〔AR〕その24 セクション2

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:セクション1(http://togetter.com/li/407706
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BIONET @BIONET_

「――」 アリスは思案するように、口元に手を当てて黙る。何か言葉を選んでいるように見えたので、阿求は紅茶を飲みつつ、アリスの出方を待った。 十秒ほど立って、アリスは口を開いた。

2012-11-15 21:48:39
BIONET @BIONET_

「『彼女』の調整っていうのは、バイオネット出力の自動書記機能を一旦切り離す作業だったんだけど、どうにも原因の分からない不具合があるのよ」 「不具合?」 「まるで、何かを見ているように、勝手に動くの。『彼女』には、まだ自我と呼べるようなものは宿ってはいないにもかかわらずね」

2012-11-15 21:49:45
BIONET @BIONET_

「――まさか、『彼女』もまた幻を見ていると?」 「聞いても答えてはくれないけどね。でも、様子を見ていると、そう思わずにいられないのよ」 アリスは再度紅茶を飲んで、その香りを吐き出すように、鼻を鳴らした。

2012-11-15 21:52:51
BIONET @BIONET_

「とりあえず、今日は慧音の家に泊まって、明日まで作業をしてみるつもり。で、その前に、日が落ちるまでにちょっと人里の様子を調べておきたいってわけ」 「日が落ちるまでって、あまり時間ありませんよ?」

2012-11-15 21:53:55
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阿求は懐中時計を取り出す。今の時期の釣瓶落とし加減を考えると、あまり時間に猶予があるとは言えなかった。 「いくつか思い当たる節があってね――むしろ、日が落ちるくらいの刻限が狙い目なのよ」 「?」 「今はわからなくていいわ。私だって確証があってそうしようとしているわけでもないし」

2012-11-15 21:54:27
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「――気になります」  阿求は、胸騒ぎを覚えた。何か、もう少し判断材料があれば、安心して専門家に任せられる。しかし、今取り巻くこの状況は、確かなことが何一つ得られておらず、知れば知るほど安心できない。 「ご迷惑でなければ、少しアリスさんのお手伝いをしてもかまいませんか?」

2012-11-15 21:54:49
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「やめときなさい、と言いたいところだけど、言って聞く顔じゃないわね」 アリスは肩をすくめ嘆息した。 「ま、人里から出なければ身の危険にさらされることもないだろうしね。とりあえず、日没まで人里全体を見て回りましょう」 「はい――すみません。無理を言って」

2012-11-15 21:55:13
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「貴方も貴方の役割があるわけだし、気になるのも無理はないわ。ただ、何か異変が起こったら、絶対に踏み込んではだめよ。私は貴方の身の安全を保障しないからね」 「構いません」 阿求は力強く頷いた。合意と見たアリスは、紅茶の残りを飲み干した後、席を立った。 「じゃ、行きましょ」 「はい」

2012-11-15 21:55:39
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〔中断〕※明日2000頃に更新再開します。

2012-11-15 21:59:17
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「お姉ちゃん、お待たせ」 「――」 人里からも、命蓮寺からも離れた街道沿い。 今や大半の葉を落とした樹木の根本で屈み、身を震わせるさとりの元に、こいしが駆け寄った。 「永遠亭までの地図を書いてもらってたら遅くなっちゃった、ごめんね」 「こいし、寒いわ……」

2012-11-16 20:22:45
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さとりは厚手の上着を重ねた着膨れした格好だが、ガーゼの隙間から見える頬の色は青白い。地熱の床暖房により年中温暖に安定している地霊殿に比べれば、冬に近づいている幻想郷の気温は、身に堪える寒さだった。 こいしも、さとりほど厚着ではないにしろ、マフラーを巻き、ストッキングを履いている。

2012-11-16 20:23:13
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妖怪であれば本来気温の変化にも強いはずだが、今のさとりは精神的に弱っているため環境の違いに敏感になっている。かつて冬場に普段着で守矢神社に参拝したことのあるこいしにとっては平気な気温でも、さとりには厳しい気温だ。 「さぁ、もう少しの辛抱だから、がんばって」 「ん……」

2012-11-16 20:23:37
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こいしはさとりの手を取って立ち上がらせる。 (とはいったものの) 内心、こいしは今の進行ペースに危機感を抱いていた。 当初、地上に出てくるのは昼前を予定していた。しかし、さとりは案の定駄々をこねて地霊殿の外に出ることをかたくなに拒んだ。

2012-11-16 20:26:15
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その説得にはかなりの時間がかかり、結果地上に出てこれたのは、太陽が西に傾きだした頃だった。 それから、永遠亭までの道のりを訊ねに(本来なら先に調べておくべきところだったが、動けないこいしには不可能だった)命蓮寺に一度立ち寄る時も一悶着あった。

2012-11-16 20:27:16
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さとりは対人恐怖症も併発しており、人がいる場所に近づくだけでも難色を示す有様だ。仕方なしに、こいしはさとりを人気のない道ばた待たせなければならなくなった。さらに、迷った末、命蓮寺の面々による道案内も断らざるを得なかった。

2012-11-16 20:27:30
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こいしの目に水平線の様子が映る。西の方角が赤くなっていた。空には雲が多く、赤く引き延ばされた光は、東の空にある雲まで、薄桃色に染めていた。 命蓮寺の合宿の間に、こいしは太陽の動きを実体験を以て学んでおり、もう日没はすぐであることを悟る。

2012-11-16 20:27:50
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夜が降りて、暗くなること自体は、夜目が利くため問題ではない。しかし、夜行性の動物や妖怪が出現しだすのは、今のさとりを抱えるこいしにとって、甚だ厄介だ。 さらに面倒なことに、竹林は迷いの名を冠しているそうで、案内人を見つけなければ永遠亭にたどり着くのも困難だという。

2012-11-16 20:28:07
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「赤い空……気持ち悪い」 さとりがつぶやく。 「ほら、太陽に雲がかかっていて、ピンク色になってるじゃない。あれが傷跡のようでたまらなくいやだわ。そう思わない?」 「うん……」

2012-11-16 20:28:24
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こいし自身も同じことを感じたものの、生返事を返す他ない。こいしは美しい夕焼けも知っている。同じ天気模様でも、気持ち次第でこうも受け取り方が変わるのか、とこいしはやや哲学的な感慨を持った。

2012-11-16 20:28:39
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そして、今の姉は、見るものすべてが恐怖の対象になっているようで、それが心苦しい。 一刻も早く、永遠亭にたどり着き、少しでも心身を癒してあげたい。それだけを願い、こいしはさとりの手を引いて、道を急いだ。

2012-11-16 20:28:51
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同時刻。再度人里。 「潮時ね」 逢魔ヶ辻を告げる血のように赤い空を見て、アリスは呟いた。

2012-11-16 20:30:25
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アリスと阿求は陽の出ているうちに人里を巡回したはいいが、特段の異変は見受けられなかった。二人は、街灯や酒場の提灯が点灯していく様を見ながら、里の大通りを並んで歩いていた。 「まるで異変の方に避けられてる気分ですね」 「むしろ、そんな意思が感じられるような原因があればいいんだけど」

2012-11-16 20:30:56
BIONET @BIONET_

アリスの言うとおり、例えば今起こっている異変が何者かによって引き起こされているのであれば、話は簡単だろう。 「ここ数年の異変は、現象を見ただけでは原因の意図するところを読みとるのは困難ですからね」 「私としては、犯人なんていないんじゃないか、って思ってる」 「何故です?」

2012-11-16 20:31:45