bcr小ネタ

ラブコメまとめ。垂れ流し。
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霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 「そんなに嫌な夢なのか?」「……」黒髪の男は、膿んだ沈黙を重い溜息で破った。ゆるゆると首を振り、頭を抱えてうなだれる。小枝の爆ぜる音がどこか白々しく辺りに響いた。「ああ……相変わらず同じ、嫌な夢だ……同じ女が私を見つめて泣いている。それだけだ」

2012-06-07 21:33:38
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 「それだけの夢で、どうしてそこまで気が滅入るのやら」「知らん、私が聞きたい」黒髪の男をちらりと見て、隣の男はやれやれと肩を竦めて焚き火に枝をくべる。「あれじゃね、前世とかの恋人が出てるとか」「あれが恋人……なあ」黒髪の男は声をひそめ。「違う気がする……」

2012-06-07 21:38:21
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 「なんだその確信」「知らん。だが」黒髪の男は顔を上げ、揺れる火をじっと見つめる。夜闇にも負けず深い黒の瞳は、目の前にある光源を眩しげに写していた。それは金ではなく、鮮やかなばかりの茜色である。黒髪の男はそのことが、何故だか酷く胸に刺さった。

2012-06-07 21:41:34
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 男は近頃よく、夢を見る。相棒に打ち明けたような女の夢だ。金の髪をした美しい女が、幼い子供のようになりふり構わず泣き喚いている。縋るような目を向けて手すら伸ばして男のことを求めるのだが、夢の中で男はそれに応えることができないでいる。

2012-06-07 21:45:51
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 女は人に見えた。しかし人ではない、何か恐ろしいものであると分かっていた。あれは人が触れてはならない禁忌であると本能で理解ができていた。だが、男の魂とも言うべき最も深いどこかでは女を強く求めていた。女に駆け寄り抱き締めてもう何の恐るるべきものはないのだと

2012-06-07 21:48:56
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL ひたすらに宥め慰めてやりたかった。あの細く滑らかな金の髪を梳き上げて、小さな耳にかぶりつくようにして愛、らしきものを叫んでしまいたかった。だが夢の中の男は臆病で動けずじまいだった。いつもいつもその夢から覚めた後酷い後悔に襲われた。

2012-06-07 21:52:12
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 男のそんな苦悩を跳ね飛ばすように、相棒はその背中を乱暴に叩く。「ま、胡散臭い夢だとは思うけどよ。こんな根無し草同士のあてのない旅だ。夢ん中じゃなくそのうち出会えたりするんじゃねーの?そん時に考えろよ。手を取るか、剣を取るか」「ああ……」そうかもしれんな、と

2012-06-07 21:57:55
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 口角を歪めて答えようとした、その時だった。「!?」瞬間、空気がぎぢっ、と固形化した。夜闇は深まり辺りには厭な腐肉の匂いが立ち込める。土の上を何か軟体の物が這うようなざり、ざり、とした微かな音が生じた。空気はすでに生温い。黒髪の男とその相棒は、各々の剣に

2012-06-07 22:04:21
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 手をかけ立ち上がる。傍に伏せていた女もまた身を起こし、錫杖を構える。血のように紅い瞳でもってして男たちと同じ方向を睨む。草薮の向こうから届く濃密な腐臭と土を掻く音は次第に次第にかさを増し、男たちの皮膚と鼓膜を穢していった。

2012-06-07 22:09:55
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 「何だこれ……こんな所に魔物がいるなんざ聞いてねえぞ」「それにとても……禍々しい」「しかし動きはトロそうだ」勝てずとも逃げればいい、黒髪の男は続けようとして「そウはイカなイ」背後に生じた気配を切り裂いた。確かな手応えと、おびただしい返り血。

2012-06-07 22:15:47
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 腐った脂と酸の臭いが目立つ嫌に黒ずみ粘ついた血液だった。袈裟懸けに皮と肉と骨を裁ったはずだった。しかし気配の元は体を斜めに切り裂かれてもなお、へらへら笑って黒髪の男を睨めつけていた。その姿を見て、男は唾を飲むことすら忘れてしまった。相棒も女も同様であった。

2012-06-07 22:21:24
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 魔物であった。黒いローブを頭から被った、死体のような出で立ちのひどく醜い魔物であった。それがえも言われぬ幸福に満ちた笑みを浮かべて男を見つめているのである。悲鳴すら上げずに切り裂かれておきながら、傷に、今もなお溢れ続ける血に頓着するするそぶりすら見せない。

2012-06-07 22:24:59
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 足元の血だまりを広げながら、魔物は憎しみをこめて笑う。「グッグッグッ……お久シゅウござイマす」そしてその場に恭しく跪くのだ。黒髪の男に首を垂れて。男と仲間たちは狼狽し後ずさる。「何だ……貴様は」「オ忘れタぁ酷イこトで。マ、別に構イやしマせンガ」

2012-06-07 23:04:30
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 魔物を中心に血の海が広がり続ける。地表を空気を汚し尽くさんと増す悪意の塊のような粘液。男たちの足元にもそれが達し浸されつつあったが、彼らは微動だにできず固唾を飲んで魔物の動向を伺っていた。訝しんでいた。しかし魔物は笑続ける。「人、とハイえ……

2012-06-07 23:13:15
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 面影がアルッてもンじゃねエよナ……懐シい顔ガ三つ……いイネぇ……最高だ」「何の話だ、俺らはてめえみてえな気色悪い魔物に覚えなんざねえぞ」「口ノ悪サも変わラナい……」魔物はそこで顔を上げ、黒髪の男、軽薄そうな男、赤目の女を再度見比べ満足げに頷くのだった。

2012-06-07 23:16:46
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 「単刀直入二申し上ゲまショう。お迎エに上ガリまシた」「何」魔物の言葉に男は眉を顰める。「貴方様ハ我らガ王……どウぞ我らヲお導キ下さイ」魔王様、と魔物は確固たる言葉を紡いだ。男はそれを鼻で笑うのだった。「何を世迷いごとを。魔王だと?私は人間だ

2012-06-07 23:28:48
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 馬鹿げたことを言うな化け物が」「マ、そウなリますヨネ」剣を、杖を構えて殺気を募らせる男たちに、魔物ははあ、と溜息まじりに視線を投げた。しかしそこには蠢く無量の歓喜があった。「デは魔王様モトいベルゼメトローム様。ジン。ヴァネッサ」魔物はふらりと立ち上がる。

2012-06-07 23:35:17
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL そうして手を広げ、感謝するかのように、懺悔するかのように、憎悪を踏み躙るかのように、魔物は傷んだ顔に笑顔をたたえて言ってのけるのだ。「ジャ、いつモ通リ」死んでください。一瞬のことであった。

2012-06-07 23:39:36
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 「アー……ダルい仕事だなァ」自身の血と、その他の血に塗れながら魔物はぼやく。辺りはすでに血の海だった。誰の物ともしれぬ肉の塊が転がり、ひどい死臭が立ち込める。惨事を改めて見渡して魔物は我ながら、と前置きしてから感嘆の息を漏らす。

2012-06-07 23:48:02
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 鮮やかな手際だった。反撃を許さず逃亡も断ち、完膚無きまでに殺し尽くした。女の方はそれほど恨みもないし生かしておいてもよかったのだが、まあついでというものだ。少しばかり悪いなあ、と思うだけで明確な罪悪感など湧くはずもない。

2012-06-07 23:52:22
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL その場にしゃがみ、問いかける魔物。地に転がる首を摘み上げ、向かい合うようにして掲げてみる。首の黒髪は血に濡れ、夜に輝くようでもあった。「で、ドウっすか?思イ出しまシタ?」「ああ」首が目を見開き、にやりと笑ってみせた。首はくつくつと楽しげな笑い声をもらす。

2012-06-07 23:56:30
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 「さて、これで何度目だろうな。お前に殺されるのは」「二桁超エてカラ覚エてねえッスわ」「奇遇だな。私もだ」首と魔物は談笑を交わす。「あの子はどうだ、元気か?」「……ピンピンしテます」「そうか、そうか」首は愛おしげに目を細める。魔物は不愉快げに嗤うばかりだった。

2012-06-08 00:00:30
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 「では今後も私達が魔物として、魔王として復活するその日まであの子のことをよろしく頼む」「ハイハイ」投げやりに相槌を打つ魔物である。首はその反応に、確信を得たとばかりに微笑むのだ。「お前はあの子と共に生きることしか望んでいない。私達が邪魔だから始末する。

2012-06-08 00:05:16
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL そこは別に恨むわけではない。人の生など早めに終わらせて魔物として生まれる機会を待つべきだ。だからお前には感謝している」「何ガ……言イタい」首は瞳を閉じて。「どれほどの月日が流れようと、あの子の心は私の」魔物はその首を地面に叩きつけて、力任せに踏み潰した。

2012-06-08 00:09:30
霜野おつかい@イケナイ教アニメ化! @otukai

@sousakuTL 頭蓋骨を踏み砕いて、脳漿を踏みにじり、業火を呼び出し焼き尽くした。かつての主の痕跡をこの世から消し去るために、魔物は細心の注意を払って念入りに始末した。嫉妬心からくる衝動では決してなかった。一帯の森を焦土に変えるその頃には朝日が顔を出し始めていた。

2012-06-08 00:14:48