ゴブリン退治

火星から血と脂の薫りの重圧ファンタジーが届いた ゴブリンなめんな
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MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

あらすじ)コンラートの息子ケビン、魔術師、浮浪者の三人は、村を殲滅したゴブリンの足跡を辿り、その巣を襲撃する。

2012-11-04 15:26:47
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

前回の最後】浮浪者は死体が握っている剣をケビンに示した。「拾っておけよ」「ああ」ケビンはやや上の空で従う。浮浪者は道にしゃがんで、侮蔑的に言った。「調べるまでもない。ご覧の通り、考え無しの連中だ」点々と散らばる血痕やゴミ屑、草木を破壊した跡が続いているのを指差す。「追っていくぞ」

2012-11-04 15:29:32
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

三人は不快な道中をほぼ無言で消化した。腐敗物、肉片、悪臭が常について回る獣道だ。開けた農道から徐々に藪や木々のあわいへルートが逸れ、薄暗がりへと誘い込まれてゆくかのようだった。魔術師は浮浪者が呟いた「オーブ」について気にしており、何度か、浮浪者からより詳しく聞き出そうとした。

2012-11-04 15:33:50
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「どちらにせよお前らには必要の無いものだ。オーブとは言うが、石コロだ。町に持って行っても、買い手はつかんよ」と浮浪者は言い、詳しく語ろうとしなかった。ゴブリンの太子が携えているのだという。しかも、必ずだ。「殺して奪うか、盗むかする。俺には要りようだ」

2012-11-04 15:52:00
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

やがて彼らの前方に急な下り斜面がぶつかった。彼らは茂みに身を潜め、下の様子を伺った。そして山肌に口を開けた洞穴を確認した。洞穴の両脇には人骨を結びつけた杭が立ち、周辺には炊事の焚き火の跡が複数ある。洞穴周辺の草木は薙ぎ倒され、押し潰されて、饐えた草木の悪臭が彼らのもとまで届く。

2012-11-04 16:29:17
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

放置された鍋で何が煮込まれていたのか、今更三人が話題にする事は無い。門番役のゴブリンは二匹。どちらにせよ、今この時、降りて行って攻撃を加える事はない。太陽の南中を待つのだ。彼らは音を立てぬよう後退し、周囲に別の入り口が無いか探した。確認できた限りでは、他に穴は無い。

2012-11-04 17:09:02
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

川をまたいだ向こう岸に乾いた地面があり、落雷の倒木がおあつらえ向きのシェルターとなっていた。三人はそこでキャンプをした。放浪者は二人に指示して、数種類の茸と、食べられる木の皮を集めさせた。洞穴からは十分に距離をとってあるが、警戒して火は使わず、粗末な食事となった。

2012-11-04 17:21:37
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「やつらの棲家……洞穴といっても、お前らが想像するようなものじゃ無い」放浪者は言った。「洞穴の下には、蟻の巣のように広がる通路や住居がある。ずっとずっと広く、複雑だ。地面の下で奴らは人知れず領土を拡げていく。そして今回のように、機会を見ては、地上へ噴き出す。人間の世界に」

2012-11-04 17:26:16
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「ゴブリンは地上近くにコロニーを作り、そこをいわば、人間社会に対しての前哨基地とする。そこで一番偉いやつが『太子』だ。襲ってきた中に、明らかに偉そうな、でかい奴がいなかったか。太子はそいつだ。オーブは太子の証だ。本来の使い途はそんなものじゃないが、奴らは理解していない」

2012-11-04 17:42:11
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「詳しいわね」「ああ」魔術師は食い下がった「なぜそんなに詳しいの?」「そんなに知りたいか」放浪者は思いがけず答えた。「俺は過去に二度、経験してる」「ゴブリン退治を?」「そうだ」「どこで」「ここじゃ無い」放浪者は目を閉じた。ケビンの寝息が聞こえる。「しっかり寝て、魔術を記憶しろ」

2012-11-04 17:48:53
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

かくして、真昼に彼らは再び洞窟を見下ろす斜面に戻った。見張りのゴブリン二匹は、汚い布を頭から被り、向かい合って胡座をかき、何か会話をしている。浮浪者は一人、斜面に張り出した樹木に足をかけ、弓に矢をつがえた。キャンプ中に作製した急拵えの武器だ。彼は一時間ほどしか睡眠を取らなかった。

2012-11-04 18:09:39
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

浮浪者は数分、そのままの姿勢を維持した。ゴブリンは会話に熱中し、賽子らしきものを地面に転がしている。浮浪者は矢を放った。狙い澄ました射撃はゴブリン一匹の首を横から貫通した。目の前の相手が喉を掻きむしって倒れるさまに仰天したもう一匹は、慌てて立ち上がり、警告の叫びを上げようとした。

2012-11-04 18:26:10
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しかし警告が発せられる事はなかった。迂回して斜面を降り、洞穴の側面へ達していたケビンが、浮浪者の射撃とタイミングを合わせて飛び出した。そして生き残ったほうの後頭部に剣を振り下ろした。つるぎはゴブリンの頭蓋を割り、まともな発語をできなくさせた。蹲ったところへもう一撃振り下ろした。

2012-11-04 18:30:18
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

そのゴブリンは二度目の打撃でもはや死んでいたが、ケビンはもう一度つるぎを振り下ろし、頭部を割って砕いた。さらに、その傍らで矢を首から生やして痙攣しているもう一匹のゴブリンの背中から剣を突き刺し、トドメをさした。ケビンは獣じみた息を吐き、肩を震わせた。その場に座り込んだ。

2012-11-04 18:37:04
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「上出来だ」浮浪者が斜面を滑り降り、合流した。魔術師も現れた。彼女はケビンと同じ場所に潜み、初撃で二匹を仕留め損なった時に、魔術を使う手筈だった。幸い奇襲は成功し、魔術を温存できた格好だ。ケビンは座り込んだまま、ぶるぶると震えていた。浮浪者は苦笑し「男になったぞ、お前」と言った。

2012-11-04 18:56:52
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

中から他の者が現れる気配は無い。浮浪者はケビンの肩を揺すって立ち上がらせると、ゴブリンの死体を引き摺り、茂みの中に隠した。気休めでしかないが、それはそれだ。浮浪者は死体から別の剣を盗み取ると、血脂で汚れたケビンの武器を交換させた。「そんなにショックか?これから、もっと殺すんだ」

2012-11-04 19:04:50

MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

浮浪者は洞窟の入り口付近に層をなしている硬い泥を掬い、上着になすりつけた。他の二人に目で促す。当然それはゴブリンの糞便であり、人の臭いで中のゴブリン達に勘付かれぬ為の用心だ。二人の顔は死人のように蒼ざめたが、黙って言われた通りにした。

2013-02-09 15:15:39
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

斜めに下る坂道はゆっくりとカーブしながら闇を深めてゆく。浮浪者は二人の数メートル前を進む。時折振り返り、ついて来い、あるいはそのまま待て、と合図を繰り返す。分かれ道。浮浪者は「待て」の合図。彼は数歩戻り、壁に背中をつけるようにして身をかがめる。奥からペタペタと足音が近づいてくる。

2013-02-09 15:18:38
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

闇に蠢いたものを浮浪者は素早く掻き寄せ、短刀で喉を裂いた。震えるそれをうつ伏せに地面に押し付け、背中側から心臓を刺してトドメを刺した。ゴブリンの子供だ。「かわいそうか」浮浪者は二人に訊いた。子供はその手に玩具を持っていた。紐で繋がれた人間の指だ。魔術師は吐き気をこらえた。

2013-02-09 15:29:27
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「奴らの巣作りは似たり寄ったりだ」浮浪者は説明した。「時計回りに、寝ぐら、倉庫、後宮の順に作る。ここで十字に分かれているだろ。つまり、まず行くべきは左の道だ。偉い奴は後回しにする。寝ぐらは細かく枝分かれしている。お前の眠りの魔術はそこで使うんだ」「詳しいのね」「そうとも」

2013-02-09 15:39:19
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