〔AR〕その12

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その11(http://togetter.com/li/373726) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

「お邪魔しますよ」 阿求の部屋に通された客人は、珍しい人物だった。 「あら、豊聡耳さんではないですか。こんにちは」

2012-09-21 21:01:32
BIONET @BIONET_

稗田家は自らの蔵書を解放しているため、それを見るために様々な人妖が顔を見せるが、この仙人、豊聡耳神子が普通に訪ねてきたのは、初めてのことだった。 普通でない訪ね方があったのかというと、それは昨シーズンの冬に行われた三者会談であるのだが。

2012-09-21 21:04:40
BIONET @BIONET_

「ずいぶん秋めいてきましたが、まだ日が射している間は暑くてかないませんね」 「確かに。私は気候の安定した仙界に住んでいるから、下界の残暑は堪えるわ」 そうこぼす神子だが、表情は実に涼しく、その玉の肌には汗の一つも伺えない。仙人と人間の代謝は違うようだった。

2012-09-21 21:08:25
BIONET @BIONET_

「それで、本日はどのようなご用件で? もう一度幻想郷縁起を改めますか?」 「いえ、そちらはもう、以前布都が借りてきたものを読んで頭の中に入っています。特に問題もありませんでしたからね。今日は、君に見解をうかがいたい案件があってね」 「はい、なんでしょうか?」

2012-09-21 21:13:00
BIONET @BIONET_

まだ内容はわからないが、かの偉人に意見を求められるというのは、阿求にとって不可思議さと愉快さが入り交じった感情を抱かせる。 「稗田阿求、君は最近、神霊とも幽霊ともつかない、不可解なものを目撃することはない?」

2012-09-21 21:16:04
BIONET @BIONET_

「? それは、いったいどういうものでしょうか?」 「そうか、私の言葉に心当たりがあるようなものは見ていないようね」

2012-09-21 21:20:13
BIONET @BIONET_

阿求の返答は実に率直で簡潔だったが、それに対して神子は、いくつもの情報が得られたかのように一人で頷いた。今この一つの問いかけで、神子は阿求に記憶を想起させるようにしむけ、それを自らの鋭い「耳」でもって聞き取ったのだ。

2012-09-21 21:20:24
BIONET @BIONET_

「それならばそれでよろしい。少なくとも、人里で暮らしていて、そのような話は人々の口に上っていないということだね」 「はぁ……」 この一対一での「話の早すぎる」受け答えは、慣れないと全く会話のペースをつかめない。阿求も、あまり慣れているとはいいがたい。

2012-09-21 21:25:18
BIONET @BIONET_

「あの……その不可解なものというのは、果たしてなんなのですか?」 「不可解なもの、としかいいようがないね。最近、下界を散策しているとき、何故か度々それを知覚するのよ。

2012-09-21 21:33:03
BIONET @BIONET_

妖怪でもない、精霊でもない、妖精でもない、神霊でもなければ、幽霊でもない。なにせ、存在を知覚しても、姿があるわけでもないし、匂いや音もない。さらには触りようもないので、結局よくわからないのよ……あ、決して私の気のせいで片づけることはなきよう」

2012-09-21 21:44:39
BIONET @BIONET_

阿求はびくりと肩を震わせる。さりげなく思考を読まれると驚かざるを得なかった。 「さて問題だ。果たしてそのようなものに何か心当たりはあるだろうか?」 「ううん……さっぱりわからないです……わからないですが」 本当に阿求には全くもってよくわからない話だった。ただ、こう思う。

2012-09-21 21:50:11
BIONET @BIONET_

「それはまるで、妖怪が妖怪として定義づけられる前の、曖昧模糊な状態そのままであるように思えます」 「……なるほど、面白い捉え方です。その見方によるならば、私が感知した何かは、妖怪の原材料とでもいえるものでしょうか」 神子の発言は、ややもすればセンセーショナルだ。

2012-09-21 21:55:39
BIONET @BIONET_

原材料って……それではまるで、妖怪を作ることができると言っているようなものではありませんか」 阿求の発言も少々飛躍にすぎている。だが、逆転の発想として、神子相手に冗長な繋ぎは必要ない。

2012-09-21 22:02:00
BIONET @BIONET_

「卵と鶏の議論だけど、人間が妖怪を作ってきたのは、事実の一側面にすぎないとはいえ、歴然たる真実。無論、自らの驚異になりうるものを進んで作るわけがなく、結果的にそうなったケースが大抵でしょう。普通は、妖怪は集団の中で自然に生まれるもの……」

2012-09-21 22:06:25
BIONET @BIONET_

「豊聡耳さんは、誰かがそれを使って妖怪を生みださんとしているとでも?」 「ほう、すぐにそこまで思い至るのは見事。『君達』がもう二百年早く生まれていれば、私の運命は変わっていたかもしれません」 「さて。貴方がこの場に仙人として現れることはなかったかもしれませんよ?」

2012-09-21 22:10:44
BIONET @BIONET_

こちらの背景を根源まで見通す、そのいたずらな視線に呆れ、阿求は皮肉を返した。 「まぁいいでしょう。君が述べた考えは、一つの可能性の行き着く先です。もう少しまとめると、私の懸念は……なにが起こるかわからないということ」 「どういうことです?」

2012-09-21 22:18:31
BIONET @BIONET_

「君が提示した懸念は確かに大いなる驚異をもたらすことだろう。だが、誰かが何かを起こす、その大筋がわかっていれば、どこかに対処すれば済む話。可能なことをやればよい。本当に困るのは、何かが起ころうとしているときに、何が起こるかわからない状態なのです。それでは、手の出しようもない」

2012-09-21 22:24:33
BIONET @BIONET_

上に立つものとして、広い視野で見たときの見解だろう。阿求も元を正せば、政治の近くで仕事をしていたようなものであり、その考えはなんとなく理解できる。 実際、神子が述べていることは、ただの杞憂で片づけるには少々捨ておけない気がしてきた。阿求は、流石に真顔になり、茶化すことなく頷いた。

2012-09-21 22:35:12
BIONET @BIONET_

「しかし、貴方の懸念はわかりますが、実際現状何もわからない状態では何をしようもありませんね。だからこそ懸念されるのでしょうが……そもそも、何故、私にこんな話を?」

2012-09-21 22:40:55
BIONET @BIONET_

「君は評判の知識人だからね。まず君に話を聞くのが効率的だと思ったまで。この後、君以外にも何人か声をかけてみるつもりよ。ただ、君に最初に声をかけたのは正解だった。得られた知見は予想以上に有意義だったよ」 「お褒めに与ったと解釈させていただきます」

2012-09-21 22:41:05
BIONET @BIONET_

ひとまず、自分の言葉が相手の利になったようなので、その点は阿求は素直に喜んだ。 「そうですね……お返事の確約はできませんが、私の方から紫様に今の話を伝えてみたほうがよさそうですね」

2012-09-21 22:46:28
BIONET @BIONET_

自分一人の認識では手に余ると考えた阿求は、ごく自然に、この手の面倒事にはこれ以上ないくらいの適任者を選出した。 それに、神子がやや目の色を変えて食いつく。

2012-09-21 22:52:22
BIONET @BIONET_

「紫……八雲紫のことですね? ふむ、彼女の見解も是非とも聞いてみたい。というより、まず私は彼女と直接会合する義務がある。それは、彼女の方にもね」 「あれ、紫様、未だに貴方にコンタクトとってないのですか? てっきり既にナシがつけられてるかと思ってましたよ」

2012-09-21 22:56:23
BIONET @BIONET_

「はい。向こうが避けているのかどうかはしりませんが、幻想郷の実質的な施政者ともいうべき彼女に会わないという選択はありません」 「幻想郷の施政者になるつもりはないと、以前おっしゃいませんでした?」

2012-09-21 23:02:04
BIONET @BIONET_

「その考えは変えていませんよ。ただ、それとは別に、彼女が何者なのかは知っていて損はないでしょう」 「うーん、その考えを否定はしませんが、あの方は言っちゃなんですけど面倒くさいお方ですから、直接あったら後悔するかもしれませんよ?」

2012-09-21 23:02:17