アイヌ語の方言差・標準語と言語学者の政治的行動
(つぶやき直し)アイヌ語教科書『アコロイタク』の編集に関わった言語学者は保守的で優先するのは正義でも政治でもない、とtwitterのまとめとやらでつぶやいている人がいる。むこうがtwitterなのでこっちも同じメディアでつぶやき返して自作自演でまとめておくことにする。
2012-12-03 22:35:29簡単に言えば,「言語政策は統一・効率化の方向に向かう」というのが思い込みだと言うことだ。理論的にもおかしいし、もちろん現実はそんなものではなかった。
2012-10-14 22:21:15正確には当時のメモを探さないとならないけれど、ここではそれをしない。だいぶ前の記憶ではあるが間違いなく、各地の教室の代表者のなかにも、自分の地域の方言を捨てて記述の豊富な方言を標準語にすべきだという意見を持つ人がいた。
2012-10-16 21:54:33当初協力していた言語学者のなかにも「標準語化か方言差の尊重か」という対立があった。そのなかには、途中から事実上手を引いた人もいた。あるいはその理由こそ、非政治的でありたいから、または協力することが自分の研究の役に立たないからだったかもしれない。
2012-10-16 21:59:45多くの地域からの代表者は標準語化に抵抗した。それは単なる感情論ではなかった。各地域の教室は、研究者がほとんど接触していなかったような地元の話者たちを講師とし、それぞれの方言ごとの独自の教材を編んでいた。
2012-10-18 15:45:53標準語候補と目された(記述研究の進んだ)方言からの代表者は、標準化には必ずしも積極的ではなかった。その理由には、いくつかの政治的な憶測が可能だ。
2012-10-18 15:55:28あるいは「でしゃばらずに推されるのを待つ」姿勢を示そうとした(結果的にそれが戦略ミスだった)のかもしれない。あるいは言語学者との共同作業によって標準語として認定されることを潔しとしなかったのかもしれない。あるいはやはり標準語策定に原則論として反対だったのかもしれない。
2012-10-18 15:56:43自分の地域の方言ではなく記述の豊富な方言をベースに教科書をまとめてよいと主張したのは、いずれも当時の協会のなかでいわばより闘争的な「活動家」と見られていた人たちだった。そのうちの1人はこの教科書編集が標準語策定の機会だとも言及した。
2012-10-19 16:00:49こうした状況のなかで、当初標準語化を志向していた言語学者は「活動家」たちの意見を支持しなかった。その後はむしろ各地域の方言に根ざした活動をサポートする方向に転換した。それはもちろん、各教室の豊富な実践に接した結果の、じゅうぶん政治と正義を踏まえた判断のようにみえた
2012-10-20 13:35:19「言語学者は保守的だった」というつぶやきが正しいなら、あの判断こそ「保守的」な「非政治化」だったことになってしまう。つまり「活動家」たちと同じ側に立つことを避け、結果として標準語化という持論を一時的に取り下げただけだったことになる。
2012-10-20 13:36:18もしかすると、つぶやいた人は当の言語学者からあの編集作業に関する何らかの評価なり印象なりを聞いているのだろうか。もしそうなら、それは研究史的に貴重な情報だ。
2012-10-21 11:21:17つまり標準語志向だった研究者は「排他的・敵対的な方言集団が行動する言語学者によって融和に導かれる」というイメージを抱いていたが、標準語が融和ではなく過激主義の旗印になるという事態は想定外だったということだろうか。
2012-10-23 15:24:58その後、そのとき標準語候補と目されていたのではないそれぞれの「地元/自分のルーツの方言」によって、自由作文をしたり丸暗記でなく物語を語る力を若い世代の何人かが身につけた。
2012-10-25 20:52:29もしあのときの教科書が事実上の標準語を制定していたとすれば、彼らの学習活動も「政治的方向性の誤り」あるいは「保守的」だとされ、標準語を優先して身につけることが望ましかったとされるのだろうか。
2012-10-25 20:54:32そうではなく、各方言の持っていたエネルギーをじゅうぶん尊重するという方向性にはじゅうぶんな政治的意味があり、また当時としては(そして今もなお)「正しい政治的判断」だったのだと思う。
2012-10-25 20:55:36地元の方言の情報が少ないことなどの理由で、記述の進んだ他地方の方言を学んで身につけた人もいる。いずれにせよ、それぞれの目指したものを「排他主義」とか「融和」とかの軸で測ることには意味がない。
2012-10-25 20:59:14各地域の実践で用いられていたカタカナ表記にばらつきがあったことは、方言差を尊重した教科書を編むべきだという立場にとって障害だった。このとき、標準語化に反対していた研究者が介入して、標準語化の問題から切り離すかたちで表記の統一作業が試みられることになった。
2012-10-29 18:45:27