#8 「ライトニング・マイ・パワー・トゥー・ビー・ボールド」(上)

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Astal_jukebox @astral_jukebox

「畜生…」「殺してやる…ガハッ!」 蘇生するや否や蜂の巣となった二人が苦悶する。 「ごめん…なさい…オリヴァー…ロバ…ぎゃ!熱!?ああ、あ」 『ロバがなんだって?』 濃硫酸を流し切った試験管ごと顔を踏みにじる。醜く爛れ焼ける。既に戦闘が終了した以上、縛りに捉われる必要も無い。

2013-07-02 07:34:55
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『拷問せずに殺しちまったからな。お前のおかげで弟子共を拷問出来る。殺すがありがとう、とは言わない』 無情な宣言に焦ったキャリアーは急ぎ術式を切ろうとする。だがその前にホワイトが二人を踏んで術を掛けていた。 『ライブアクセル!』 生命力が強化され二人が蘇生する。

2013-07-02 07:40:20
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――ホワイトの固有術式『アクセルハート』は触れた対象の内部の実存を強化するモノである。 汎用の強化魔術が対象の種類を選ぶのに対し、触れるものなら対象を選ばず、対象の中の殆ど何でも強化出来る。手を離せば即座に解除される程に持続力は低いが、それを考慮してもなお利便性は高い。

2013-07-02 07:45:20
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自身の肉体や装備品に関してはこの弱点も問題とならず、応用力の高い肉体強化として使える。(ただし強化度は純粋な肉体強化に劣る) より正確に、高度な強化を行うには分析→理解→強化という段階が必要となる。 最初の『分析』は対象に接触して行うのだが、これには時間がかかる。

2013-07-02 07:48:20
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内部構造をよく把握している上に、強化もし慣れている自分の肉体等が対象の場合には簡略化可能だが、未知の対象に対しては必須である。対象の構造が複雑な程、一連の行程の時間と負荷は大きくなる。純金属より合金、電卓よりPC、そして無生物より生物相手の方が負荷が大きい。

2013-07-02 07:51:20
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この負荷は凄まじい。 仲間の掠り傷を治療するより、自分の内臓破裂を治す方が遥かに楽、という程に極端である。 一歩間違えば、過剰再生や異形再生すら引き起こしかねない。 だが敵にそんな配慮は必要ない。後遺症などは、むしろ出て欲しいくらいだ。

2013-07-02 07:55:20
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ゆえに今は二人の個体情報を無視し、平均的な人体の情報に基づき生命力を強化する。内臓や骨、神経系等が破断するが問題ない。どうせ敵の上にゾンビだ。 「そんな…私のせいで…」 却って弟子達を苦しめることとなり、後悔する。 『うるさいよ』 その魔女の子宮の辺りを、鋭く蹴り抜く。

2013-07-02 07:58:20
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『前提としてお前達を苦しめて殺す。ついでにUARの目ぼしい情報はもう大体得ているので、お前らの情報に大した意味は無い。でも後で情報が誤りと分かれば、意図に拘わらずお前たちの家族を狙うかも知れない…まあ、そのつもりで頑張れ』 無情な宣言は三人の心を折るには十二分に過ぎた。

2013-07-02 08:00:21
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13:36。エバーランド内レストラン。 裕岐達は迷路の商品の食事券で高級店に入っていた。安価な店も多いが、折角なので冒険をしてみた次第だ。 裕岐にとっては未知の部分も多かったが、テーブルマナーにも煩くなく、食べ方の分かりにくいものは店員が解説してくれたので特に困らなかった。

2013-07-02 08:10:20
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午前中は迷路の後、絶叫系を除く乗り物やクルーズなどを周った。主な施設の大半…本来なら一日以上かかる量を昼過ぎまでに大体周り終えてしまった。 「やっぱ遊園地って並ぶのも楽しみのうちなんだな」 「そう、ですね」 「…優待券もいいけど、今度は普通に来てみようか?」 「はい」

2013-07-02 08:15:20
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「…午後はどうする?帰る前の6時位から8時までの予定は考えてあるけど、それまでどうする?」 「裕岐さんの好きなのにしましょう。ここから近いフリーフォールなんかどうですか?」 梢が地図を指差す。 「思いっきり絶叫マシーンだよなそれ…高低差百二十m…梢には厳し過ぎるだろ…」

2013-07-02 08:23:20
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エバーランドは、千葉の某大型遊園地の半分程の面積に同数近い施設を詰め込まれ、地下部分が広い。絶叫マシーンは全部で十台程だが、地上高や落差が百m超えだったり地下に潜るなど独特の物ばかり。裕岐としても折角なので制覇したい気持ちはあったが…。 「でも、梢に無理させても仕方ないしな…」

2013-07-02 08:30:20
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「私、下で待ってますから」 「…今日はデートだろ?俺一人で乗ったって空しいだけだよ。年間パス貰ったし、乗りたかったら今度ユウ辺りと来るよ。今日は二人で遊べるところにしよう」 「…すみませ…いえ、はい」 苦笑いで頷く。 「……」 裕岐にはその顔はやはり、悲しげに見えた。

2013-07-02 08:45:20

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14:24。新渡町 八千代生命ビル屋上。 スターチェインバーらは探索術式を解いた。三者の表情は、濃い焦燥。 最初の花火の発生源のビル屋上には、残骸のみで痕跡を辿れなかった。 二発目は百m程西の空き地から、三発目はそこから更に二百m北の廃屋から…どちらも一発目同様だった。

2013-07-02 09:00:20
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それが11時頃。それから今まで広範囲探索で仲間の位置を探っていたが、終ぞ見つからなかった。その間も忘れた頃に花火が打ちあがり探索を妨害してきた。 そもそも二・三発目は彼等が一・二発目の発射地点に辿り着いた時に他所で打ち上がった。 設置者の性格の悪さと監視能力の高さが窺えた。

2013-07-02 09:20:20
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「マスター…」「どう、なさいますか…?」 ビッグネストとビーストコーラーが不安げに師を見る。 最早自分達以外12人の全滅は必至。ワイドリバー隊と調査班を合わせれば、既に21人も未知の敵にやられているのだ。UAR全体で言えば1/6近い人数である。

2013-07-02 09:40:20
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内6割は自分達より格下とはいえ、人数が人数だ。 敵の実行犯が単独か複数かすら分からないが、まともにやれば導師のスターチェインバーやそれに次ぐ実力の二人とて勝ち目は薄い。それだけは明らかである。 選択肢はまず二つ。逃げるか、戦うかだ。 だが事態はもう少し複雑である。

2013-07-02 10:00:22
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どちらを選ぶにしても敵の正体も攻撃手段も不明なのだ。逃げ方や戦い方も考えなければならない。 散り散りに?全員で?本国に応援を頼む?敵を探しに行く?それとも――? 「……迎え討つぞ」 スターチェインバーが言った。

2013-07-02 10:20:20
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「ビッグネスト、お前の出番だ。なるべく大規模にやれ。場所は南方の方が良いだろう」 「本当にいいんですかい?この町の管理者共に見つかるんじゃあ…?」 「それでいい。どうせ敵は管理者かその関係者だ。あんな小細工を堂々と使って来るくらいだからな。元よりそのつもりの探索術式だったろう?」

2013-07-02 10:40:20
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彼の固有術式『ビッグネスト』は、大規模な結界を張るモノである。周囲の魔力を吸い味方のみに魔力を供給する。隠蔽性も持たせられるが、大規模展開で魔力も吸うとなると、常人はともかく魔術師には隠すことは出来ない。 例え透明人間でも人前で林檎を持ち上げれば、見つかる。 そういうことだ。

2013-07-02 11:00:23
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「一般人に見られてはセフィロトの介入を許しかねん。常人への不可視性だけは維持しろ。内部で迎え討つ…行くぞ」 「はっ!」 指示を受け二人がビルから飛び降り、疾走する。 スターチェインバーは弟子達への奇襲を警戒しつつ、その後を追った。

2013-07-02 11:30:20
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2013-07-02 11:31:20
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2013-07-04 10:41:42
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