〔AR〕その24 セクション2

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:セクション1(http://togetter.com/li/407706
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BIONET @BIONET_

久々に、ささやかながら幸運が訪れた。阿求は、己の精神に活力を与えるため、そう思うことにした。 昼下がりのいつものカフェーで、阿求とアリスは向かい合って座っている。 阿求にとっての幸運とは、普段魔法の森に暮らしているアリスが、タイミング良く人里を訪れていたことだった。

2012-11-15 21:10:18
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「すみません。呼び止めてしまって。私の方から、ご自宅にお伺いするつもりでしたので、助かりました」 「別にいいわ。丁度休憩したかったところだし」 アリスは淹れ立ての紅茶のカップを口にすることなく、湯気をくゆらせるように揺らした。

2012-11-15 21:10:41
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「私も気がかりだったのよ。貴方、結局あの祭りの時、会場にこなかったでしょ?」 「はい……ちょっと色々ありましてね」  カップの湯気越しに、アリスは阿求を神妙に見つめる。 「貴方のお友達には、体調不良だとは聞いたけど、なんかそれだけではないみたいね」

2012-11-15 21:14:27
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鋭い。阿求は話がすぐに通じそうなことに安堵しつつ、彼女の才気にやや気後れする。 「体調不良は間違ってません。あの時は、まともに歩けませんでしたから」 「そう、じゃあ、お友達にも言っていないであろう詳細を、包み隠さず聞かせてもらおうかしら。私への用事も、それに関することでしょう?」

2012-11-15 21:14:59
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本当に鋭い。阿求は感服する。ややもすればアリスの言動はとげとげしく思えるが、これは別に彼女が不機嫌なわけではなく、真実の追求に妥協しない性分だからだろう。 「ではまず、重要なことを……あの日、私は古明地さとりさんと出会いました」 「へぇ……」

2012-11-15 21:15:17
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アリスは手にしたカップにようやく口を付けた。今は貴方がしゃべる番で、私は聞き手に回る、という意思表示のようだ。 「私は、祭りの日、『Surplus R』先生と一緒に人形劇を見る約束をしていました。アーチ池で待ち合わせをしていて、そこに現れたのが、さとりさんだったんです」

2012-11-15 21:16:27
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阿求は滔々と語る。その表情は、実に複雑な感情が渦巻いていた。 「つまり、アリスさんの推理は正しかったのです。『Surplus R』はさとりさんで、私はずっと彼女と文通をしていたことになるのです」 「なるほどね」 アリスは相づちを打ち、一旦カップをソーサーに戻した。

2012-11-15 21:20:41
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「そうして私達は一緒に竹の広場を目指したのですが、私はさとりさんを恐れ、さとりさんもまた私を恐れました。その末に、私達二人は……決裂してしまったのです」 誤解を招きやすい言葉だが、そうとしか言い表しようがなかった。あの日のあの瞬間は、まごうことなき断絶だった。

2012-11-15 21:23:05
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「なぜ、さとりが貴方を恐れなければならないの? 貴方はどうみても妖怪退治ができるようなタイプでないのは、それこそさとりならばわかるでしょうに」 「覚りだからこそ、です。私の精神は、彼女にとってはあまりにも異形の存在として映るらしく、それこそ正気ではいられないほどなのだそうです」

2012-11-15 21:30:17
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「……魔法使いとしては正直興味深い話だわ。あ、これは聞き流してね。そう、貴方達は、はっきりいって、直接会うには最悪の相性同士だったわけね」 言葉にすると本当に無体なことだ。しかし、事実である。

2012-11-15 21:30:36
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「さとりさんは、そのまま姿を消しました。今どうしているのかはわかりません。地底に戻ったのだとは思います。バイオネットが休止する前に、様子を探ろうとも考えましたが……」 「まぁ、普通に考えると、貴方とのコンタクトは拒否するでしょうね。バイオネット自体を忌避しているかもしれないわ」

2012-11-15 21:31:23
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「はい。それは、仕方がないことだと思います。ですが……」 一度深呼吸をしてから、阿求は決然としたまなざしで話し出した。 「私は、このまま終わらせたくないんです」 「じゃあ、どうするの?」 阿求の目を見て、アリスもまた、単刀直入で阿求に問う。

2012-11-15 21:32:46
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「もう一度だけ、さとりさんに会いたいんです。勿論、さとりさんは拒絶するかもしれない。でも、私の意思だけは伝えたいのです」 「具体的には?」

2012-11-15 21:33:34
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「まず手紙を書きます。今丁度文面を試行錯誤しているところなんです。バイオネットが休止している現在、それを届けるのは至難の業ですが、なんとか私のコネを使って対処しようと思います」 「魔理沙でも唆せば簡単そうな気はするけどね――それはいいけど、そこに私がどう関わるのかしら?」

2012-11-15 21:33:58
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「私がさとりさんに手紙を送り、その返事が、YESだった時――アリスさんには、もう一度『頼れるアルフレッド』の人形劇を演じてもらいたいんです」 「承ったわ」 「へ?」 阿求は、アリスが一拍を置くとみて次の言葉を考えていたが、対するアリスはさらりと承諾してみせた。

2012-11-15 21:39:33
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「私も、この前の祭りは、ちょっぴり心残りだったのよ――勿論、出し物としては及第点を越えていたにしろ、発起人の貴方と、原作者に出会えなかったのは、すっきりしなかったわ」 「い、いいんですか?」

2012-11-15 21:39:42
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「人形さえあれば、私の劇はいつどこでだってできる。大がかりな舞台は必要ないわ。平原の木の下であろうと、往来の片隅だろうと、そのクオリティは揺るぎない」 鮮やかに、アリスはそう言い放った。

2012-11-15 21:39:56
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「――ありがとうございます。私の果たせなかった約束――いいえ、わがままにつきあっていただいて」 「気にすることないわ。さっきも言ったでしょ。心残りだったって」 アリスに気負った様子はない。阿求は、安堵と心強さで同時に満たされる。今ほど、アリスを頼れる存在だと思ったことはない。

2012-11-15 21:42:51
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「じゃあ、しばらくはさとりの反応待ちってところかしらね」 「そうなります。とりあえず、今は頭の片隅に止めていただければ、かまいません」 「わかったわ。人形はいつでも使えるようにしておくから」

2012-11-15 21:44:26
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アリスは話の区切りがついたと見て、しなやかに紅茶を呷った。少し温くなっていたので、三分の一ほどがアリスの喉を通り抜けていった。 「さて、それじゃあ私も仕事に戻りましょうかね――とはいっても、正直すぐに片づくとも思わないし、もう少しゆっくりしていてもいいかなぁ」

2012-11-15 21:44:54
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「そうだ。アリスさん、今日はどのようなご用件で人里にこられたのですか?」 阿求は、今更の疑問をアリスに問う。見たところ、アリスの手荷物には買い物袋のようなものはないことから、買い出しには見えない。代わりに、旅行鞄よりは若干小さい程度の手提げトランクを椅子の脇に置いていた。

2012-11-15 21:45:29
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それは、アリスの人形師としての商売道具である、ツールボックスであった。 「簡単に言えば、『彼女』の調整――なんだけど、どうにも不穏なものを感じてね。ちょっと人里全体を調べてみたくなったのよ」 「どういうことです?」 「阿求も知ってるでしょう? ここ最近の、変な幻影の噂を」

2012-11-15 21:45:46
BIONET @BIONET_

あのことか、と阿求は思い至る。祭りが終わった後家に引きこもっていた阿求は、ごく最近になって知った話だ。天狗の新聞も度々報じているが、その真相はまだ未解明だ。 「元々、結構前から変なものを見たって話はあったそうなんだけど、祭りが終わってから急に知れ渡ったような感じがするの」

2012-11-15 21:46:36
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アリスの話を聞いて、ふと阿求は残暑のある日のことを想起する。 「――今年の九月なんですけど、豊聡耳神子さんのこと、ご存じです? 彼女が、私に会いに来たんですよ」 「ふむ?」 「その時、何か引っかかることを言っていたんです。君は神霊とも幽霊ともつかないものをみたことないか、って」

2012-11-15 21:46:53
BIONET @BIONET_

あの時のやりとりは、当時こそ阿求は真剣に考えたものの、結局答えは出ず、紫に手紙を出した時点で関心が薄れていった。 「伝え聞く話によると、人里に住む霊感が強い方は、特に霊の気配を感じることはないそうです。一方で、特別な能力を持たない人でも、不可思議な幻影を見ることがあるんです」

2012-11-15 21:47:44