実数とは?
@shishi_koma じつは、実数さえ作ってしまえば、複素数さんたちはわりとかんたんな手続きで仲間になってもらえます。理論的には実数作りの方が複素数作りよりずっと難しいのです。でも、一般的には、複素数さんたちのほうがモンスターに見えちゃうかも……かわいいのに……。
2012-12-19 23:50:17(19)まず、デデキント(Dedekind) のやり方。有理数全体を二つの集合A,Bに分割したとき、「Aのどの元も、Bのどの元よりも小さい」という条件が満たされているとします。平たく言えば、有理数全体を下組と上組にどこかで分けるわけですね。あ、AもBも空集合じゃないとします。
2012-12-19 23:47:30(20)このとき、Aのうちの最大数はあるか? Bのうちの最小数はあるか? ということを問題にするんです。「ある・ある」「ある・ない」「ない・ある」「ない・ない」の四つの可能性が一応ありますが、すぐ1つ目は否定されます。
2012-12-19 23:52:28(21)「ある・ある」の否定は簡単。Aの最大数とBの最小数がどちらもあるんだとしたら、その2つを足して2で割ったのはどうしてくれるんだ? ということです。それは有理数なんですが、Aにも属さずBにも属さず。これはおかしい。
2012-12-19 23:53:40(22)一方、「ある・ない」と「ない・ある」はいくらでもありえます。たとえば、x≦3を満たす有理数全体の集合をA、それ以外の有理数全体の集合をB、とすればこれが「ある・ない」の例。これは、A、Bへの分割をナイフで切るイメージでとらえると、刃が有理数にカチンとあたった状態。
2012-12-19 23:56:39(23)そこで終われば簡単だったんですが、実は「ない・ない」の場合がありうるんですね。たとえば、t×t≦3を満たす有理数全体の集合をA、それ以外の有理数全体の集合をB、とすると、これが「ない・ない」の例。さっきのたとえで言うと、ナイフが有理数たちをすり抜けスカッと空を切った感じ。
2012-12-19 23:59:03(24)で、この「ない・ない」で困ってしまわずに、「いや、そのナイフは有理数じゃない数に当たってるんだよ! そういうのを無理数って言おう!」っていうのが、デデキントの実数の構成です(有理数と無理数を併せて実数といいます)。スカッと行ったみっともなさのあまり逆切れした感じですな。
2012-12-20 00:01:16(25)でも、この強弁を通して、有理数の隙間(いっぱいあるなあ……)を全部埋める(一つ一つ埋めてたら終わらないですよ、概念的に、ずばっといっせいに埋めるんです)と、さっき行ったような数列の極限について、一般的なことを主張できるようになる。そこからさらにいろいろなことができます。
2012-12-20 00:03:17(26)続いてカントール(Cantor)による実数の構成法。こちらは有理数列を使います。数列 x1、x2、x3、…は有理数からなる列で、しかもコーシー列であるとしましょう。コーシーは数学者の名前。「コーシー列」の説明は次にしますが、いかにもどこかの数に収束してくれそうな感じです。
2012-12-20 00:07:05(27)数列x1,x2,x3…がコーシー列であるとは:どんなに小さい正数εを言われたとしても、「この番号から先の数は、どの2つをとっても、その差がεより小さいよ!」と主張できるような、そんな番号を提示できる、ということ。大雑把には、先に行けばいくほど互いの差が際限なく縮まる数列。
2012-12-20 00:11:49(28)コーシー列は、いかにも収束してくれそうですが、やはり、有理数だけしかない世界では、いつでも収束先があるとは言い切れません。そこで、どんなコーシー列でも収束することにしたい、わけですが……。ここでカントールは、「コーシー列自体を数とみなそう」という乱暴なことを言うのです。
2012-12-20 00:14:27(28番外)(今のところ、(28)で言った内容は不正確。あとで細くします。有理数からなるコーシー列全体を、0に収束する有理数からなるコーシー列全体で、割る、というのが正確です。)
2012-12-20 00:15:53(29)有理数からなるコーシー列が、もしもとある有理数rに収束するなら、そのコーシー列はそのrと同一視する。もしもどんな有理数にも収束しないならば、そのコーシー列こそが(有理数ではない)未知の数に対応しているのだ! と言い切って、それをとある無理数と同一視する。
2012-12-20 00:18:13(30)《有理数からなるコーシー列》がもしもある有理数に収束しているならば、その《列》とその有理数が対応していると見られる。これを逆手にとって、たとえ《コーシー列》が有理数に収束していないとしても、それはある数(非有理数)に対応しているのだ、ということにしてしまう。
2012-12-20 00:22:27(31)やっぱりこう書くとえらい強引な手法ですねえ。デデキント流でもカントール流でも、「こういうとき困るじゃん」「いや、困らないように新しい数つくりゃいいんだよ」ってことだもんなあ。でもここを一回飲み込めば、あとの数学での仕事は楽なんですね。
2012-12-20 00:26:26(32)なお、カントール流では「全然違う2つのコーシー列の表す数(実数)が一致していると考えるしかない」という状況が生まれます。これはまあ仕方がない。実際には、差が「0に収束するコーシー列」になるような2つのコーシー列は同一視する、というテクニックでなんとかします。
2012-12-20 00:33:49(33)というところで、一応、実数なるものをどう定義するかは説明しました。なお、実は、そもそもの問題の出発点だった「a1<a2<…<2を満たす数列」のようなものすべてに対して、収束先を用意する、ということによっても、実数は作れることを付け加えておきます。
2012-12-20 00:35:48(34)で、ここまでぐだぐだと述べてきて、みなさん、実数の構成ってどんなものだか、雰囲気だけでもわかっていただけたでしょうか? どうでしょう、なんか構成法がずいぶん抽象的というか、一括処理すぎるというか、雲をつかむようというか……あまり「手作り」の感じはしないですよね……。
2012-12-20 00:38:42(35)「有理数全体をカットするありとあらゆるやり方」にせよ、「有理数からなるありとあらゆるコーシー列」にせよ、なんだかずいぶん大げさな話で、具体的に「数を作った」という実感にとぼしい。そう、この実感のとぼしさこそが、《実数》という名前に反して、その怪しさの原因だと思います。
2012-12-20 00:45:48(36)よく無理数の例として出されるのは、√2 などの「ルートの数」ですが、これは「x^2-2=0 の(正の)解」というように数式で容易に特徴づけられるので、やっかいではない。(このように、有理係数n次方程式の解となる実数を「代数的数」といいます。実数全体からすると、稀です。)
2012-12-20 00:53:31(37)実際にやっかいなのは、ぜんぜん特徴づけがない実数です。そして、そんなのがほとんどです。「少ない」とか「ほとんど」とかいう言葉の意味をきちんというには《濃度(cardinarity)》のことを言わねばなりませんが、それはまた今度、ですね。
2012-12-20 00:58:22@yon_ichiro 何というか、乱暴な言い方ですが「有理数だけだとあまりにもスカスカで気持ち悪いから、逆にその穴を無理数と定義してみた」っていう流れでいいんでしょうか。間違ってる感覚だったらすみません。
2012-12-20 00:46:09@melting___point そうですね、ただ、その「気持ち悪い」にちゃんと数学的な裏づけがある、ということをわかるのが大切です(今回はそこまでの話はできそうにもないですが)。実際には「…であるから、この数列には極限が存在する。それをαとすると、…」みたいな議論をします。
2012-12-20 01:00:13(38)直線を一本考えると、それを数直線だと思い、その上には数がぎっしり乗っていると考える、のはごく普通のことに思えます。しかし、そこでいう「数」とは大半が無理数で、その特徴づけ、というか、正体は、全然言語化できません。そんなのも数だと思って、数学は進みます。
2012-12-20 01:03:19