ミステリ周りの用語:英語圏での扱い

気になっていたことについてご教授いただいたので忘れないようにまとめておく。
19
あびこ @sukiyapotes

昔から感じていることだが、映画化やブロックバスターを当てにした米英の作品よりも、フランス作家の方が日本ミステリと近い位置にいるような気がする。アルテは言わずもがなだが、一時期よく訳されたオベールとか。千野帽子さんあたりならまとまった考えがあるかもしれないので聞いてみたい。

2013-01-09 00:12:07
ちに(小) @small_chini

@Schunag 小説のもたらす感慨を話す時、言いたいことの5割もいえない、わかります!わたしも小学生低学年になります>< 倒叙(文学一般)にあたる単語をどこかでみたのですがみつかりませんでしたが、代わりにこんなのみつかりました。http://t.co/kNhtVw85

2013-01-09 06:30:07
Schün Ngash @Schunag

@small_chini おお、ありがとうございます!>倒叙。この時点ではあちらのミステリ評論と同期していたということですね。でも、この文字も見たことがないので死語になってしまっているんでしょうか。。。

2013-01-09 09:42:45
EL-CO @EL_CO4tw

文学上の技法の一覧、とかあるのね。面白いな。技法としては倒叙法はFlashforwardと言えばいいのかしら?いわゆるミステリにおける倒叙法は単に未来の場面を挟み込むだけではなく、そこにある種の意図を想定していると思うけれど。http://t.co/ehOZmJrt

2013-01-09 11:33:42
EL-CO @EL_CO4tw

そもそもミステリにおける犯人の工夫を「トリック」と称したのは誰が最初なのかしら?ミステリ談義での「トリック」は知的ななにか、という感じがするけれどもともとの英語のTrickってもっとなんか詐術的な騙し、ってニュアンスな気がするのよね。ふーむ。

2013-01-09 11:36:31
EL-CO @EL_CO4tw

いやまあ貧弱な英語力で適当なことを言ってはいけない(自戒

2013-01-09 11:37:21

ここからは「トリック」という用語に焦点を当てて。

あびこ @sukiyapotes

http://t.co/He0Mh4p6 「トリック」という言葉の日本での使われ方については誰か何か書いてたような気もするのだけど思い出せない。詳しい人よろしく。

2013-01-10 14:59:12
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

@sukiyapotes @EL_CO4tw 小鷹信光氏が、「<トリック>は純日本製ミステリー用語」というエッセイを書いてますよ。初出は日本推理作家協会会報1981年9月号で、『マイ・ミステリー 新西洋推理小説事情』(読売新聞社、1982年)に収録されています。

2013-01-10 17:19:46
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

@sukiyapotes @EL_CO4tw 内容はまさに、日本語の「トリック」と英語の「trick」の違いについてです。「和製ミステリー用語である<トリック>の概念をここらで英米ミステリー界に逆輸出したらどうだろう。」というのが結びの一文です。

2013-01-10 17:22:48
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

@sukiyapotes @EL_CO4tw それから手元にはないのですが、『EQ』1983年7月号掲載の小鷹信光氏のエッセイ「“trick”は<トリック>?」も、同じようなことを扱ったエッセイじゃないかと思います。

2013-01-10 17:32:23
あびこ @sukiyapotes

@Colorless_Ideas ありがとうございます。幸い両方手元にありました。読んだのがあまりに昔なので小鷹氏とは思いもよりませんでした。もっと本格寄りの人かと思ってました。

2013-01-10 18:33:55
あびこ @sukiyapotes

「EQ」83年7月号のエッセイは『マイ・ミステリー』の追記に当たるもので、「日本と同じような用例らしき評を発見した」という、ある意味前エッセイを覆すものでした。@Colorless_Ideas

2013-01-10 18:36:13
あびこ @sukiyapotes

『マイ・ミステリー』で小鷹氏が日本での〈トリック〉に近い英単語として考えられるものとして列記しているもの。plot,plan,method,trap,gimmick,ploy,scheme,conspiracy,intrigue,machination,deception.

2013-01-10 18:49:16
あびこ @sukiyapotes

最後のdeceptionは作家・評論家のジュリアン・シモンズが“〈トリック〉にほぼ該当する言葉として用いている”とのこと。

2013-01-10 18:50:37
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

英語の「trick」と日本語の「トリック」の違いが話題になっていましたが( http://t.co/G86YzsJv )、ヴァン・ダインの評論文内の「trick」の用法を検討したところ、なぜ英語圏と日本でこのように意味がずれたのかが分かった気がするので、5連投します。

2013-01-10 22:19:49
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

(1)ヴァン・ダインが1927年に発表した「推理小説論」(創元推理文庫『ウインター殺人事件』巻末に収録)を原文と対照させながら読んでみると、ヴァン・ダインが「探偵=犯人」や「語り手=犯人」などをtrickと呼んでいるのが分かる。

2013-01-10 22:20:22
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

(2)ただこのtrickはよく読んでみると、日本語の〈トリック〉とは違い、「読者に対するペテン」、「読者に対する裏切り行為」という意味・文脈で使われていることが分かる。

2013-01-10 22:20:56
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

(3)ヴァン・ダインは有名な二十則の第二則で「語り手=犯人」を、第四則で「探偵=犯人」を禁止している。これらをヴァン・ダインは、作家と読者との間の紳士協定を破るtrick(ペテン)だと考えていたのである。

2013-01-10 22:21:19
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

(4)二十則の第二則には「trick」、第四則には「trickery」という単語が使われている。これらもやはり、読者に対する「ペテン」という意味で使われている(創元推理文庫『ウインター殺人事件』巻末の井上勇の訳だとそれぞれ「ぺてん」、「詐術」)。

2013-01-10 22:22:08
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

(5)つまり、ヴァン・ダインは読者へのトリックのことをtrickと読んでいたので、叙述トリックこそが本来のtrickということになる。それが日本では、「『語り手=犯人』のトリック」というところから始まって、密室トリック、物理トリックなどの用法に拡張されていった、のだろう、たぶん。

2013-01-10 22:22:43
Dokuta 松川良宏 @Colorless_Ideas

(5)の訂正:×「trickと読んでいた」→○「trickと呼んでいた」

2013-01-10 22:54:53
EL-CO @EL_CO4tw

TrickやDeceptionは“騙す”“引っかける”的な詐術の意味合いが強い単語で、「トリック」の持つ(含む)“知恵比べ”的な意味合いは持っていないように思う。

2013-01-11 06:22:28
EL-CO @EL_CO4tw

そういう意味で、@Colorless_Ideasさんからご指摘のあったヴァン・ダインの使ったTrickはつまり「それはアンフェアである」という意図があるわけで、Trickは必ずしも叙述トリックを指しているわけではないと思う。

2013-01-11 06:23:54
EL-CO @EL_CO4tw

いわゆる本格推理における「トリック」(読者への挑戦的なもの)は、様々なお約束に立脚したものであって、そこを揺るがすようなものはアンフェアと言われても仕方がない(と思う)。だからこそ叙述トリックはTrickと表現されうるのである。

2013-01-11 06:26:15