DNA二本鎖切断の線量効果関係が1mGyの低線量まで比例直線となり、その修復能が1mGy以下の極低線量で阻害されることを示したPNAS論文

γ- H2AXがDNA二本鎖切断の修復まで正確に表しているのかこの論文からは個人的に疑問符ですが、二本鎖切断イベントのバイオマーカーとしては有用そうなので図2の比例直線は重要と考えました。 PNASは米国科学アカデミーの論文集であり、附属研究機関のBEIRが疫学調査だけでなく細胞レベルの発癌メカニズムを考慮してLNTモデルを支持している点も重要です→ http://t.co/Qlh4azLO
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関連まとめ

まとめ 【低線量被ばく測定法】γ-H2AXアッセイのバイオドシメトリーとしての可能性 福島など放射能汚染地域における正確な線量評価が求められている。下記はその新しい評価法として近年注目されているγ-H2AX法についてのまとめ。 参考:中村麻子(大阪医科大学)「γ-H2AXを用いた生体内DNA損傷レベルのモニタリング」, 放射線生物研究, 47(3), 2012 7298 pv 31

論文紹介

スカルライド @skull_ride

(1)Evidence for a lack of DNA double-strand break repair in human cells exposed to very low x-ray doses. PNAS 2003. http://t.co/sLfIfEsV

2012-11-19 12:45:57
スカルライド @skull_ride

(2)リン酸化されたヒストン蛋白を蛍光抗体法で観察し、DNA損傷と修復のバイオマーカーとして定量化。2種類のヒト線維芽細胞を用いて1mGy以下の極低線量領域までその影響を調べている。

2012-11-19 12:46:10
スカルライド @skull_ride

(3)広島長崎に代表される疫学調査は高線量放射線の発癌リスク推定には利用できるが、公衆の発癌リスクとして重要なのは低線量放射線である。低線量放射線の発癌リスクの推定には細胞レベルの実験によるアプローチが必要である。

2012-11-19 12:46:28
スカルライド @skull_ride

(4)DNA二本鎖切断DSBsの最初のステップは、クロマチンと呼ばれる核構成蛋白の一つであるヒストン蛋白のサブクラス、H2AXのリン酸化から始まる。リン酸化されたH2AXをγ- H2AXと呼ぶ。

2012-11-19 12:46:41
スカルライド @skull_ride

(5)γ- H2AXは蛍光抗体法において明瞭な焦点fociとして観察される。この論文ではDSBsとγ- H2AXとfociを同義として扱っている。細胞周期はG1期に統一。以下図表を中心に紹介。

2012-11-19 12:46:53
スカルライド @skull_ride

(6)【図1-A,B:蛍光抗体法によるfociの観察】DNA修復能の高いMRC-5細胞(A)の方が、修復能の低い180BR細胞(B)より24時間後のfoci残存が少ない。 http://t.co/GPmIpSNk

2012-11-19 12:53:58
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スカルライド @skull_ride

(7)【図1-C,D:foci細胞の分布図】黒色のグラフは3分後、灰色のグラフは24時間後の分布。Cが修復能の高いMRC-5細胞、Dが修復能の低い180BR細胞。 http://t.co/rIBVMe1N

2012-11-19 12:54:46
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スカルライド @skull_ride

(8)【図1-E,F:時間経過によるfociの減少】灰色のグラフが修復能の高いMRC-5細胞、黒色のグラフが修復能の低い180BR細胞。 http://t.co/6Z3CTRfM

2012-11-19 12:55:10
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スカルライド @skull_ride

(9)【図2:DSBsの線量効果関係】MRC-5細胞で照射3分後に観察。1mGy付近の低線量領域まで比例直線になることを示している。 http://t.co/g6eskmmT

2012-11-19 12:55:32
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スカルライド @skull_ride

(10)【図3-A:時間経過によるfociの減少】グラフの黒色部分はバックグラウンド。時間経過とともにfociは減少していくが、1.2mGyでは減少せず残存する。 http://t.co/9GDlrYQy

2012-11-19 12:55:57
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スカルライド @skull_ride

(11)【図3-B:foci細胞の分布図】1.2mGy照射時のMRC-5細胞で観察。バックグラウンド(黒色)でもfociは観察されるが、その割合は照射群より少ない。 http://t.co/LKC4SRu1

2012-11-19 12:56:17
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スカルライド @skull_ride

(12)【図3-C:24時間後のfoci残存数】1mGy以上では残存数がほぼ同じだが、1mGy以下で徐々に減少。fociの残存は0.1mGyの極低線量まで観察される。 http://t.co/d1FTJRuh

2012-11-19 12:56:38
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スカルライド @skull_ride

(13)【図4-A:foci残存数の経過】グラフの黒色部分はバックグラウンド。24時間以降fociはゆっくりとしか減少しない。 http://t.co/O0gm46X8

2012-11-19 12:57:00
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スカルライド @skull_ride

(14)【図4-B:複数回照射の影響】複数回照射でも1細胞あたりのfoci残存数はあまり変わらない。 http://t.co/yvDXbqd4

2012-11-19 12:57:20
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スカルライド @skull_ride

(15)【図4-C:照射後に細胞を培養】図4-Aと比べて7日後にfoci残存率がぐっと下がる。 http://t.co/P66FDTd2

2012-11-19 12:57:43
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スカルライド @skull_ride

(16)【表1:低線量放射線の細胞への影響】照射あるいは培養を行うことで、細胞にアポトーシスや小核化が認められるようになる。 http://t.co/zF4XfFSa

2012-11-19 12:58:05
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スカルライド @skull_ride

(17)【表2:線量とMRC-5細胞生存率】独立した3つの実験系で、線量の増加に伴い生存細胞の減少が認められる。 http://t.co/AcMR7tqK

2012-11-19 12:58:23
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スカルライド @skull_ride

(18)興味深いことにDNA二本鎖切断の修復に関しては閾値が観測され、およそ1mGy以上では修復されるが、それ以下では修復されないことが分かった。これは1細胞につき平均で1つの電子飛跡のレベルである。

2012-11-19 12:58:39
スカルライド @skull_ride

(19)LNTモデルは高線量でも低線量でもDNAの修復能は同じと仮定して成り立っているが、この実験結果からLNTモデルでは極低線量領域の発癌リスクを過小評価してしまうことになる。

2012-11-19 12:58:49
スカルライド @skull_ride

(20)しかしDNA二本鎖切断のレベルが同じでも、照射によってアポトーシスや小核化を起こす細胞が増加しており、DNA二本鎖切断が修復されない細胞が排除されている現象も同時に確認された。

2012-11-19 12:59:01
スカルライド @skull_ride

(21)つまり極低線量領域ではLNTモデルと比較して発癌リスクを上げるようなメカニズムと下げるようなメカニズムが同時に存在すると推定される。

2012-11-19 12:59:13
スカルライド @skull_ride

(22)DNA二本鎖切断の修復能は高度なダメージの時しか必要ないのかも知れないが、極低線量領域の変異リスクが評価できないためこの考え方は推測の域を出ない。

2012-11-19 12:59:32