〔AR〕その21後半

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その21前半(http://togetter.com/li/395383) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

「まだ時間はあるようですし、屋台を見ながら、人形劇の会場に行きませんか?」 「そ、そうですね」〔行くつもりなんだ――〕  阿求は努めて冷静さをたぐり寄せる。

2012-10-26 20:47:27
BIONET @BIONET_

確かにさとりは覚妖怪だが、『Surplus R』としてここにやってきたのであり、その目的は、阿求――『Initial A』と交わした手紙に書かれていたことであるはずだ。下手に刺激をしなければ、さとりとてあたら阿求に対して害をなすことはないだろう。

2012-10-26 20:47:52
BIONET @BIONET_

そして考え方を切り替える。ある意味今この瞬間は、滅多に姿を現すことのない本物の覚妖怪の姿に迫る、またとない機会ではないか。幻想郷縁起のさとりの項目は、伝聞のみで書かれたものであり、その精度を高めるためにも、さとりとの接触は大きな意味を持つ。

2012-10-26 20:48:13
BIONET @BIONET_

心を読まれるのはぞっとすることだが、慎重に対応すれば大丈夫なはずだ。阿求は、そうやって自分を奮い立たせた。 「じゃ、じゃあ、行きましょうか。この街道をまっすぐ進んでいけばすぐですので、何か飲み物でも買いながら行きましょう」〔何事もありませんように――〕  「ええ」

2012-10-26 20:48:39
BIONET @BIONET_

阿求が橋の向こうの道を指さす。さとりは、ゆっくりと首を縦に振った。 阿求はどこか駆け足で、池にかかる橋を進む。それを渡りきって少し歩けば、竹の広場に続く街道に入ることとなる。

2012-10-26 20:49:06
BIONET @BIONET_

阿求の後にさとりが続く。しかし、その表情は、暗かった。 ほんの数分前の幸せな心地は、既に消え失せていた。 一寸先の明かりが見えない。そんな気分だ。さとりは重い足取りで、阿求の背中を追った。

2012-10-26 20:49:23
BIONET @BIONET_

〔若干の中断〕※今夜中に再開します。

2012-10-26 20:49:44
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〔終わりの見えない再開〕

2012-10-26 23:00:24
BIONET @BIONET_

溢れかえる人の流れの中を、阿求とさとりは肩を並べて進む。 しかし、どちらも動きがぎこちない。阿求は、隣のさとりが腫れ物のたぐいであるかのような所作だ。一方さとりは、骨が鉛になったかのように一挙手一投足が鈍重である。

2012-10-26 23:01:26
BIONET @BIONET_

竹の広場までまだ距離はある。二人は、待ち合わせ場所を移動し始めて以降、新たに言葉を交わしていない。 とにかく気まずい。しかして、何を話していいか、阿求とさとりは互いに考えあぐねていた。 「あっ」 そんな時だ。阿求は、青果店が開いているジュース売りの屋台を見つけた。

2012-10-26 23:03:17
BIONET @BIONET_

先ほど飲み物を買おうと言った手前、丁度良いと判断した阿求は、さとりに声をかける。 「古明地さん、ジュースが売ってますから、何か買っていきませんか?」〔あ、でもお金は持ってるのかな〕  「あ、はい。人里の通貨は多少の持ち合わせがありますので」 「そ、そうですか」〔藪蛇だった――〕

2012-10-26 23:04:41
BIONET @BIONET_

そうして二人は、難儀しつつも屋台に移動し、阿求はぶどうジュース、さとりはりんごジュースを注文する。

2012-10-26 23:05:50
BIONET @BIONET_

屋台のジュースの提供の仕方はユニークで、あまり節同士が離れていない竹を節の部分で切り取り、節の片一方の仕切りを取って中に液体を入れる。そして、くり貫いた仕切りには少し穴を開けて、藁のストローが通るようにしてから元の位置にはめ直すという手を込んだ構造だった。

2012-10-26 23:06:16
BIONET @BIONET_

これによって多少振ったりひっくり返したりする程度では、中身はほとんどこぼさずに持ち運べる。使い捨ての品としては少々工数の多い代物だが、コストと祭りでの使い勝手を考慮した結果行き着いたのあろう。店側も、できれば飲み終わったものは回収したいと言っていた。

2012-10-26 23:06:36
BIONET @BIONET_

竹と果実のジュースというミスマッチはあるが、阿求とさとりは共にこの竹タンブラーを興味深く眺めた。 「竹というのはこういう風に使えるんですね……」 特にさとりは、地底では竹製品が貴重であるため、このように手にすること自体が珍しい。

2012-10-26 23:09:46
BIONET @BIONET_

「竹製品はポピュラーですよ。こういう使い方は今年初めてみましたが」〔そもそも、地下って植物が育つんだろうか?〕 「……地底では竹は生えていませんからね。地上から取ってくるしかないのです」 「なるほど、ずずず」〔い、今のも心を読まれたのかしら〕 「……」

2012-10-26 23:10:44
BIONET @BIONET_

(まずい、どうしても口に出す言葉が相手の心を読んだ結果になってしまう) 阿求とさとりは二、三言葉を交わしながら、それぞれ軽くストローを啜る。生搾りの甘酸っぱい果汁は喉の乾きを心地よく癒してくれるはずだが、どこか意識と感覚がずれてる気分だ。

2012-10-26 23:11:38
BIONET @BIONET_

阿求は、ふと豊聡耳神子との会話を思い出す。あの仙人も、実質的に心を読める力を持っている。だがそれは、神子自身が取り入れた情報を自分で解釈した上でのものだ。かの仙人のペースのままだと、話がやりずらい。 やりずらいが、逆に言えばペースにつきあわなければよいだけの話だ。

2012-10-26 23:12:01
BIONET @BIONET_

しかし覚妖怪の場合、こちらの思考を直に知覚するため、即座の的確な対応ができる。それどころか、こちらが言わんとしていることを先に言われてしまうため、身動きがとれなくなってしまう。

2012-10-26 23:12:21
BIONET @BIONET_

そのように阿求が分析という名の精神統一を図っている様を、さとりは横目で見るような感覚で彼女のことを伺っていた。フォーカスを合わせるのは相変わらず危険だが、阿求の表層意識を読みとるコツは掴んだ。 それ故に、さとりは思考を読んでペースを掴もうとする、己の習性に難儀しているのだった。

2012-10-26 23:13:13
BIONET @BIONET_

阿求が心を読まれることに恐怖と嫌悪を抱いているのは明白だ。当たり前だろう。普通は、さとりを前にしてこうなるのは自然なことなのだ。以前地上からやってきた巫女と魔女が、よほどの強靱な精神力の持ち主か、後先考えない馬鹿だったということが改めてわかった。

2012-10-26 23:16:02
BIONET @BIONET_

ただ、さとりに阿求へ危害を加える意志は微塵もなかった。どうすれば、こちらに敵意や悪意がないことを安心して受け取ってもらえるか? (……無理よ) そんなことができていれば、古明地姉妹は地下に潜ることもなく、妹のこいしは心を閉ざさなかった。残念ながら、それは夢物語と同義の愚問だった。

2012-10-26 23:17:01
BIONET @BIONET_

(人形劇まで、我慢してもらうしかない) 阿求が危惧を抱くのは、実質さとりと二人きりであるというこの状況だ。周囲の人出は、今や膨大なノイズを通り越して、巨大な壁のようである。壁で囲まれた中に、二人はいるのだ。

2012-10-26 23:19:28
BIONET @BIONET_

だが、人形劇が始まれば、二人とも意識は壇上に向かうはずだ。動かない限り、隣が誰であろうと関係がなくなる。 それが、何か間違っているのは、さとりも自覚している。一緒に見るはずの人形劇が、お互いの存在を意識しないための口実になってしまうなど。 (何のために、私はここに来た?)

2012-10-26 23:19:53
BIONET @BIONET_

それでも、仕様のないことだ、とさとりは悲しみと共に諦めるほかなかった。 現実は、理想になってはくれないのか。 「あの……」「あの……」 沈黙に耐えられなくなって、阿求とさとりは同時に声を掛け合った。そのタイミングができすぎていて、再び二人の動きは硬直する。

2012-10-26 23:20:08