山本七平botまとめ/【虚報とは何か⑤】/国内向けの「虚報」が、海外に出て跳ね返り、惨劇を起こす”図式”を誰一人予見できなかった日本人
- yamamoto7hei
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1】そのよい例が比島作戦かも知れない。M中尉は「なぜこんなばかなことをやるのか、われわれには到底理解できない」と言うのだが、彼が何を言っているのか、実は、私にもなかなか理解できなかった。われわれが、虚報が当然とされる世界に生きているためかも知れない。<『私の中の日本軍』
2012-10-22 13:28:052】彼の言ったことを一言で要約すれば、「虚報を出すくらいなら、なぜノーコメントで押し通さないか」ということなのである。 さてそうなると、今でも私にはその理由がわからない。
2012-10-22 13:57:443】時々「戦争中、英米は国民に何もかも発表したから立派だ、それと比べると大本営は……」という言い方を聞くが、この考え方は間違っているのではないかと思う。彼らだって一定期間ノーコメントで押し通すことは少しも珍しくないし、倫理的に彼らの方が立派だとは思わない。
2012-10-22 14:28:004】おそらくこれは別のことで、虚報を出すことによって、自国民をあざむいて判定を誤らすだけでなく、その結果、敵には正確な情報を与えるといった考えられない愚行は、やれと言われてもバカバカしくて出来ないということだと思う。
2012-10-22 14:57:455】従って言う時は全部言うし言わない時は言わない。…全部ぶちまけて知らんぷりしているのもノーコメントで知らんぷりしているのも、自分の潜在的願望や企図を相手に知らせない、手がかりを与えない、という点では同じ事である。「発表する」というのはそれ以外には彼らは考えられないからである。
2012-10-22 15:28:016】こうなると大本営がなぜノーコメントで押し通さなかったか、全く理由がわからなくなる。彼らにそれが出来なかったのではない。
2012-10-22 15:57:437】当時は「知る権利」などという言葉すらなかったのだから「作戦ノ必要上、以後、戦局ハ発表セズ」といわれたって、国民は一言の抗議もしないし、できないし、短期間なら、言論の自由が建前の米英ですらやっているのである。
2012-10-22 16:28:058】言論を統制しながら、これができないはずはない。 従って「できる」けど「しなかった」のである。 ではなぜしなかったのか。 どうして虚報というおしゃべりをつづけるのか。
2012-10-22 16:57:449】その理由は、おそらく今でも、だれも答えられないであろう。この謎の解明点は、この「答えられない点」にあると思うが、私もよくわからない。そうやって、台湾沖海戦の大戦果なるものが発表された。
2012-10-22 17:28:0310】これは「大本営は、現時点のアメリカの海軍の戦力を完全に誤認し、その誤認に基づいてレイテ作戦をいたしておりますよ」とアメリカ側に通報したに等しいわけである。 アメリカは自分の損害は的確に把握できるから、相手の誤認は実に正確に判断できる。
2012-10-22 17:57:4311】また相手が例によって自分の損害をどれだけ隠しているかもわかっているし「林彪は生きている」式の情報を流してそれへの飛びつき方を見れば、相手が嘘と知りつつ発表して国民をだましているのか、自分もそう思い込んでいるのかもわかるし、(続
2012-10-22 18:27:5912】続>飛びつき方の度合いや発表の仕方から、相手の希望的観測を分析すれば、その潜在的願望から秘匿した意図まですべてわかるわけである。 そこですべては見すかされる。
2012-10-22 18:57:4613】「虚報の悲劇」であろう。 これを何もかもぶちまけ、判断のつかないことは判断がつかないというか、一切ノーコメントで押し通すかすれば、相手にはこちらの意図が全然つかめなくなるのである。 しかしそれができない。 いつもできない、おそらく今もできないのであろうと思うが……。
2012-10-22 19:28:0414】その結果、当然に起るべきことが起る。レイテに上陸した米軍は一時的に補給と後援が断たれたと判断し――というより希望的観測を抱き――「半渡二乗ジ」てこれを撃滅して戦局を一転するつもりで、戦闘師団を続々とルソンからレイテに送りこみ、沖縄に行くはずの一個師団まで転用して、(続
2012-10-22 19:57:4415】続>まんまと敵の術中に陥り、逆にこちらが「半渡二乗ゼラレ」、レイテとルソンに分断される。そして敵は「全力」でこの「分力」を徹底的に一方的に潰していく。
2012-10-22 20:28:0416】太平洋戦争の「旅順」なのかどうか知らないが、まずカリガラ平野が、ついでルソンの山岳地帯が、ジャングルが、48万の腐乱死体でおおわれる――ああこの愚行、何という愚行。
2012-10-22 20:57:4517】事実を言い切る勇気もなく、ノーコメントで押し切る勇気もなく、一部を隠し、一部を発表し、その発表には徒らに誇大数字と刺激的言辞と思わせぶりな表現を並べ、その結果何もかも見すかされ、すべてを察知され、存分に引きずりまわされる――
2012-10-22 21:28:0218】なぜこういうことをしたのか。M中尉ならずとも到底理解できまい。 今も同じなのだろうか。今は違うのだろうか。 同じならわれわれはあの惨劇から何一つ学ばなかったのだろうか。
2012-10-22 21:57:4419】国内向けの虚報が国外に出て行き、それがはねかえって来て恐るべき惨劇を起したというこの図式は、この点でもまた、そのまま「百人斬り」にもあてはまる。
2012-10-22 22:28:0320】「大本営発表」と「百人斬り」は実に不思議なほど似ている。同じものだから同じ結果をひき起すのが当然だといえば言えよう。 すると今報道されている事も、外へ出ていって、また我々の頭上にはねかえってくるかも知れない。大本営以下、全ての関係者に、この認識がなかったように思われる。
2012-10-22 22:57:4621】国民向け放送とアメリカ軍向け「東京ローズ」の放送を分けておけば、相手はアメリカ軍向けだけを聞いているはずだと思い込んでいたら――たしかに国民は国内向け放送しか聞かされていないのだが、相手は何もかも聞き、それ以外にも情報をもっていると考えなかったら少しおかしいのだが――
2012-10-22 23:28:0422】しかし、浅海特派員には確かにこの認識はなかった。 「百人斬り」はあくまでも「国内向け」で、日本以外には全然伝わるはずがないという錯覚が氏にあったはずである。いや、そういうことすら考えなかったに相違ない。 ある意味で、一番の問題点はここであろう。
2012-10-22 23:57:4523】その思惑通りいけば、この記事は、発表の三、四日後には、関係者以外は、すべての人が忘れていたであろう。今はもちろん、戦争中すら億えていまい。
2012-10-23 00:27:5024】こういう宮沢浩一教授のいわれる「頓馬なセンセーショナリズム」のみの記事は、これでもかこれでもかと、洪水のように紙面にあふれ、私などを「嫌悪症」に陥れるほどひどかった。ある意味ではこの記事は九牛の一毛にすぎない。
2012-10-23 00:57:4225】従って浅海特派員自身が、自分の記事が「戦犯」の証拠として出現しようなどとは、全く夢想だにできず、だれかが予言しても信じなかったであろう。もっとも当時何も予想できなかったという面では私も同じである。
2012-10-23 01:27:58