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真上犬太氏(@plumpdog)によるtwitter連載小説 第1回目
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真上犬太 @plumpdog

《時は未来、所は日本。そのとき世界は、人間以外の知性と、共に歩くことを余儀なくされていた。人よりも優れた、人の奴隷と共に》

2012-09-13 23:58:29
真上犬太 @plumpdog

◆明け方。でたらめに建てられたビルの隙間から、払暁の光が漏れ出て、大通りを照らしていく。目抜き通りにはすでに屋台が出ていた。風雨にさらされ、擦り切れたのぼり。赤地に白で書かれたギョーザドッグ文字が、冷えた空気に翻る◆

2012-09-14 02:00:57
真上犬太 @plumpdog

◆ 合成樹脂とアルミフレームの粗末な屋台を建てる売り子たちが、朝の挨拶を交し合う。この辺りに店を出すものは顔見知りがほとんどだ。皆、朝風に和毛をそよがせ、感情豊かに尾を振りたてながら、慣れた手つきで開店準備を進めていた。 ◆

2012-09-14 02:07:15
真上犬太 @plumpdog

◆「おじさん、もう開いてる?」擦り切れたモップのような毛に包まれた犬面が、屋台の向こうから顔を上げる。『もうちょっと待っとれ、今火を入れる』シーズーに良く似た顔を載せた人型は、鉄板の端っこに置かれたスピーカーから不機嫌そうな声を漏らした。◆

2012-09-14 02:14:01
真上犬太 @plumpdog

◆『もう上がりか』「ん。昨日は三人だったし、まずまずよ」『たんまり払ってもらったか』「まぁね。どっかのお偉いさんだったみたい」そう言いながら、彼女は破顔する。「ノミ取りだの検疫だのうるさいったら。店長は結構吹っかけてたみたいだけど、あたしにはご祝儀もなし」◆

2012-09-14 02:16:52
真上犬太 @plumpdog

◆『じゃあ、たんまりってのは?』「そこはほら、あたしの魅力と実力で、さ」『……掏ったのか?』「まさかぁ」くねり、と体をゆすると、シーズーの片耳が、わずかに跳ねた。「忘れられないように、延長もたっぷりね」『はは、そりゃいい』「と言うわけでお腹ぺこぺこなんだ。ギョーザドッグ早くね」◆

2012-09-14 02:20:41
真上犬太 @plumpdog

◆目の前で焼けていく円筒形の代物を、興味深そうに見つめる視線。その顔は一筋の毛もなく、目の前の屋台主のようにマズルも無い。若い人間の女性、そう見えた。ある点を除いて。◆

2012-09-14 02:23:51
真上犬太 @plumpdog

◆頭頂部に生えた、三角の耳。雉猫のそれを思わせる外耳と、その色に準じた、長い尻尾。それらが作り物ではなく、生得のものであると示すように、時々アトランダムにそれぞれのリズムを刻む。耳は震え、尾は揺れる。◆

2012-09-14 02:28:42
真上犬太 @plumpdog

◆『ほれ、ドッグとルートビア』「ありがと。んじゃまた明日」『ああ、明日な』ほんのりと漂う、にんにくと甜麺醤(てんめんじゃん)の香りに鼻をひくつかせ、彼女は街を歩く。くびれを強調するレザーのスーツだけが仕事の名残。チークもシャドーもすでに落としていたが、その美貌は陰りも見えない。◆

2012-09-14 02:33:57
真上犬太 @plumpdog

◆彼女の目の前で、町は明けていく。通りに目立つ毛むくじゃらの人々。その中で一層目立つ姿。それを意識することもなく、堂々と。昨日の晩に降った雨で街路は濡れ、道の端にはごみが溜まっている。アスファルトはとうの昔にひび割れ、不器用な補修が一層みすぼらしさをかもし出している。◆

2012-09-14 02:40:06
真上犬太 @plumpdog

◆「ああ、今日もいい天気だ」その町並みを見ながら、彼女は、満足したように笑う。スーツの下に隠した秘部や、豊かな乳房に刻み込まれた、情事の痕跡すら、いとおしむように。◆

2012-09-14 02:41:40
真上犬太 @plumpdog

◆その視界に、何かが、入り込んだ。何かがこちらを目指して歩いてくる。彼女の位置からは顔は見えない。小さく、頼りなく、みすぼらしい姿。◆

2012-09-14 02:46:44
真上犬太 @plumpdog

◆子供、最初はそう思った。いや、そんなバカな。『あたしたち』に『こども』など居るはずが無い。そんな逡巡を突くように、それは彼女の目の前に立った。血にまみれた顔を上げて。◆

2012-09-14 02:48:29
真上犬太 @plumpdog

◆「あ……あんた、だいじょうぶ?」声がかすれている。声を掛けられた相手は、茫洋と、こちらを見た。麦わら色の毛、猫とも熊のようにも見えるマズル、側頭部に付いた、長い耳。そして、額から溢れた血が、彼に涙を流させていた。◆

2012-09-14 02:50:32
真上犬太 @plumpdog

◆「……ソフィ」ため息のように、漏らされた声。「え?」うろたえたこちらに、そいつは、安堵して笑いかけた。「ソフィ……探したよ」「あ、あんた、何言って……」それ以上続けることは出来なかった。小さな体が、前のめりに倒れる。◆

2012-09-14 02:53:44
真上犬太 @plumpdog

◆「ちょ……あんた!?」手にしていたタンブラーが落ちる。油紙に包まれたドッグと一緒に、全てがぶちまけられる。血と、にんにくと、アニスの臭いが混ざり合って漂う。「しっかりして!」 彼女は、小さな体を抱き起こした。「誰か! 手を貸して!」◆

2012-09-14 03:00:05
真上犬太 @plumpdog

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2012-09-14 03:02:47