〔AR〕その16

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その15(http://togetter.com/li/385977) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

「……というわけで、どの作品を使っても構わないとのことです」 人里のカフェ。数日前と同じように、阿求とアリスは和気藹々と談話していた。 「そう、わざわざ悪いわね。私もあれから考えたけど、次第に貴方の提案の方が魅力的に思えてきてね。許可が出たのであれば、その線でやることにするわ」

2012-10-08 20:35:12
BIONET @BIONET_

「わぁ、それはめでたいです!」 「まるで、本人のように喜ぶのね」 苦笑するように、アリス。実際、阿求の表情の明るさといったら、太陽の妖精もかくやといったくらいに眩しい。 「いやー、これを機会にもっと先生の作品の素晴らしさが広まることを期待しちゃいますねー」

2012-10-08 20:37:14
BIONET @BIONET_

「そう言われると、作品選定も少し気を使わないといけないかしら」 「あ、いえいえ。アリスさんが良いと思われるものが一番ではないでしょうか。ちなみに、候補は決まってます?」 「そうね……この前紹介されたものの中では、一番新しいやつが丁度いいと思ってるわ。簡単に構成も考えているのよ」

2012-10-08 20:38:17
BIONET @BIONET_

「最新のものというと、『頼れるアルフレッド』ですね。確かに、あの作品は犬が主人公で、動物がたくさん出ますので、子供も安心して見られますね」 阿求の物言いはやや含みがあるが、これは『Surplus R』の作品の中に、時折凄まじく暗泥、陰鬱な傾向のものが存在しているためである。

2012-10-08 20:38:37
BIONET @BIONET_

ともすれば、トラウマになりかねないほど強烈な作品が紛れており、阿求もその点は考慮して、周囲に勧めている。 作風の広さも魅力ではあるのだが、流石に全ての作品を手放しで勧められるタイプではない。『Surplus R』はそういう作家なのだ。

2012-10-08 20:39:53
BIONET @BIONET_

「そうね。でもあの作品は、決して愛らしい動物の描写だけじゃないわ。主人公の犬を軸にして、周囲の登場キャラクター達が色々と考え、行動する様子が良いと思うの。作品のタイトルは、きっとそれを踏まえているのね」

2012-10-08 20:40:14
BIONET @BIONET_

「そうですそうです! 最初は主人公がみんなに頼りにされる話かなってタイトルに印象づけられますけど、読んでる内にあれ? そうじゃない? と思わせて、終わりの方になってタイトルの本当の意味が理解できるという……これは大人でも見応え十分だと思うんですよ」

2012-10-08 20:42:04
BIONET @BIONET_

我が意を得たり、と言わんばかりに、阿求は講談師めいて自らの膝を叩く。その様子を見てアリスは。 (ああ、この娘、よっぽど作品を直に語れる相手に飢えていたのね……) と、生温かい気分になった。アリス自身は、阿求と作品談義する気はないのだが、こうなるとなかなか引っ込みが付かないだろう。

2012-10-08 20:44:06
BIONET @BIONET_

阿求はまだ作品について言葉が止まらないようだが、アリスはそれを適当に聞き流しつつ、まだ一口も食べていないケーキに、初めてフォークを入れた。  はずだったのだが。 フォークの先端から返ってきたのは、硬い陶器の感触と、金属が擦れる甲高い音。 「あれ?」 「お姉さん、どうしたの?」

2012-10-08 20:44:36
BIONET @BIONET_

「いえ、ここにあったケーキが……って!」 視線を落としたアリスは、愕然とした。フォークを落とした先には、ケーキの影も形もなく、その横には、黄色いリボンをあしらった黒い帽子があった。 「アリスさんどうしまし……はうっ!?」 アリスの声に気づいた阿求も、異変に気づいた。

2012-10-08 20:46:00
BIONET @BIONET_

阿求から見て左側、アリスから見て右側のテーブル脇に、手づかみでむしゃむしゃとケーキを頬張る、帽子を被った少女がいた。 「こ、古明地こいし……」 「こいしさん、何してるんですか……」 「ケーキ食べてたよ」 「……そのケーキは、誰のかしら」

2012-10-08 20:47:48
BIONET @BIONET_

アリスは眦をひきつらせて、テーブルの端に顎を乗せる格好のこいしを睨む。 「誰のだろう……お皿に載ってたから食べていいのかと」 こいしはケーキを食べ終え、口元の食べ滓を拭うこともせずに首を捻った。 「地霊殿では、他人が座っているテーブルのものを勝手に取ってもよいルールでもあって?」

2012-10-08 20:49:56
BIONET @BIONET_

憤りと呆れが入り交じった表情で、アリスは刺々しく吐き捨てた。 「だってそこにあるものはさっさと食べないと、誰かに食べられちゃうわ」 「こいしさん、ボケてるのならそろそろやめてください。普通に窃盗です」 阿求は、本気で言っているのだろうな、と思いつつ、こいしを窘めた。

2012-10-08 20:51:50
BIONET @BIONET_

アリスは阿求の知り合いの中でも温厚な部類だが、この不作法には流石に怒らないわけがない。阿求とて、同じことをされたら黙っていない。 「それにですねこいしさん、今の貴方は在家とはいえ仏門に入っているんですから、悪いことをしたら罰が当たりますよ。白蓮さんに知られたらどうなることやら」

2012-10-08 20:53:45
BIONET @BIONET_

「え? そうなの? 困るなぁ……白蓮さんは怒ると怖いもの。お姉ちゃんの次くらいに」 「……で?」 アリスの声が、発せられる度に低くなっていく。阿求がひやひやとする中、こいしはアリスの表情を数秒見て。 「あー、えーっと……ごめんなさい?」 「そこで疑問系はないでしょう」

2012-10-08 20:55:07
BIONET @BIONET_

「……もういいわ」  馬鹿馬鹿しくなってきたのか、アリスはふんぞり返るように椅子に体を預け、紅茶を口にした。 何ともいえない空気が場を支配する中、阿求は気を取り直してこいしに訊ねる。 「今日はまた、どうしましたか?」 「うーんとね、命蓮寺の手伝いで人里に来たんだけど、今は休憩中」

2012-10-08 20:57:36
BIONET @BIONET_

「あー、人里の秋祭りのお手伝いですね。一輪さんと雲山さんが、毎度頼りになるんですよ」 「それよ」 「?」 「貴方達、アルフレッドって言ってなかった?」 憮然としていたアリスが、ティーカップを置いて、少し身を乗り出した。

2012-10-08 21:00:37
BIONET @BIONET_

「『頼れるアルフレッド』のこと? 丁度さっきはその話をしていたけれど……」 「そう、それ! 何で貴方達が、私の家にいたペットの話をしているのかなって」 阿求とアリスは、思わず顔を見合わせた。 「……どういう意味? 貴方の家に、アルフレッドって名前のペットがいたの?」

2012-10-08 21:00:59
BIONET @BIONET_

「もしやそれ、ラブラドールレトリーバーという犬種の犬だったりして……」 「ええっ!? 何でそこまで知ってるの!?」 こいしは、それまでの惚けた表情から一変して、本当に心底驚いたようだった。 「十何年か前に死んじゃったんだけど……よくみんなで可愛がってたなぁ」

2012-10-08 21:02:52
BIONET @BIONET_

「え……ちょっと、待ってください」 あまりにも突拍子もない話に、阿求は混乱してきた。アリスも、柳眉を寄せて怪訝そうな様子だった。 二人は困惑する理由……それは、こいしが言及する地霊殿のペットの話が、『頼れるアルフレッド』の主人公の特徴と妙に一致していることだ。

2012-10-08 21:03:33
BIONET @BIONET_

相違点があるとすれば、現実のアルフレッドはこいし曰く既にこの世には亡く、一方で小説のアルフレッドは物語の最後まで生きていることだが。 「ねぇ、一体どういうことなの?」 こいしは、いつになく真剣な表情で、アリスと阿求に詰め寄る。しかし、二人にしても、こいしと同じような心境であった。

2012-10-08 21:04:06
BIONET @BIONET_

「んーと、私達は『頼れるアルフレッド』っていう小説の話をしていたの。そのお話の主人公が犬で、貴方が昔飼っていたペットに何故か似ている、ということよね」 「小説? どこで読めるの?」 「バイオネット上で公開されているんですよ。今は手元にないですが、端末を使えば、誰でも読めます」

2012-10-08 21:06:29
BIONET @BIONET_

アリスと阿求の話を聞いて、こいしは、考えているという意思表示だろうか、フリルの付いた袖で口元を隠した。 「……ねぇ、阿求さん、だっけ」 「はい、なんでしょう」 「私、前に貴方の取材を受けたとき、お姉ちゃんのことをどれだけ話したっけ」

2012-10-08 21:09:13