「独白~新選組隊士たちのつぶやき 第七章(最終章) 藤堂平助~慶応三年十一月~七条油小路」
お待たせいたしました。 「独白~新選組隊士たちのつぶやき」第36回 第7章(最終章)「藤堂平助~慶応三年十一月~七条油小路」 第1回 ゆるゆると始めていきたいと思います。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:00:14七章前文 慶応三年三月に新選組を離脱した伊東甲子太郎以下御陵衛士たちは、表向きは友好関係を保ちながら、裏では近藤勇暗殺計画を立てていた。 その計画は、密偵・斎藤一により新選組に知れらされた。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:01:09十一月十一日、斎藤は御陵衛士屯所をひそかに抜け出し、新選組に帰った。 密偵としての大きな役目を終えたのだ。しかし、もう一つの仕事、藤堂平助をつれて帰るとい う役目は果たせていなかった。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:02:46藤堂平助。試衛館以来の同志である。 徳川幕府が続くことは、日本のためにならない。 藤堂は、そう考えて、嘗ての剣の師匠である伊東とともに新選組を去った。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:03:35同い年の斎藤や沖田総司に比べると、剣の腕ではどうしても見劣りする自分の価値を見出すために、世の中のこと、時世について、考えるようになった藤堂の出した結論だった。 斎藤に、伊東らの近藤勇暗殺計画を聞かされ、一緒に帰ろうと言われても、到底、帰るわけにはいかなかった。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:04:41斎藤の知らせを受けて、新選組は、先手を打った。 十一月十八日、伊東を近藤の妾宅に招いて歓待、その帰りに斬殺。そして、その死体を路上に放置して、御陵衛士を待ち伏せて殲滅を図った。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:05:26試衛館以来の新選組の幹部たちは、藤堂だけは逃がすつもりだった。 だが結果は・・・。 近藤、土方たちの思いとは裏腹に、最悪のものとなってしまったのだった。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:06:04第七章 藤堂平助 ~慶応三年十一月 ~七条油小路 あれっ、私じゃないか。みんなが取り縋って泣いているのは。 土方さんが、私の身体を抱き起こしている。 その隣で、近藤さんが、「平助、平助」って、私の名前を呼んでいる。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:07:11永倉さんに、左之助さん、源さんに、そして、ピンさん、みんな泣いてる。 みなさん、どうしたんですか? どうしたんだよ、ピンさん。 みんな私に縋って泣いている。 でも、下にいる動かないのが私なら、その私を、ここでこうして、眺めているこの私は、誰? #試衛館の青春
2013-06-24 18:08:09あっ、総司、びっくりした。お前だけがこっちに居るのか? お前、なんか変だぞ。半分身体透けてるぞ。影薄いなーっ。 えっ、死んだ奴に、そんなこと言われたくないって? 私、死んだのか?そんなばかな、だってほら、ここにこうして・・・。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:09:32じゃあ、下のことは、どう説明つくんだって? そりゃあそうだけど・・・。 私は死んだ・・・のか?何か死んだって感じ、しないんだけどなあ。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:10:23そう言えば、永倉さんが刀を降ろして、「逃げろ!」って言ってくれた時、背中に鋭い痛みが走った。遠のく意識の中で、左之助さんの私の名前を呼ぶ声が聞こえていた。 そうか、あの時、私は斬られて死んだ。そういうことか。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:11:13でも、そんなら、なんで、お前がこちらにいるんだ? さあ・・・って、お前・・・。 お前、顔色悪いなぁ。元気もないし・・・。何処か悪いんじゃないか。病気なのか?えっ、労咳?うそだろう。お前がそんな・・・。本当なのか。可哀想に・・・。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:12:10ああ、そうだった。死んだ私が、お前のこと「可哀想に」は、変だよな。 ああ、解った。だからお前、半分身体透けてんだ。 ということは・・・。 帰れ!お前は、まだ、こっちへ来ちゃあいけない。下にいないといけないんだ。早く帰れ。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:13:21心配して来てやったのにって? それはあり難いと思うけど・・・って、ウソつけ。今、なんでこっちにいるか解らないって言ったじゃないか。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:14:06むやみにこっちへ来ちゃあいけないんだ。下見てみろ。私が死んだのを、みんな、あんなに悲しんでる。総司は、みんなにこんな思いさせちゃいけないんだ。解るな。 あっ、消えた。 また、あっさりしてんなあ。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:14:55そうか、私は死んだのか。 ふーん、死ぬって、生きてるときと、あんまり感覚ちがわないんだなあ。 あーあ、みんな、泣いてるよ。 私、意外と、みんなに大事に思われていたんだ。 なんか、嬉しいなー。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:15:56ピンさん、独り離れて、そんなに、泣きじゃくって・・・。 うん?俺のせいだって?違うって、ピンさんのせいじゃないよ。ピンさん、出来ることはしてくれたよ。帰るときだって、私を必死になって説得して、連れて帰ろうとしてくれた。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:16:41私だって、出来ることなら一緒に帰りたかったよ。でもね、それは出来ない相談だった。ピンさんと一緒に帰れるくらいなら、はじめから、伊東先生に付いて出てきちゃいないよ。 #試衛館の青春
2013-06-24 18:17:30あ~あ、どうして、あの時、近藤さんと伊東先生を引き会わせてしまったのかなあ。今、それだけは後悔してるんだ。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:06:25私は、ピンさんや総司みたいに天才肌じゃない。二人の二倍も三倍も努力して、やっと目録が戴ける程度。 だから、伊東道場にいた頃は、伊東先生のお覚えもめでたくなかた。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:07:36その証拠に、総司に誘われて行った、近藤さんの道場「試衛館」が居心地がよくて居ついてしまっても、伊東先生は、私のいないことに気づいてもくれなかった。私が試衛館の皆さんたちと一緒に京へ上ると挨拶に伺ったときも、「励め」の一言もなかった。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:08:21京へ上り一年半、新選組は池田屋の一件などで名を上げ、会津藩お預かりという身分ながらも、幕府の有力な組織として、京に於けるその地位は、揺るぎないものになりつつあった。そんな新選組の幹部として江戸へ帰ったあの時、私はどうしても、伊東先生と近藤さんを引き合わせたかった #試衛館の青春
2013-06-25 18:10:45新選組局長である近藤さんに認められているということを、伊東先生に見せたかったんだ。 そして、伊東先生にも、私を、藤堂平助という男を、認めてほしかった。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:11:40何処ででも、どんな時にでも、みんなの注目を浴びるピンさんや総司には、解らないだろうな、そんな私の気持は。 #試衛館の青春
2013-06-25 18:12:35