あざらしさん( @azarashidayou )による叙述トリック犯罪学教程
- moritapodesu
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種明かしをする前に、もう1つのトリックを紹介しましょう。あなたはこんな風に始まるホラー映画を観たことはありませんか?
2013-01-05 23:14:16超上級例題2-1:「なあみんな、あの噂知ってるか?」「ガチャ子さんでしょ?」「隣町の中学でホントに人が死んだってね」「ガチャ子さんて四回呼んだら、それを聞いてた人が全員殺されちゃうって」「まず最初に目が潰されるんだって」「ガチャ子さん、ガチャ子さん、ガチャ子さん、」
2013-01-05 23:14:53超上級例題2-2:「ちょっとやめてよケンジ!」「バーカ、こんなの平気だって。ガチャ子さん、ガチャ子さん、ガチャ子さん、ガチャ子さん…ほら、な?何も起きない」「ケンジ、あんた何が起きても知らないからね!」次の日、ケンジが死体で発見される。その死体は目が潰されていた。
2013-01-05 23:15:37こういう冒頭は、視聴者に情報を圧縮して伝えるのに適していますね。「ガチャ子さん」なる存在がいて、四回呼ぶと、それを聞いていた人全員を、まずは目を潰した後、殺すらしい。それで本当に死んだ人がいるらしい、ケンジもどうやらそれで死んだ、と。
2013-01-05 23:16:05しかし、それら全体で、結局何を言いたいのでしょう? 製作者からの大きなメッセージはなんでしょうか? それを考える前に、続きを見てみましょう。
2013-01-05 23:16:43超上級例題2-3:ケンジがガチャ子さんを呼んだのを聞いていたメンバーが、次々と死んでいく。死体はいずれも目が潰されていた。「みんなガチャ子さんに殺されるんだ…!」残されたナオとミエは、学校一の秀才でオカルトマニアの魅堂サヤカに相談をするが、「ガチャ子など存在しない」と一蹴される。
2013-01-05 23:17:03超上級例題2-4:「そんな!だってみんなが死んでるんだよ!」食い下がるナオにサヤカはこう言い放った。「噂の広まる過程を調査するために、ガチャ子の噂を作ってばら撒いたのはこの私なの。だからガチャ子なんているはずないわ。いるのは連続殺人犯だけよ。れっきとした人間のね」
2013-01-05 23:17:48さてこれで何かしら驚いたとしたら、あなたはなぜ驚いたのでしょう。そう、普通に考えれば例題2-1と2-2の製作者の大きなメッセージは「今から始まるお話はホラーですよ」なのです。それが2-4で否定されたので意外に思った。
2013-01-05 23:18:15つまり「ホラーだと思ったのにホラーではなかった」ので驚いたのです。ここで超上級例題1を思い出してください。そう、これもファンタジーと思わせてファンタジーでなかったのです。BOFはそれを仕掛ける手段に過ぎなかった。
2013-01-05 23:18:37さて詳しく語る前に用語を整理します。霊能力やサイコキネシスを「超能力」、幽霊やゾンビや神、悪魔などを「超存在」、未開発の毒や未発見の粒子などを「超物質」、呪いや未来の科学技術を「超技術」としましょう。
2013-01-05 23:19:01そしてこれら四つの「超」が一つ以上出てくる世界を「有界」、一つも出てこない小説を「無界」と定義します。その上で「無界小説と見せかけた有界小説」を無有小説、「有界小説と見せかけた無界小説」を有無小説と呼ぶことにしましょう。
2013-01-05 23:19:24例題では分かりにくかったでしょうが、仮に超上級例題1の、あの作中作がファンタジーとしての醍醐味をすべて抑えた上、斬新な設定を導入してそれが成功しており、ファンタジーとしてとてつもなく面白かったら。
2013-01-05 23:20:14その場合、「ファンタジーは作中作だったから」という理由であの例題を「ファンタジーでない」とは言えないと思います。かといって最終的にはファンタジーであることは破棄されるわけですから、「ファンタジーである」というのも正しくないように感じられます。
2013-01-05 23:20:36ここで泥沼にハマらないように、ジャンルとは似て非なる「システム」という概念を提唱します。システムとは「方法論」のことと考えてください。例えば『ハリーポッター』シリーズは最初から最後まで、ファンタジーシステムを使って書かれていました。
2013-01-05 23:21:04しかし超上級例題1は、奇数章はファンタジーシステムで書かれており、偶数賞は無界システムで書かれています。しかしBOFにより、すべてファンタジーシステムで書かれていると錯覚させていたのです。
2013-01-05 23:21:29こうした用語を踏まえた上で聞いてください。現代本格というのは、遂に「システムを錯誤させる」ようにまでなったのです。
2013-01-05 23:22:13さてシステム錯誤と言えば、「言い張り」の例題を思い出してください。私が「横山秀夫さんの新作として読んで欲しい」と言ったアレです。「言い足し」だけで成り立っているわけではないのでは、と言ったことを覚えているでしょうか。
2013-01-05 23:22:38そう、実はあれは「無界小説と見せかけてゾンビ(ホラー)小説」、というシステム錯誤トリックも仕掛けられた、無有小説だったのです。
2013-01-05 23:22:58例えば密室殺人事件で、犯人はどうやって密室から出たのかを謎として設定する小説。謎を提示して読者に考えさせたあと、解決編で「実は犯人は宇宙人で、ワープして逃げた」ということにすれば、それだけでシステム錯誤トリックが成立します。
2013-01-05 23:23:58しかしそれでは「そんなものはアンフェアだ」「子供騙しだ」という評価は免れません。実は「言い張り」という技術が出てきたのには、それが背景にあるのだと思います。
2013-01-05 23:24:18先の例なら、小説の初めの方で「宇宙人は実在するんだ!あいつらはワープだってできるぞ!」と言い張るおじさんを登場させ、読者にはそのおじさんは頭がおかしいんだと思わせる。そして解決編で「実はこれは宇宙人のしわざ。ワープしたんだ」と明かす。
2013-01-05 23:24:52この場合、おじさんの言うことを信じていれば読者にも謎が解決できたわけですから、この作品はフェアだ、と作者は言い訳することができるのです。おじさんを疑ったのは読者の判断でしょ、と。
2013-01-05 23:25:13