あざらしさん( @azarashidayou )による叙述トリック犯罪学教程

中のひとがあの方だといううわさのある、あざらしさん( @azarashidayou )による叙述トリック犯罪学教程をまとめました。「初級編」、「中級編」、「おまけコラム1-2」、「上級編」、「おまけコラム3-4」、「超上級編」、「おまけコラム5-6」、「異端編」、「総括」の構成になっています。
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アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

さて「無有小説」は単純な構図だということはわかったと思いますが、「じゃあ有界小説と見せかけた無界小説をどう実現するかな」と考えた作家がいるわけですね。

2013-01-05 23:25:49
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

そこで出てきたのがBOFです。実は超上級例題2も、登場人物の嘘や勘違いを虚構内虚構と捉えれば、BOFであったと理解してもらえると思います。あれは「システムの言い含め」です。

2013-01-05 23:26:05
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

夢オチじゃないか、単なる嘘じゃないか、と言うなかれ。なぜなら、魔法や幽霊という有界的論理で説明してきた現象が、実は無界的論理で説明できる。よく考えるとこれは、ゴリゴリの本格のスタイルでしょう。

2013-01-05 23:26:37
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

ここを強調しておきたいのですが、ベースオンファンタジーの「ベース」とは、読者がその世界を理解するための基礎、という意味だけではありません。そこに気を取られ「世界の反転」に酔ってしまい、他がどうでもよくなるのも仕方ないとは思います。

2013-01-05 23:27:14
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

しかし実は、論理の拠って立つ基盤、論理のベースもまた反転しているのです。魔法や幽霊という説明基盤を失ってなお、論理的に説明できるということの驚き。「論理で説明できる」という凄さを、改めて読者に実感させるスタイルですね。

2013-01-05 23:27:41
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

さて無有小説にせよ有無小説にせよ、作者の腕の見せ所はダブルミーニングとして作用するシーンです。簡単な例を挙げましょう。超上級例題2のお話で、「次はあんただよ」とガチャ子さんの声がした、というシーンを入れたとします。

2013-01-05 23:28:10
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

作者の狙い通りホラー小説だと思って読めば、このシーンはガチャ子さんからの殺人予告としか思えません。しかし無界小説として再読した際には「幻聴を体験したのだろう、よほど精神的に追い詰められていたんだな」などと読者は考えるわけです。同じシーンでも、意味がかなり変わってきますね。

2013-01-05 23:28:37
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

もちろん無有小説でもダブルミーニングのシーンは重要です。

2013-01-05 23:29:08
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

例えば自称ゾンビの後輩刑事がものを全然食べなくなった、というくだりを初めの方に入れておく。「断食二十日目です」などと言わせておけば、「そんなに食べないで動けるなんて変だな」と読者に注意を喚起できます。しかし普通は「妙な冗談だな」ぐらいで流してしまう。

2013-01-05 23:29:48
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

その部分を「実は本当にゾンビだった」と明かした後で読み直すと、「ああ、こんな前半から既に伏線を張っていたのか。ゾンビになって二十日目って意味だったんだな」と真の意味がわかり、作者の手腕に驚くわけです。

2013-01-05 23:30:15
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

このように、読者が真実を知った後で読み返した時に「ここって本当の意味はこういうことだったのか!」と驚くようなシーンを、どれだけ入れられるかが重要です。しかしそれにはもちろん、再読したくなるぐらい面白くなければなりませんが。

2013-01-05 23:30:45
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

オマケコラム5:「有無小説の爆発力、その可能性と理想、そして推理小説之神の動向について」有無小説では「実は無界小説である」ということをバラす直前まで、読者には有界小説と思っていてもらわなければなりません。

2013-01-05 23:31:40
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

ということは解決編近くまでは、有界小説としての魅力で読者を引っ張っていかないと、読むのを止められてしまう可能性があるということです。

2013-01-05 23:32:18
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

つまりただ有界小説に見せかけるのでは不十分で、「面白い有界小説に見せかける」必要があります。ミステリしか読んでいない方がつまずくのは、この部分ではないでしょうか。面白いファンタジーが書けますか? その自信がないのなら、ファンタジーに見せかけるのは止めた方がよいでしょう。

2013-01-05 23:32:41
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

しかし逆に言えばこれはチャンスです。あなたが新人ミステリ作家だとして、例えば島田荘司さん、笠井潔さん、綾辻行人さんらに肩を並べたり、あるいは超えたり、というのは一朝一夕にはいきそうにありませんよね。

2013-01-05 23:33:10
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

才能を別にしても、本格を読んできた読書量、本格を書いてきた原稿の枚数、本格について考えてきた総時間量、生きていく中で色んな事を感じてきた人生の総時間量。新人はこれらで圧倒的に負けているからです。

2013-01-05 23:33:36
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

でも、と立ち止まって考えてください。もしかしたら、あなたは御三方に、ファンタジーを読んできた読書量、ファンタジーについて考えてきた総時間量で、勝てるのではありませんか?

2013-01-05 23:34:06
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

もしその条件に当てはまるなら、ファンタジーに見せかけた無界本格ミステリなら、あなたは御三方より面白く書ける可能性がある! どうせ書くなら「大物に勝てる戦略」でいこうではありませんか。

2013-01-05 23:34:39
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

しかしその戦略でいくなら、小さくまとまっていては絶対にダメです。そのため枚数制限のある新人賞に有無小説を送るのはやめた方がいいでしょう。新人賞というのは、長くても一巻ものですよね。しかし凄く高い理想を言いますと、有無小説は、有界小説に見せかけたまま、巻をまたぐべきなのです。

2013-01-05 23:35:17
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

書店によく行かれる方はわかると思いますが、宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』三部作は、一冊一冊が非常に分厚いですよね。

2013-01-05 23:35:43
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

それを踏まえて考えてみてください。もしもあの分厚さの三部作が、実は有無小説だったら。しかも「本当は無界小説である」と判明するのが、三巻目の半分を過ぎた所だったら。これはとてつもなく凄いことです。

2013-01-05 23:36:22
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

例えばファンタジーに見せかけた小説だとしましょう。それが三巻目の途中で無界小説だとバレるということは、一巻と二巻はまるごと、ファンタジーとして読ませてしまうわけです。これはファンタジーとして、凄く面白くないといけません。

2013-01-05 23:37:00
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

読者は普通のファンタジー小説だと思って一巻や二巻を読み、評価して続きを読もうかどうか決定するわけですから、ぬるいものを書いていたら次の巻は買ってもらえません。そして三巻目まで読ませたら途中で無界と明かす! 全てのシーンが覆る! これは歴史に残る衝撃作になるでしょう。

2013-01-05 23:37:26
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

第一の目標は読んでもらった編集さんに「これせっかく面白いんだし、最後までファンタジーでいいんじゃない?」などと言わせることです。そこで「いえ私は本格ミステリ作家なので」と答えたらこれ以上カッコイイことはない。

2013-01-05 23:37:59
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