「独白~新選組隊士たちのつぶやき 第七章(最終章) 藤堂平助~慶応三年十一月~七条油小路」
近藤さんと伊東先生は、尊皇攘夷で、意見の一致を見たようだった。 近藤さんが新選組入隊を要請したのには驚いたけど、伊東先生がそれを快諾したのには、もっと、驚いた。 そしてそれは、私にとって嬉しい驚きだった。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:13:19私が二人を引き会わせたんだ。伊東先生が新選組へ入隊する道を開いたのは私なんだ。 京への帰り道、私は、雲の上を歩いているような気分だった。 そして、京へ帰ってからは、伊東先生が篠原さんたち高弟の皆さんと一緒に上京してみえる日を、指折り数えて待っていた。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:14:15入隊した伊東先生は、参謀という職についた。 最高幹部が、局長近藤さん、総長山南さん、副長土方さんの三人から、伊東先生を加えた四人になった。 そのことに抵抗を感じている隊士はいないみたいだった。 と、その当時、私は思っていた。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:15:17でも、その考えが甘かったということは、じきに判った。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:16:03近藤さんは、ああいう真っ直ぐな御方だから、伊東先生を信頼しきってた。時世について話す時なんか、伊東先生に教えを乞うという形さえとっていた。土方さんにはない、そして、山南さんに勝る、伊東先生の教養に心酔しきっている。そんな感じだった。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:16:52だけど、いや、だからなのか、伊東先生の方は、近藤さんを全く重要視していない、というか、こんな表現、使いたくはないのだけれど、近藤さんをはじめ、新選組の隊士たちを馬鹿にしているみたいだった。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:18:08私を含め門弟達だけのときは、あからさまに、近藤さんや土方さんを、そして同じ北辰一刀流の先輩である山南さんまでも、下に見た物言いをしていた。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:19:26勿論、面と向かっては、近藤さん、土方さん、山南さんのことは、一応、立ててはいた。だけど、気持ちが伴ってないから、言葉の端々から本音が覗く。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:20:10近藤さんは、おそらく気付いていなかったんじゃないかな。たとえ気付いていたとしても、さほど気にしなかっただろう。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:21:32でも、土方さんは、間違いなく気付いていた。そして少なからず不快に思っていたと思う。自分自身のことはともかく、近藤さんのことを馬鹿にされるのは、土方さんにとって我慢できないことだったはずだから。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:22:36山南さんは、土方さんよりも複雑だっただろうと思う。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:04:45伊東先生が入隊するまで、山南さんは新選組の唯一人の教養人だった。近藤さんや土方さんに対して多少の優越感を感じていたと思う。だからといって、新しく外から入って来た伊東先生に、二人のことを無教養だと馬鹿にされるのは、決して愉快なことではなかったはずだ。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:05:36そして、その伊東先生が参謀という役職に就いて、近藤さんから信頼されている。山南さんとしては、自分の新選組での役割、居場所がなくなった、そんなふうに感じたのかもしれない。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:06:46山南さんの脱走は、土方さんとの対立が主な理由だということになっているけれど、今考えると、伊東先生の存在も少なからず影響があったんじゃないかと思う。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:07:49土方さんも、伊東先生のことで神経を尖らせていなかったら、山南さんに対する接し方も、もう少し違ったものになっていたのではないか。そんな気がする。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:09:24でも、そんなふうに思うと、堪らなくなる。 脱走は、局中法度により、連れ戻されて、切腹だ。 山南さんの死は、私にも責任の一端がある。そういう事になるから。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:10:14ピンさんも総司も、多分、伊東先生のこと、あまり良く思ってなかったんじゃないかと思う。総司は、あまり真剣にものを考えないやつだし、ピンさんは、やっと自分の感情をみせるようになってきたかなあって頃だったから、三人で居るときは、そんなこと話題にもならなかったけどね。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:11:39でも、ある日、伊東先生が確かに土方さんを馬鹿にするようなことを言ったとき、隣に居たピンさんの左手が刀を握り、その親指が鍔にふれるのがわかった。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:12:53土方さんに目で制されて、親指は鍔をはなれたけど、暫く刀は握られたままだった。そして、硬く握られた右の拳が小刻みに震えてた。私が初めて見た、ピンさんの激しい怒りだった。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:13:44私は、そんなピンさんの怒りを見て、土方さんの心の中を思った。 土方さんが馬鹿にされて、ピンさんが鯉口を切りかけた。近藤さんが馬鹿にされたら・・・。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:14:35私は、伊東先生を近藤さんに引き合わせた事を後悔した。 二人は、あまりにも違いすぎた。 同じ尊皇攘夷でも、伊東先生のそれは、もはや、幕府などは眼中になく、朝廷を中心とする新しい仕組みの中での尊皇攘夷だ。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:15:17しかし、近藤さんのそれは、あくまでも、御公儀、幕府あっての尊皇であり、幕府が指揮を執っての攘夷だった 伊東先生の話に謙虚に耳を傾けながらも、近藤さんは、御公儀のため、この一点だけは、一歩も譲らなかった。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:16:13いずれ、両派はぶつかる。 誰の目にも確かだった。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:17:18私は、伊東先生の話を聴いているうちに、もう今の幕府ではどうしようもない、朝廷を中心とした新しい世の中を創らないと日本は諸外国に滅ぼされてしまう、そう思うようになった。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:18:00近藤さんは世の中の流れを解ってはいない。 伊東先生は、そうも言った。 私もそう思う。 近藤さんも土方さんも、わかっちゃいない。このまま幕府についていたら、新選組の未来はない。そう思う。 #試衛館の青春
2013-06-26 18:19:06