第四十六話:今、行くよ。 第四十七話:人魚 第四十八話:鬼
- C_N_nyanko
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「じゃ、頼むよ」 「誰がいつ承諾したんだ」 君は肩をすくめた。 「硬いこといいっこなしだよ。俺は例の蛇娘を預かる、兄さんは女を調べる、それでとんとんだろ?」 「もう少し経緯を聞かせろよ」 僕は食い下がった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:44:24「だいたい、どうして悋気喰いの君が、そんな幽霊女と接点持ったんだ」 「嫌な事きくね」 君は息をこぼした。 「まぁ頼む以上は仕方ない、お話しよう」 事の起こりは三ヶ月前らしい。 君はとある女に出会った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:45:04「美人じゃないが、感じのいい女だったよ。一緒にいる人を自然と暖かい気持ちにさせてくれる女」 君は懐かしげに回想する。 「だけどある日男に手酷く捨てられてね、女は悋気の塊になった」 「君が食えばよかっただろ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:45:18「無粋だな。気軽に口づけできるほど安い女じゃないことぐらい、話聞けばわかるだろ」 存外細かいことを気にする奴だ。 「で、先月、女は身投げした。それがあの繁華街の橋なんだ」 「なるほど」 一部始終は理解した。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:46:05「で、君はその女が化けて出たんじゃないかと考えたのか」 「さすが兄さん、話が早いね」 君は手を打つ。 「男は見つけ出して報復したから良いとして、彼女が浮かばれないのは腑に落ちない。後生だ兄さん、手を貸してくれ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:46:21「僕なんかが話になるかな。だいたい、僕は必ず霊が見えるとは限らないんだぞ」 「そこをなんとかやってみてよ」 やれやれ、最近どうにも頼まれ事が多い。 「仕方ないな」 結局承諾して、僕は君と別れた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:46:51日延べするのも良くないと思ったから、その足で橋へ向かったよ。君が話した通り、女が立っていた。 だけどどうにもおかしい。実体がある。 「おい」 声をかけると女はこちらを振り向いた。それを見て、僕はほっとする。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:48:00なんだ、女子高生じゃないか。 「もう遅いよ、家に帰りな」 女の子は携帯を耳に当てたまま、こちらを見た。 「『大好き』」 携帯電話から音が溢れる。 なぜだかゾッとした。霊的な恐怖とか、そういうものじゃない。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:48:48目の前の女の子が微笑んだ、その表情に底知れないものを感じて、寒気がしたんだ。 「忠告ありがとう、おじさん」 女の子は携帯をしまって僕の横を通り過ぎた。なんとも嫌な感じがしたね。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:49:10それ以上関わりたくもなかったし、目当ての女もいないらしい。僕はさっさと近辺を見回って引き上げた。嫌なものを見ないで済んで、少しほっとしていたしね。 その帰りがけ、君を見た。 君は壊れたように絶叫していた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:50:18大蛇が、君の体をぎちぎちと締め上げていたんだ。 君の正面に、さっきの女の子が立っていた。 「『大好き』」 女の子は言った。その途端、女の子の顔が、別の女のものに変貌した。女は赤い涙を流し、幸せそうに笑う。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:51:21心臓が凍るほど、恐ろしい笑みだった。 「やめろ!」 僕は咄嗟に女の子の腕を掴んだ。このままじゃ、マズイ。 「離して」 女の子はすごい力で僕の腕を振り払った。 と。 君が、苦しさのあまり喚いた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:52:11「俺が、俺が何したって言うんだよ! お前が勝手に惚れて、勝手に思い込んだだけだろ!」 その言葉で、僕はすべてを把握した。 例の女を袖にしたのは、君だった。だからこそ、自分で女の霊を確かめに行けず、僕に頼んだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:52:36君は白目を向いてどさりと倒れた。女の子の顔が、元に戻る。 「大丈夫か」 駆け寄ってみると、まだ息があった。僕は慌てて救急車を呼ぶ。 女の子はどこかへ歩き出していた。 「待てよ」 僕は彼女の背に声をかける。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:53:33「何をしてるんだ、君は」 その問いかけに。 彼女は、応えなかった。 そういうわけで、僕は今病院にいる。 君が息を吹き返して、ようやく安心したところ。 恐ろしい女もあったものだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-03 22:54:29