第一回大罪大戦【エピローグ】

大罪大戦は終わりました。 紡がれた物語は、この場所で終わります。 エピローグ
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暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

「坊やは、こんなところで何をしているの? 一人なのかしら?」 周りには何もない。 しかし、恐らく『この子』は何もわかっていないのだろう。 ならば、まずは自然に会話を続けようと思った。

2013-07-20 21:59:14
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

通りすがり。なら、放っておいてくれればよかったのに。 ずっと、眠っていられたのに。 「ひとり」 そう、ずっと、独り。そばに誰かいたことも、あったかもしれないけれど。 「おなかすいた」 起きてしまったから。でも、何にもないことはわかっている。だから。 「ねたい」 再び、瞼を下ろす。

2013-07-20 22:03:58
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

「…そう…ごめんなさいね、何か取り出せればいいのだけれど…っ!?」 袖を探ってみると、手に一つの感触が。 取り出してみるとそれは饅頭だった。 (…これは…) 最後の戦いへ赴く前、二人で食べたものの、残り… もし、もし二人無事でいられたなら、勝利の祝いにでもと残していたもの

2013-07-20 22:07:59
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

最後の戦いでの衝撃で、少々形が歪になっているが、食べられないほど崩れていないのは奇跡だ。 また、こうして食べ物を渡せるとは思っていなかった。 少しばかりの驚きは胸にしまいこみ、饅頭を二つに割る。 自分の分は、少し小さく。 「…よかったら、これでも食べる?」

2013-07-20 22:10:58
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

饅頭の皮の中身は豚肉を甘辛く炒めたものを具にしていた。 割れば湯気が出てくる…とまではいかなかったが人肌ほどに暖かいそれは女にも柔らかな気持ちを与えた。 自分の分を少し食べながら、『この子』に差し出す。 うん、美味しい。 女の顔は、満足したような笑顔であった。

2013-07-20 22:12:55
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

食べ物の匂いがした。 閉じかけた目を開く。何か、割れた丸いものが差し出されている。 いい、匂い。ちゃんとした、『食べられるもの』の匂い。 むくりと起き上がって、初めてきちんとその人を見た。 目の前で、差し出した食べ物の半分を自分で食べた。つまり、アレは大丈夫。

2013-07-20 22:27:36
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

両手で受け取り、すぐに離れる。距離を取ってから、いい匂いのする丸いものにかぶりつく。 それはちょっとからかったけれど、おいしかった。優しい味がした。 こんなおいしいもの、初めて、食べた。――初めて? 本当に、食べたことが、なかった?

2013-07-20 22:27:50
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

受け取ったかと思うと少し距離を取られた。 かなり警戒心が強い…きっとまともな仕打ちを受けてこなかっただろうことが伺える。 「…どうかしら、美味しい?」 けれど、これだけは聞いておきたかった。

2013-07-20 22:31:06
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「おいしい」 素直に答えた。何か、引っかかった事は置いておくことにした。 もしゃもしゃと、ひたすら丸いものを食べる。 丸いものがすっかりなくなってしまうと、ふう、と息をつく。 食べ物をくれた人を見る。改めて。 「だれ?」 どうしてこんなに、やさしくしてくれるの?

2013-07-20 22:39:04
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

「名前を聞いてるってことでいいのかしら?」 二度目の問いに、問いで返す。 「…『蘭 菲』よ。」 思い出して。 「…それが、今あなたの目の前にいる『人』の名前よ。 …しっかり覚えておきなさい」 あなたが、私を『人』にしてくれたのだと。

2013-07-20 22:43:01
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「らん、ふぇい?」 その、名前は、 「きいたことある」 その、『人』は、 「おれの」 「…………『色欲(かあさん)』?」

2013-07-20 22:51:29
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

呼んでくれた。 「…えぇ」 確かに、聞こえた。 「ようやく…思い出したかしら…?」 女の笑みに、涙が、重なる。

2013-07-20 22:57:36
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

たくさん、たくさん、欠けている気がするけれど、思い出せたのはそれだけ。ただ、目の前の彼女が、自分にはいるはずのなかった『母』だということだけは、わかった。思い出せた。 伝えなくちゃ、いけない事がある。それが何のことか、今の自分にはわからないけれど。

2013-07-20 23:04:48
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「かあさん(母さん)、おれは(俺は)、かてなかったんだ(勝てなかったんだ)」 重なり合う二つの声。小さな少年と、喪われた青年の。高い、低い、声が共鳴する。 「がんばったけど、(願い続けたけど) だめだったんだ(叶わなかった)」 「ごめんね (ごめん) (約束を、守れなかった)」

2013-07-20 23:05:27
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

たどたどしい喋りだけれど、しっかりと伝えてくれた。 自分に起きたことを。 自分がどうしたのかを。 二人の『声』が伝えてくれる。 「違うわ、あなたは謝らなくていいのよ」 小さな身体に近づき抱きしめる。 「…謝るのはこっち…置いていって、ごめんなさい…」

2013-07-20 23:09:44
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

―――嗚呼、自分は何て愚かだったのだろうか。 どうして何も相談せずに、全てをきめたのだろうか。 「…ごめんなさい…」 赦してほしい。 赦さないでほしい。 矛盾していながらも、身勝手な願い。 嗚呼、やはり自分は身勝手だった。 『この子』には関係のないことなのに…

2013-07-20 23:11:59
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「(違う)」 誰の声だろう。自分の声じゃない。低い、大人の男の声。けれど自分の喉を、姿を借りて、彼女に何かを伝えたがっている。『俺』が、伝えたいと、願っている。 「(フェイ、アンタが謝る必要なんてないだろ)」 「(誰も悪くなかったんだから)」 笑いさえ含んだ、遠いその声は。

2013-07-20 23:35:44
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「(ありがとう)」 『生きるために生きた青年』の残滓は、語る。 「(俺は大切な物を貰ったから)」 「(俺からアンタに言えるのは、それだけだ)」 「(それ以外にないんだ)」 低い声は遠くなる。消えてゆく。

2013-07-20 23:36:05
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

『あの子』の声が確かに聞こえた。 私から、大事なものをもらったと。 だから、ありがとうと。 (…馬鹿ね…) 何を言っているのだろうか。 まだまだ、こんなものでは終わらないというのに。 (『私《愛情》』があげたいものは…まだまだ、たくさんあるんだから)

2013-07-20 23:39:41
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

(だから) 女は望んだ。 (待って。 …『私《かあさん》』も行くわ) 消えていく青年と共に、自分も一緒に行くことを。 女の身体が薄れて、少しずつ空へと上っていく。 その直前、女は『子ども』を見た。

2013-07-21 00:15:10
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

「…ごめんなさいね、『私《かあさん》』は『あの子』と行くわ…」 抱きしめていた腕に、もう一度軽く力をこめる。 「…あなたなら大丈夫、きっとたくさんお友達が出来るわ…自分を信じなさい」 それだけ言うと、女の姿は完全に薄れて消えた。

2013-07-21 00:16:50
暴食(イストリーブ)の色欲(かあさん) @reclew_sin

  ―――さようなら、私の大事な『全て《世界》』。 風に乗り、歌うように流れたこの言葉は… 望むべき相手へと、届いただろうか。

2013-07-21 00:19:24
【暴食の雛】 @gomokumame_sin

「いなくなった」 大事な一部が抜け落ちてしまったような気がして、悲しくなる。 もう、戻ってこない。 身体を使っていた『誰か(おれ)』も。 追うように消えていった『母(フェイ)』も。 ちいさなちいさな『世界』は、ただ。 消えてしまったものを、見上げていた。

2013-07-21 00:31:01

fin.

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