文・社会科学者の責任を指摘。また、哲学委員会がこの問題に積極的に取り組んでいこうとしてきたことを示し、9/18シンポ「原発災害とめぐる科学者の社会的責任」の意義を確認している。

2012-05-26 09:25:05
島薗進 @Shimazono

14野家氏の議論はシンポの主題を敷衍して多くの問題に論及し、論者の懐の深さがよく現れた論。後半でリスコミ論を「科学技術のシヴィリアン・コントロール」と「リスク社会」の問題へと広げて刺激的だが、紙数の限定故かどちらも今回の事態に即した具体的論点としては論じたりない感。

2012-05-26 09:25:50