電車ヲトコ1

新しいのが一番下です
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seia@予備 @Zaza_11_seia

「え?」 「えっ?て、私がここに来るまでに、ちゃちゃっと消去したかもしれないじゃない?」 それを言われたらぐうの音もでない。 「ということで、お兄さん、ちょっと一緒に来てよ」 「え?なっ」 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-17 01:05:17
seia@予備 @Zaza_11_seia

何が”ということで”なんだ!と反論しようと思ったら、先程までの眉がつり上がっていた表情が消えていた。 その変わり、柔らかく微笑まれ、ドキッと心のどこかが跳ねたように思えた。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-17 01:11:58
seia@予備 @Zaza_11_seia

呆けていた佐伯の腕を、良く晴れた空色のワンピースに白いカーディガンを羽織った女性が引き、どんどん改札口方面へ向かって行った。 周囲の視線を浴びながら。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-17 01:14:40
seia@予備 @Zaza_11_seia

「ちょ、ちょっと」 も、もしかしなくても、このまま駅員に突き出されるのか? 勇み足の彼女に声をかけるも、返答がない。 怒っているのだろうか? 前だけを見ているので、表情もわからない。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-19 23:46:42
seia@予備 @Zaza_11_seia

エスカレーターには乗らずに、階段へ一直線。あまりにも真っ直ぐで、不安が走る。 「ちょ、っと、ゆっくりに」 階段を転がり落とされる、と恐怖が駆け巡った。 それ程までに、勢いのある駆け下り方だったのだ。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-19 23:54:32
seia@予備 @Zaza_11_seia

そ、そんなに急いで突き出したいのだろうか?確固たる証拠もないままに……。 いやいや、そもそもしてないわけで。そうだ、やってもないのだから、ビクつくこともない。 階段を降りきったところで、思い切って歩みを止めた。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-19 23:56:10
seia@予備 @Zaza_11_seia

「ちょ、ちょっと急に止まらないでっ」 つんのめりそうになった彼女は、明らかに不機嫌な顔でこちらを振り返った。 「あ、あの、自分は、その、何も悪いことしてないわけで」 あぁ、なんで自信がないような言い方なんだ。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-19 23:59:18
seia@予備 @Zaza_11_seia

「……だから何?」 「え……あ、えっと」 どう答えていいかわからずどもってしまった。 「お兄さん、どうせ暇なんでしょ?」 「は?」 どこがどうして暇と決めつけるのだろうか。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-20 00:19:24
seia@予備 @Zaza_11_seia

休日の限られた時間に、特別な電車を撮る、きちんと撮る、というのは難しいのに。 計画を持って今日だって来ているのだ。 決して暇で、ただ撮りに来たわけではない。 「暇では……」 言いかけた時、彼女の目が細くなった。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-20 00:22:46
seia@予備 @Zaza_11_seia

「今からでも、この人、私のこと盗撮しました!って大声で言って騒いでもいいけどなぁ」 ボリュームを抑えて囁かれた。 「なっ」 「フフフ」 あっという間に丸い目に戻し、裏のなさそうな無邪気な笑みを向けられた。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-20 00:26:43
seia@予備 @Zaza_11_seia

こ、これは悪意のない脅し、という類(たぐい)なのだろうか。 「ま、悪いようにはしないから、ちょっと付き合ってほしいの。ね?」 「や、ちょ、そういうことじゃ」 「私、ワカ。和風の和に、歌って書いて和歌。よろしく」 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-20 00:31:40
seia@予備 @Zaza_11_seia

反論を遮って彼女は、名乗ってきた。 よく知りもしない男に自己紹介するなんて、新手のなんとか詐欺だろうか。 「そんなに怯えないで。まっ、行きましょう」 「ま、待ってください」 「待ちません。判断力が鈍っちゃうから」 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-20 00:35:14
seia@予備 @Zaza_11_seia

きっぱり佐伯の言い分を断り、和歌は強引に彼の腕を引いた。 そして改札口を出て、表通りの喧噪とはうって変わり、静かな裏通りにある喫茶店「rose」へ向かった。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-20 00:39:28
seia@予備 @Zaza_11_seia

手を引かれて着いたのは、コーヒーの香りが漂う場所だった。 こげ茶色の煉瓦でできた太い支柱の間に、これまた年代を感じる深みある赤茶色の扉。そこには薔薇の絵が細かく彫刻されている。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-21 12:55:19
seia@予備 @Zaza_11_seia

店先にあった毒々しい「喫茶・rose」という看板とは真逆の繊細な彫刻だ。 一体どんな喫茶店なのだろうか。こういう雰囲気溢れる喫茶店に踏み込んだことがなく、不安だ。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-21 12:58:05
seia@予備 @Zaza_11_seia

土足の土を払うために多分あるのだろう。 申し訳ない程度に扉の前にある赤い玄関マットを、和歌と名乗った女の子は、それを踏みつけて、引き開けた。 一気にタバコの匂い、煙、コーヒーの香りが噴き出してきた。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-21 13:01:29
seia@予備 @Zaza_11_seia

「いらっしゃ……」 丁寧な言い方が止まってしまったので、声のした方を見て固まってしまった。 「いらっしゃ~い、和歌ちゃん久しぶりじゃない?」 え……。なんだこの喋り方は。スキンヘッドで厳(いか)ついがたいなのに。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-21 13:09:36
seia@予備 @Zaza_11_seia

親しそうに彼女とカウンターの内側にいる男との会話は、まるで女子とトークしているようなテンションだ。 内側にいるってことは、マスターか?いやバイトの人か? http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-21 13:12:54
seia@予備 @Zaza_11_seia

「和歌ちゃん、お連れの方、紹介して紹介してっ」 一通り、話し終えたのだろうか。 指同士を組み合わせて首を傾け、こっちにたくさん瞬きを送ってきた。 な、なんだこの視線は。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-21 13:15:53
seia@予備 @Zaza_11_seia

「もう、マスター、ダメですよ。そんな熱烈光線しちゃ。驚いてますよ、ね?」 ”ね?”じゃない。なんで同意を求めるんだ? 「……あれ?もしかしてノンケじゃないの?お兄さん」 「は?」 なんだノンケって。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-21 13:18:53
seia@予備 @Zaza_11_seia

「は?って、え?私より年上そうなのに”ノンケ”って言葉知らないの?」 馬鹿にしているようではないので、素直に頷いた。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-21 13:26:32
seia@予備 @Zaza_11_seia

「あらま、今どき純粋培養で育ってる子もいるのね」 スキンヘッドも驚いているのか、一生懸命つぶらな瞳を大きくしていた。 二人ともどうしてそんなに驚いているのだろうか。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-21 13:30:12
seia@予備 @Zaza_11_seia

「和歌ちゃん、説明してあげなさいな。アタシは他のお客さんのお相手しなくちゃだから、ね?」 ウィンクも一緒にこっちに飛んできた。 怖い。スキンヘッドという風貌なのに、まさかの仕草で。 「えー。私から?」 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-24 01:54:58
seia@予備 @Zaza_11_seia

不満があるようだが、スキンヘッドのマスターはカウンターに座るお客の所へ行ってしまったため彼女は口を開いた。 「ノンケって、同性愛者から見て異性愛者……うーん、まぁ簡単に言うと同じ男の人にその気がないってこと」 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-24 02:38:00
seia@予備 @Zaza_11_seia

「その気って?」 「はぁぁぁ」 頭を抱えらえた。何かおかしいことを言ってしまったのだろうか? 「もう何でいちいち教えなきゃいけないのかな。えーとね、その気って惚れちゃうってこと」 「え……」 それはもしかして。 http://t.co/VAJOCjqOeb #角川小説

2013-06-24 02:42:36