山本七平botまとめ/【不合理性と合理性②】/日本軍が常識や実生活から遊離した組織となってしまった理由とは/~輸入された組織が陥る「ものまね」の陥穽~

山本七平著『日本はなぜ敗れるのか』/第11章 不合理性と合理性/277頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】《【レイテ島】…機帆船で行く事にした。…この船団の指揮官は若い少尉で、我々が申告に行かぬといってカンカンになって怒ってきた。実に生意気な奴だ。気分を害す。…生意気な奴と一緒の船の中にいるのは一日でも少い方が良いので…下船してしまった。》<『日本はなぜ敗れるのか』

2013-01-10 00:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

2】これは指揮系統という点から見て行くと、大変に面白い事件である。 統帥権に基づく指揮権は少尉にある。 しかし実際に船を運航する技術は船長しかもっていないから、実質的な指揮権は船長にあるのであろう。

2013-01-10 01:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

3】いわば技術と知識が、階級と名目的指揮権を超えて、実質的にはこの少尉をも指揮している。というややこしい状態の中に、文官だが自分より階級が上の小松氏が乗船して来た。 小松氏は、武官とはいえ階級が下である少尉のところに申告に行く気はない。

2013-01-10 01:57:37
山本七平bot @yamamoto7hei

4】となると、彼は、指揮官といいながら、あらゆる方面から無視されて、カンカンになって怒る。 これも、航海という技術、および小松氏という技術者を、組織の中でどう位置づけたら合理的かという問題意識が陸軍に全くなかった結果であろう。

2013-01-10 02:27:45
山本七平bot @yamamoto7hei

5】以上の態度は、あらゆる面で、専門家を排除するという形にもなる。 そして、「完全に合理的な組織」と見えるものが、非合理性を含む社会から浮きあがってしまい、その合理的体系それ自体が、虚構の合理性しか持ちえぬ非合理集団と化してしまうのである。

2013-01-10 02:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

6】そしてこの点において、比島における日本軍の完全な失敗は、軍政、特に経済政策であった。 ある意味で日本軍は、米軍上陸前にこの面で敗北していたといえる。

2013-01-10 03:27:45
山本七平bot @yamamoto7hei

7】軍部は現地自活方式をとらざるを得なくなり…現地で自活するには現地の経済をどのように再編成すべきかという意識は全くなかった。否、現地の経済の分析すらしていなかった。 そしてただ軍票を発行して物資を購入していれば、現地の事情も大して変化なく、自分達も自活していけると考えていた。

2013-01-10 03:57:37
山本七平bot @yamamoto7hei

8】もちろん軍は、経済の専門家を現地に派遣した。 しかし…その人は「司政官となって比島にきた。着任直後、低物価政策を進言したが、軍人には理解できず彼の説はいれられなかった」 で、いわば小松氏に対して河野少将がとったような態度で、無視されたわけである。

2013-01-10 04:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

9】そして軍は経済的支配権の確立に対してはただ比島全部を軍の組織に組み入れて弾圧すればよいと考えていた。だがその結果恐るべき急激なインフレに見舞われた。…このような事態は至る所に現出する。 否、日本全部が同じ状態だったと言ってよい。なぜこうなるのか、その基本には何があったのか。

2013-01-10 04:57:38
山本七平bot @yamamoto7hei

10】一言でいえば、これが「ものまね」の結果である。 一つのものを自ら創作したものは、自分で創作したのだから、また新たに創作し直す事ができる。 否、そういう社会では、創作とは常に今までのものを創作し直す事にすぎない。 いわば自著だから改訂を続ける事ができるという状態である。

2013-01-10 05:27:48
山本七平bot @yamamoto7hei

11】一方「まね」をしたものは、こうはいかない。 簡単な例をあげれば「日本版マスキー法」と同じ形になってしまうのである。 マスキー法をつくった者は、これを自由に改訂できる。 しかしこれを、一つの「権威」として輸入したものは「権威」であるがゆえに、動かせなくなるのである。

2013-01-10 05:57:37
山本七平bot @yamamoto7hei

12】そして、その際必ず出てくるのが「本家よりきびしくしておけば大丈夫」という行き方であり、それは同時に「本家よりきびしいのだから、自分の方が本物だ」という主張にもなる。

2013-01-10 06:27:44
山本七平bot @yamamoto7hei

13】組織の絶対制とか、軍紀のきびしさ、礼法の厳密さ、という点では日本軍は、世界のあらゆる軍隊よりきびしく、融通がきかず、そしてこの融通がきかないことを、逆に、一つの誇りとしていた。

2013-01-10 06:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

14】従って、組織そのものを見れば超合理的でありながら、現実から遊離した、完全に不合理なものとなっていた。 そしてそのことは、日本軍のすべてが、日本人の実生活に根づいておらず、がんじがらめで、無理矢理に一つの体系をつくっていたことである。

2013-01-10 07:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

15】その為、全ての人間が、一言でいえば「窮屈」で堪らない状態に置かれていた。そしてこの「窮屈」を規律と錯覚していたのである。 私は戦後、収容所の中でアメリカ軍との、この差をつくづくと感じた。 彼らの軍隊は、いわば、その国の普通の市民生活の生活の型の上に成り立っているのである。

2013-01-10 07:57:36
山本七平bot @yamamoto7hei

16】軍隊には「気をつけッ」という姿勢がある。 いわゆる「不動の姿勢」であり「不動の姿勢は軍人基本の姿勢なり」ゆえに「内に軍人精神充実し、外、厳粛端正ならぎるべからず」といわれていたが、アメリカ人においては、これが、市民の規律正しい姿勢であり、軍隊だけの姿勢ではない。

2013-01-10 08:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

17】由緒あるレストランのウェイターが、礼儀正しく立っている姿勢がすなわち不動の姿勢であり、それが軍隊でも同じだというだけである。 しかし、今よりも畳の上の生活が自然であった日本人にとっては、これは、社会の基本の姿勢ではない。

2013-01-10 08:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

18】したがって、こういう姿勢をとらされるということ自体がきわめて不自然なことであり、苦痛を強いられることにすぎない。 以上はいわば「基本的姿勢」だが、これがすべての面に現われている。

2013-01-10 09:27:57
山本七平bot @yamamoto7hei

19】彼らの、スタッフとラインで構成される組織は、彼らの社会に共通の組織であり、軍隊組織も会社組織も大学も、基本的には変化はない。 すべての組織で、その細部とその中での日常生活を規制しているものは、結局、その組織を生み出したその社会の常識である。

2013-01-10 09:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

20】常識で判断を下していれば、たいていのことは大過ない。 常識とは共通の感覚であり、感覚であるから、非合理的な面を当然に含む。 しかしそれはその社会がもつ非合理性を組織が共有しているがゆえに、合理的でありうる。

2013-01-10 10:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

21】しかし輸入された組織は、そうはいかない。 その社会の伝統がつちかった共通の感覚は、そこでは逆に通用しなくなる。 従って日本軍は、当時の普通の日本人がもっていた常識を一掃することが、入営以後の、最初の重要なカリキュラムになっていた。

2013-01-10 10:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

22】だがこの組織は、強打されて崩れ、各人が常識で動き出した瞬間に崩壊してしまうのである。 米英軍は、組織が崩れても、その組織の基盤となっている伝統的な常識でこの崩壊をくいとめうる。 この点で最も強靱なのはイギリス軍だといわれるが、考えてみれば当然であろう。

2013-01-10 11:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

23】だが、日本軍は、全くの逆現象を呈して、一挙にこれが崩壊し、各人は逆に解放感を抱き、合理的だったはずの組織のすべてが、すべて不合理に見えてしまう、――そして確かに、常識を基盤にすれば、実際に不合理だったのである。

2013-01-10 11:57:40