バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト #8

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト」 #8

2013-02-12 19:18:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BRATATATAT……「イヤーッ!」「アバーッ!」……ナンシーは殆ど壁一つ隔てた先で行われているが如き戦闘音に囲まれながら、タイピングをますます速めた。モニタにはこの宮殿の新たな見取図が表示されては消えてゆく。ナンシーはより深い階層に隠されていた幾つかの情報を得ようとした。 1

2013-02-12 19:31:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女が求めるのは、先の大蛇インシデントにより存在が明らかとなった、隠し通路……隠し区画。ゾッとしない話だ!だが、未知の危険へ飛び込む事と、このままここで狂乱したニンジャを待って殺される事、秤にかければ逡巡の余地はあるまい。「イヤーッ!」「アバーッ!」……銃声が止んだ! 2

2013-02-12 19:36:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーはケーブルを引き抜き、奥の戸口へ走った。ゴウン!ゴウン!もと来た方向から激しい打撃音が響く。この区域のセキュリティを限定的にハックし、シャッターを下ろした。早速それをバロールが破ろうとしているのだ。パオーウー!パオーウー!警報音!これもナンシーが敢えて行った! 3

2013-02-12 19:43:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「女ーッ!女ーッ!血ィーッ!」後ろから聴こえる唸り声に身を震わせ、ナンシーは奥の廊下に飛び出した。TATAT……再び銃声が聴こえ出した。増援がバロールと交戦しているのだ。ナンシーは角を曲がり、狭い階段を上る。踊り場の壁に手を触れる。ここだ。滑らかな壁に微かな切れ目がある。 4

2013-02-12 19:49:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは切れ目に爪を挿し入れ、薄い板を剥がした。何たる巧妙な隠匿であろうか。そこにはダストシュートめいた壁穴が口を開いていた。上からドカドカと階段を駆け下りてくる音が聴こえる。別方向から合流にかかろうとしている護衛戦士だ。迷う暇なし!ナンシーは四角い闇の中へ飛び込む! 5

2013-02-12 19:59:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンアーッ!」……闇の中の滑り台から放り出されたナンシーは、呻いて起き上がり、道中でせしめた口紅大のLEDライトを点灯した。彼女は迷宮じみた石壁の通路の中にいる己を見出した。アコライトを閉じ込めていた地下牢に似たアトモスフィアだ。 6

2013-02-12 20:09:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは自らが滑り降りて来たシュートの出口を見やる。追っ手の判断次第では、ここまでしつこくやってくるかもしれない。まだ気を抜くわけにはいかない。何より、この不気味なエリアが無害であるという保証はどこにもない。彼女はあの時の大蛇を脳裏に思い浮かべる。そして闇の中を歩き出した。 7

2013-02-12 20:11:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

このエリアはどのようにして造られたものであろう?滑り降りた時間感覚からすればここはおそらく地下である。セッタイ・アイズルはもとは石油施設だ。過去の何らかの地下通路を改装したものだろうか。やがて、緩やかに弧を描く通路の奥から、啜り泣きとも、笑い声ともつかぬ声が微かに聴こえてきた。8

2013-02-12 20:25:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ウフッ、ウフッ……」「ウフフフッ……」ナンシーは眉をしかめた。女の声。それも一人では無い。彼女は息を殺し、錆びた格子扉を押し開けた。そこは円形の広間だった。広間の中央に太い柱があり、壁沿いに、歪んだ鉄格子の嵌った部屋が幾つもある。声はそれらの中から聴こえてくるのだ。 9

2013-02-12 20:31:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ナンシーはこの場所の存在自体を知らされていない。だが、これが何なのか……嫌な想像が容易に湧いてくる。彼女は秘書めいた立場にあったが、オイラン全ての動向を余さず管理していたわけでは無かったのだ。ガンダルヴァは彼女にすら隠していたのだ! 10

2013-02-12 20:38:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウフッ……ウフッ……」幾つかの目が闇の中からナンシーを見上げた。焦点の合わぬ目が。ヘラヘラと笑顔を浮かべた、痩せた女達が、マグライトの灯りに照らし出された。「……!」ナンシーは呻き声を殺した。ナムアミダブツ。腑に落ちぬ事は何もない。彼女らはオイランの成れの果てだ! 11

2013-02-12 20:44:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドラッグのオーバードーズ!あるいは怪我や病気!あるいは反抗的態度……?ガンダルヴァに見限られたオイラン達の行き着く先がこの秘密の闇なのか!「ウフフ、蛇神……蛇神様ァ……」骨と皮のように痩せ衰えた男オイランが床に額を擦り付け、虚空に手を合わせる。「!」ナンシーは別の足音を聴く!12

2013-02-12 20:51:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは咄嗟に格子の隙間を乗り越え、牢獄の一つへ潜り込んだ。十数人の痩せ衰えたオイラン達はナンシーを焦点の合わぬ目で追うばかり、殆ど無関心である。ナンシーは暗がりに身を潜めた。この判断が吉と出るか凶と出るか。タフな運試しだ!足音はいよいよ近づく……。 13

2013-02-12 21:20:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて、ナンシーがやってきた扉とは反対方向から携帯ボンボリの灯り!広間へ現れたのは二人。ナンシーは身を屈め、目を凝らす。一人はガンダルヴァだ。そしてもう一人……すぐに思い当たった……アコライトが捜していた「新人」だ。名をキナコ。 14

2013-02-12 22:07:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「蛇神様ァー」「御太子様ァー」オイラン達の乞い願う声がさざなみめいた。ガンダルヴァはキナコの首輪から伸びる鎖を引きながら、ゆらゆらと歩き進む。キナコの足取りは覚束ない。薬物による朦朧状態だろうか?「まこと情けなき事」ガンダルヴァが落胆じみて呟く。「神界の入江にありて……」15

2013-02-12 22:13:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア……」「だが秘儀の扉はいまだ開かれている……安心せよ、私が垂らす糸は強固だ、救いの道は……」「アア……」「頑なにならぬ事が肝要よ……此奴ら不覚の幽鬼の列にお前が加わる事は無い。救いの手を跳ね除けてはならぬ、身を任せよ。身を任せよ、さすれば」ガンダルヴァは柱にキナコを繋ぐ。16

2013-02-12 22:29:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーはじっとその様子をうかがう。今の彼女に出来るのはそれだけだ。ガンダルヴァは柱に繋がれたキナコから数歩離れ、装束を脱ぎ捨てた。ニンジャ頭巾とメンポの他は一糸纏わぬ裸体である。キナコが身じろぎした。「おお……」ナンシーの横で男オイランが震え、ヨダレと涙を垂らした。 17

2013-02-12 22:37:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて、おお……なんたる事か、床に置かれたボンボリは牢獄の壁に影法師を作り出す……ガンダルヴァの下腹部……伸びる……影が伸びる……太く長く、くねりながら、どんどんそれは大きくなる。ナンシーは悲鳴を噛み殺し、過去の恐怖の記憶に縋った。まだだ!まだ!これ以上の理不尽はまだあった!18

2013-02-12 22:40:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムアミダブツ!おお、ナムアミダブツ!ガンダルヴァから伸びた巨大な蛇が、ズルズルと広間を巡る!なんたる巨大大蛇!まさにそれは井戸から這い出したあの怪物そのものではないか!「アバーッ!蛇神様ァー!」隣の牢獄、あって無きがごとき鉄格子の隙間から、オイランが一人這い出す。蛇の凝視!19

2013-02-12 22:45:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!あたし体温何度あるのかなーッ!」痩せ細ったオイランは大蛇の前に自ら身を投げ出す!「SSSSZZZZ!」大蛇が巨大な顎を開く!そして、ナムサン!ナムアミダブツ!ひと呑みにした!何たる事か!ナンシーは口を押さえた。ガチガチと歯を鳴らし、震えた。 20

2013-02-12 22:51:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

これが!これがこのマッポー・オイラン・パレスに身を沈めたオイランがいずれ辿る末路なのか?それまでの日常を根こそぎ剥奪され、島へ拉致され、邪悪な快楽によって自我を壊され、地下へ集められた挙句、最後には邪悪なニンジャの蛇に呑まれて死ぬ、それが……!「SSSSSHHHHH!」 21

2013-02-12 22:58:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アハハハハハ!」同室のオイラン達が笑いあった。カラカラ、誰かが床の石をはねた。石ではない。ヒビ割れた頭蓋骨であった。大蛇はズルズルと広間を周り、柱のキナコに顔を近づけた。舌がチロチロと躍り、金色の眼が朦朧状態のキナコの目を覗き込む……! 22

2013-02-12 23:04:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その時だ!「女ーッ!女ーッ!血ィーッ!」「SSSZZ!」ガンダルヴァ大蛇は凝視を中断し、ナンシーがもときた扉の方向に首を巡らせた。広間へ飛び込んできたのは、バロールだ!「女ァー!」興奮状態のアクマニンジャを、首をもたげたガンダルヴァ大蛇が見下ろす!ナンシーは獄を飛び出した! 23

2013-02-12 23:12:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

恐るべき速度で大蛇がバロールへ襲いかかる!蛇すなわち全身が蠕動筋肉!凄まじい瞬発力だ。バロールはメンポの隙間から涎を垂らし、大蛇に殴りかかる!「イヤーッ!」「SHHHZZ!」ナンシーは蠢く大蛇をやり過ごし、柱のキナコへ駆け寄った。そして彼女の首輪の鎖を柱から外し、手を引いた。24

2013-02-12 23:18:37
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