◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その九)」◆

真上犬太氏(@plumpdog)によるtwitter連載小説 第10回目 第1回目はこちら http://togetter.com/li/372910
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真上犬太 @plumpdog

◆『ヒートは手先が器用なのよ』そういう声は、言葉遣いとは裏腹に、ものすごく野太い。その声に気が付き、クイはシェパードの背中で隠れていた部屋の中央を見る。そこには八つのデスクと、そこに座る同僚の姿があった。さっきの声の主は、巨躯のイノシシだ。◆

2012-11-07 19:44:33
真上犬太 @plumpdog

◆その体を飾るのは、レースやドレープのたっぷり付いたドレス。「……ず、ずいぶん個性的な部屋着だな」『うふ。ありがと。あたしはぼたんよ。以後お見知りおきを』クイは彼(彼女?)の姿、衣服の縫製や裁断をチェックした。「それ……あんたが!?」『ええそうよ。私元お針子さんだもの』◆

2012-11-07 19:48:17
真上犬太 @plumpdog

◆ずんぐりした体でしなを作られ、毒気を抜かれたクイをとりなすように、ヒートが付け加える。「ボクらの服もこの部屋の飾りも、みんなぼたんが作ってくれたんだね! ボタンはデザイナーさんなんだね!」『ええ。後でクイ刑事も作ってもらうといいですよ』「な……なるほどな」◆

2012-11-07 19:53:51
真上犬太 @plumpdog

◆部屋の少女趣味な飾り、戸棚においてあった統一性の無い調度品は、この部屋のメンバーの存在を示す手がかりだ。となると。「あそこのフィギュアはあんたのか?」自己紹介の輪に加わらず、ひたすらデスクの上で試薬をいじりまわすウサギ。クイの声に一瞬だけ顔を向けた。「オズワルド」◆

2012-11-07 19:56:57
真上犬太 @plumpdog

◆両目を特殊なテックグラスで覆った瞳は、何色なのかも分からない。再び自分の仕事、のようなものに没入する茶色いウサギ。『気にしないでね? オズワルドってば、人嫌いだから』『彼は検死と科学捜査担当です』「もともとアニメを作る会社に居たらしいんだね! オタクなんだね!」◆

2012-11-07 20:01:23
真上犬太 @plumpdog

◆愛想の無い顔に、クイは以前検索した事のある情報を頼りに揶揄を飛ばした。「今は亡き夢の国の住人か。後輩ネズミの陰に隠れて目立たない先輩の名前とはね」その途端、目もくらむような情報の塊が叩きつけられる。今は亡きアメリカという国に花開いた、カートゥンの老舗の歴史。◆

2012-11-07 20:08:23
真上犬太 @plumpdog

◆『知った風な口聞くな』「んだよ、失礼なのは」『そう言う口を叩くなら、このぐらい知っておけ』ペーパーメディアにすれば十センチはありそうな分量の意見書。そこには彼の「名前」の由来となったキャラクターについての話が延々と書かれていた。クイの意見の間違いについても、ねちねちと。◆

2012-11-07 20:12:29
真上犬太 @plumpdog

◆『だめよ? 彼ってば自分の名前に誇りを持ってるんだから』『彼の名前は非常にセンシティブな問題を抱えています。それと彼の趣味には中途半端な覚悟で近づかないほうがいいでしょう』「それ以外はとってもすごいんだね! 仕事も出来るし、なんてったってチャームランクだし!」◆

2012-11-07 20:23:15
真上犬太 @plumpdog

◆チャームランク、と聞いてクイは改めてウサギを見つめた。NBCの性能評価は六種別に分かれている。そのうちのチャームランクと呼ばれる個体は官公庁や世界企業に用いられるレベルの能力を持っている。「ちなみにボクはアップランク」『私はボトムです』『あたしはストレンジ』◆

2012-11-07 20:29:10
真上犬太 @plumpdog

◆それぞれが自分の情報を開示し、自然とクイに視線が集まる。「……悪い。俺、そういうのがないんだ」『メーカーの保障読み取りが出来なかったということですか?』『あらぁ、それは大変ね』「明日の検査で暫定ランクが出るんだねー」『ポンコツ』「んだと!?」◆

2012-11-07 20:32:49
真上犬太 @plumpdog

◆クイの一瞥に、そ知らぬ顔で鼻をふくふくいわせるウサギ。その肩にロブがそっと手を置いた。『とりあえず今日のところは休みましょう。我々も明日は早いですから』「……ああ」部屋の奥にある《休憩室》の札が掛かったドアに向かいながら、クイはちらりと観葉植物に視線を走らせた。◆

2012-11-07 20:35:23
真上犬太 @plumpdog

◆「聞きたいことがある」『なんですか?』「あそこに居るコアラも、メンバーなのか?」眠ったような半眼のまま、木にしがみついた存在に、シェパードはまじめくさって頷いた。『情報管制担当のヒュープです。彼は忙しいので、そっとして置いてください』「……ああ」◆

2012-11-07 20:36:42
真上犬太 @plumpdog

◆喉まででかかった言葉をぐっと飲み込み、簡易ベッドが置かれただけの部屋に入る。割り当てられたのは奥の壁際、オズワルドの寝台の上だ。寝床を整えながら、周囲に誰も居ないことを確かめると、クイはため息をついてぼやいた。「どんな動物園だよ、ここは」◆

2012-11-07 20:39:10

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