モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Summer IV~

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IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「といってもまあ、もうすぐ朝……か」  また眠りに落ちようか。  眠りに落ちて、夢の中に溶けてしまおうか。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:35:42
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(気持ちいいな……)  目を閉じる。ぐわんぐわんと耳の奥で、何かがわめきちらすように声をあげている。  それはミキサーにかけられる時のような感覚だった。自分の意識が粉砕され、溶けて、このまま自然の中へ消えていってしまいそうな━━ #mor_cy_dar

2013-07-31 14:35:54
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「……おいおい」  乱暴にスイッチを押したような覚醒。それは嫌だと、心の奥底が主張している。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:36:04
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(まだ……俺はここにいるんだからさ。  ジジイみたいな考えはごめんだね)  ほとんど何も見えないテントの中の闇で目をこらす。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:36:16
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 志智の鋭い瞳が、そこに鎮座する見えない何かを射貫く。  そうはいかない、と。  俺はまだそちらへはいかない、と。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:36:26
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「ちっ……」  その『何か』が志智の錯覚だったのか、さもなくば逃げ出してしまったのか。  それは分からない。だが、彼の全身全霊を覆っていたけだるさと、何とも言えない虚無的な気分は、唐突に消え失せていた。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:36:39
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「……もう一度シャワーでも浴びるかな」  呟いたそのとき、このキャンプ場にはコインシャワーだけでなく、天然温泉も隣接していることを思い出す。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:36:49
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(ちょっとだけ歩くが……24時間無料で使えたよな)  テントの外に這い出すと、志智はロープに干してあるタオルを手に取った。  まだ湿っている。だが、十分に使えそうだ。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:37:00
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 そろそろと歩き出す。草を踏みしめるたび、ざわりざわりと妙に音が響く。  空は快晴で、星空の見事さは感嘆の息を漏らさずにいられないほどだが、半分に割られた月がどこか笑っているように思える。#mor_cy_dar

2013-07-31 14:37:13
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「なんだろう……な。ここ」  神経質になっているのだという自覚はある。それにしても、少し異様な感覚だ。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:37:24
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 天然温泉の施設は消灯されていたが、特に施錠もされておらず、スイッチを入れると脱衣所の電気もついた。  ドアをがらりと開けるたびに、何か人ならざる者がいるのではと思ってしまう。もちろん、そんなものがいるはずもない。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:37:31
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「温泉もちゃんと入れるんだな」  よほど湯量が豊富なのだろう。掛け流しの大風呂は、志智だけの貸し切りだった。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:39:09
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「はあ……」  全身を伸ばして、首まで湯につかる。  それがひどく気持ちのいい感覚であることを、志智はやっと思い出す。自宅の風呂はとても彼の長身を受け止められるものではないからだ。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:39:21
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(昔……そうだ。一回だけ……来たよ……な)  こうして大きな風呂に入った記憶がおぼろげながら思い出される。  どこのキャンプ場だったろうか。あるいは、日帰りの温泉だったろうか。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:39:33
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 その時は父がいて、母もいて、千歳(ちとせ)はまだ幼稚園に通っていて━━ 「う」  唐突な嘔吐感と共に、白化した炭が崩れ落ちる夕食時の光景がちらつく。  それは思い出したくない記憶と、徐々にリンクし、重なっていく。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:39:50
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(これ……あの時、か)  ━━それは父と母の骨と対面した時の記憶だった。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:40:05
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 と、そのとき、扉が開く音がする。 「……あれ?」  失神してしまいそうな衝撃から、志智はかろうじて現実へ引き戻される。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:40:19
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 どうやら自分以外にも誰か物好きがいたようだ。  衣擦れの音がする。他にテントを張っている者はいなかったから、きっと朝風呂好きの老人あたりだろうか。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:40:29
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(それにしても早いな……田舎の爺さんは日の出より早く起きるのか……)  首を捻りながらも、孤独から解放されたという僅かな安堵をかみしめつつ、浴場の戸が開いた瞬間。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:40:39
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「おはようございます、志智」 「な」  すべての━━張りつめたものが吹き飛んだ。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:40:48
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「うぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?  おまっ……お、お前! なっ、なななな、何やってるんだ、亞璃須!?」 「何と言われましても、朝の湯浴みですけれど」 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:41:01
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「こっ……こ……ここはっ、お、おとっ、男湯だぞ!!」 「もちろん承知していますわ」  そこに立っていたのは、流体力学的に優れたボディラインの少女だった。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:41:18
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 まきつけたタオルで半身を隠しつつも、意外に肉付きのよい太ももと、悩ましい鎖骨まわりが惜しげもなくあらわにされている。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:41:22
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「さて、と」 「ち、ちょっと待てっ……こ、こっちに来るなっ」 「水着のようなものですわ。隠すところはきちんと隠してますし」 「そういう問題じゃない!!」 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:41:34
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「ああ、脱衣所の鍵なら掛けましたから安心してください。  管理人が鍵でも持ってこない限りはここ━━密・室ですから」 「おっ、お前な……!!」  愕然とする志智にかまうことなく、タオル一枚を体に巻き付けただけの日原院亞璃須は、しずしずと湯船につかる。 #mor_cy_dar

2013-07-31 14:41:55