山本七平botまとめ/なぜ情報氾濫社会にあって盲目同然となってしまうのか?/~情報が氾濫すればするほど、耳目を閉じる”感覚”絶対主義者たち~

山本七平著『「常識」の研究』/Ⅲ常識の落とし穴/116頁以降より抜粋引用
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【情報の価値】様々な場合にその例が見られるが、我々には違和感を感じる記述・統計・報告などを、なかなか受けつけない体質がある。主婦などが「肌で感じた事と全く違う」といった表現で、政府が発表した数字などを拒否している記事が新聞に出るが、大変に面白い現象だと思う。<『「常識」の研究』

2012-08-03 17:58:31
山本七平bot @yamamoto7hei

②というのは、こういった主婦には、巨視的に把握された数字と自分の直接の感触との間に違和感があって当然、否むしろ違和感があるがゆえにその数字が大切なのであり、違和感を感じないなら、その数字はむしろあやしいものだといった発想が全くないからである。

2012-08-03 18:21:10
山本七平bot @yamamoto7hei

情報は、自己の感触と違うものほど価値がある同じならある意味では無用である。だがこの自明のことが無視され、前記の傾向が極限まで行けば、その人は自己の感触以外は一切信頼せず、他の情報を全て拒否するか、自己の感触に適合した情報にしか耳を傾けないという態度になって不思議ではない。

2012-08-03 18:58:59
山本七平bot @yamamoto7hei

④そして、これは実質的には感触のみであるから、このとき人は盲目同然となり、自己の触覚で知りうる範囲内だけで判断を下して行動に移る。これが集団的に起これば、簡単にパニック状態を現出して当然であろう。

2012-08-03 19:21:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤現代は、情報社会だという。しかし情報は、受けとる側にその意志がなければ伝達は不可能である。この前提を無視した上で、その社会に情報を氾濫させ、取捨選択を各人の自由にまかせれば、人々は違和感を感じない情報だけを抜き出してそれに耳を傾け、他は拒否するという結果になる。

2012-08-03 19:58:36
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥それは結局、その人の感触の確かさを一方的に裏づける作用しかしないから、情報が氾濫すればする程、逆に人々は自己の感触を絶対化していく。これは結局、各自はそれぞれ自分で感触し得る世界にだけ往み、感触し得ない世界とは断絶する結果となり、情報の氾濫が逆に情報の伝達を不可能にしていく

2012-08-03 20:21:07
山本七平bot @yamamoto7hei

それでいて本人は、自分は多くの情報に通じ、社会の様々なことを知っているという錯覚はもっている。それが感触に基づく判断を社会的に刺激して、それだけで断定的評価を下す結果となり、情報の受容をさらに困難にする

2012-08-03 20:58:36
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧この悪循環は多くの国で問題とされているが、おそらくこの面での最悪の現象を呈していると思われるのが日本で、不思議に前記のような指摘はなく、これをどう解決すべきかという提案もない。そしてその中で、この点への問題意識すらもっていないと思われるのが、実は企業である。

2012-08-03 21:21:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨最近、少し必要があって、大分前に流行した企業批判・企業性悪論を調べて何より驚いたことは、日本の企業がこれに対して何ら適切な反論も反批判も展開していないことであった。展開するもしないも、どう対処してよいかわからず、茫然自失の態とも見えた。

2012-08-03 21:58:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩確かに企業批判といった”世論”に出くわすのは初めてであろう…だがしかし、我々から見れば…PR誌や、膨大な宣伝費をかけた新聞、テレビ等々による企業のイメージアップは、既に長い間続けられていただけに批判への対処の方法さえ知らなかったと見えたのは、少々意外であった。

2012-08-03 22:21:26
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪しかし一面、当然とも思えた。というのは前記のPR誌等を調べて見ると、結局、相手に受け入れられそうな情報しか提供しておらず、違和感を感じそうな面は避けているから、相手が今まで感触的にしか企業を把握していなくても、不思議でないからである。

2012-08-03 22:58:47
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫ところが、感触的把握は対象への客観的理解と、それに基づく評価ではないから、何かの機会に一転して別の感触をもった場合、この新感触が違和感を感ずる情報は、一切受けつけなくなってしまう。従って企業は、従来の方法では対処できなくなり、同時に対処の方法を失ってしまう。

2012-08-03 23:21:10
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬では、これに対してどう対処すればよいのか。強い敵意と違和感のため、相手が絶対に受けつけないメッセージを、いかにして相手に伝えるか。その方法は一つしかない。

2012-08-03 23:58:24
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭これは多神教のローマに進出した初代キリスト教徒が迫害と殉教の中で会得した方法で、その第一歩は「相手が”意識していない”相手の前提を的確に把握し、まずそれを破壊する事」である。これに成功しなければ、相手は全ての伝達を拒否して当然だから、これを失ったPRは一切無駄なのである。

2012-08-04 00:25:18
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮とすると、日本の企業は今まで膨大なPR費を浪費しつつ、それによって企業批判を間接的に育成していたことになる。何とも奇妙な話ではないか。(終)

2012-08-04 00:58:21