不完全性定理①

数学基礎論に終止符をうつことになった不完全性定理とはなにかをまとめたものです。
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アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

背理法:ある命題が偽であると仮定して推論を続けると、矛盾した結論が生じるとき、もとの命題は真であるとする証明法。帰謬法、間接証明法、間接論証、間接還元法ともいう。

2010-02-02 21:11:03
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

ゲーデルのこのような姿勢は、彼の数学・科学・ヨーロッパの近代化に対する見方と密接に関連している。ゲーデルに限らず、ヒルベルトのテーゼに対する態度を如何にとるかということは、数学ひいては科学や合理性に対峙する自らの立場を鮮明にするということと非常に関係が深い。

2010-02-02 21:14:09
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

ヒルベルトのテーゼのような「形式系への立場表明」を鮮明にしないかぎり、〈数学的不完全性定理〉から明瞭な〈数学論的不完全性定理〉を導くことはできない。こうした立場を欠いたままにしておくと、誤解や混乱が起きる。

2010-02-02 21:14:34
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

ゲーデルの定理から何らかの思想や人文社会学的理論の妥当性を「証明する」ことはできない。ゲーデルの定理をヒントにすることはできるが、その主張の妥当性は考察の対象に即して議論しなくてはならない。

2010-02-02 21:14:53
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

以上のことを踏まえておかないと、あたかもそれによって証明されているように見せかけるという手法でもって読者をかく乱する知的テロに遭遇した際に、それに対する防御策がないので、意図的でなかったとしてもそれを利用することは知的テロに加担してしまうことになる。

2010-02-02 21:15:11
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

このことを理解することで、数学論的部分や上記のような知的テロに幻惑されるなどといったことが減る分、〈数学的不完全性定理〉の理解はしやすくなるが、それは単に「数学としてのゲーデルの定理」以外のかく乱要素を排除するために役立つだけである。

2010-02-02 21:15:42
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

以上のことを理解したところでゲーデルの定理の数学的内容そのものが理解できるというわけではない。その理解の順序としては、数学論とは一切切り離された〈数学的不完全性定理〉を理解するのが先決であり、その上で自分の〈数学論的不完全性定理〉を持つしかない。

2010-02-02 21:15:58
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

ゲーデルの証明の数学技術的な理解を自分自身では行わずに、それが正しいことだけを信じて〈数学論的不完全性定理〉を論じることができるのは、きわめて優れた判断力とバランス感覚の持ち主だけだという。

2010-02-02 21:18:57
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

もう一度ヒルベルトのテーゼを持ち出しておきたい。

2010-02-20 16:11:26
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

ヒルベルトのテーゼ:現実の「数学論」は、数理論理学の概念である形式系により、忠実に再現されるので、「数学論」について語るには、「形式系」について語れば充分である。つまり、「形式系」という言葉で「数学論」という言葉を置き換えてもよい。

2010-02-20 16:12:06
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

そもそも「形式系」とは何なのか。それは人工物としての数学である。形式系では命題や証明という概念に「機械的定義」が与えられ、定義されたものが形式的命題、形式的証明と呼ばれるようになる。それらを使えば不完全性や無矛盾性などの概念が「意味不要」で数学的に定義できる。

2010-02-20 16:12:34
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

形式的証明には、その証明の正しさの判断に人間が必要でない。それはコンピュータでできることである。それが「機械的」と呼びうるのは、その数学的知が「意味不要」の規則的操作に還元されたものであるということと同然だからである。

2010-02-20 16:12:49
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

つまり、人間がするように内容を理解することによって証明の正しさを判断する必要は無い。このような「機械仕掛けの数学」を数学と同一視するヒルベルトのテーゼの背景には、壮大な「数学の厳密化」、「数学の基礎付け運動」の歴史的背景がある。

2010-02-20 16:13:05
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

不完全性定理が登場する直接の契機となったのは、その歴史の最終局面において登場した「ヒルベルト計画」である。ヒルベルトのテーゼはこの中で生まれた。「数学の厳密化」の歴史とゲーデルとをつなぐ『ヒルベルト計画』とは以下の通りである。

2010-02-20 16:13:28
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

第一段階:ヒルベルトのテーゼの基礎付け 現実の数学を形式系というコピーに写し取る。以後、数学の実体は忘れ、このコピーを数学本体と見なす。

2010-02-20 16:13:44
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

第二段階:無矛盾性の証明 形式系の無矛盾性、つまりどの命題もそれ自身とその否定が同時にその体系内で証明されることが無い、ということを示す。これにより、自己矛盾することがないという意味で、数学の絶対的安全性が保証される。

2010-02-20 16:13:59
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

第三段階:完全性の証明 形式系の完全性、つまり「どの命題についてもそれ自身かその否定のどちらかがその形式系で証明できる」ということを示す。これにより、数学の問題は常に解決できることは判り、その意味で数学が完全無欠であることが示される。

2010-02-20 16:14:15
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

この『ヒルベルト計画』が成功すれば、数学が「安全」であり、また「完全」であることが確立されるはずであった。ゲーデルは本来、『ヒルベルト計画』を推進しようとし、第二段階を実数論の形式系の場合に実行しようとしていた。

2010-02-20 16:14:34
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

その努力が、結局『ヒルベルト計画』の第二・第三段階が実行不可能であることの発見へと結びついて、数学の厳密化、数学の基礎付けに終止符をうってしまうのである。

2010-02-20 16:14:57