ジャック・ウォマック『ローラの日記(2月分)』(山本ニュー訳)
ブーブはまたどっからかしょーもないざっしを持ってきて表紙の男の子かっこいいよねとか言ってきたから「こんなやつが?」って言ってやった。 「すごくすごくかっこいい!馬に乗ってる写真もあるよ。わたしもいっしょに乗りたいな」 「落馬するけどね。いいからあっち行って」 #RASV 0068
2013-08-11 14:22:02その後みんなでテレビ見てから夕食になって、ママが中華をたのんで、あたしはラーメンを食べた。テレビでニュースやってて、マイアミでぼうどうが起きたと言ってた。ニューヨークは大じょうぶですご安心くださいとも言ってた。 #RASV 0069
2013-08-11 14:26:48テレビ局の人たちって、なんでも知ってそうなふりして、なーんにも分かってない。あたしは家の近くでまたぼうどうが起きたらいやだなあと思った。 #RASV 0070
2013-08-11 14:28:132月25日 学校から帰ってきたらパパももうもどって来てて、電話で話してた。「あいつら、こりもせずに親指をこうよ」とママが親指を下に向けた。パパが売りこみに行ったきゃく本が売れなかったってわけ。つまりこれまで以上にお金のやりくりが苦しくなるって意味。 #RASV 0071
2013-08-11 19:10:02今月は支払いがいつもよりいっぱいあるし、パパの会計士はぜい金がどうこう言って先週やめちゃった。パパとママにとってはいよいよどうしようもない事態になってる。 パパは電話を切ると86番街に出かけていったので、ブーブとあたしはママにみんなどうなっちゃうのと聞いた。 #RASV 0072
2013-08-11 18:15:51「大じょうぶ、なんでもないのよ」とママは言うけどごまかしてるって分かった。ママの顔色でウソついてるかどうかすぐに分かる。 #RASV 0073
2013-08-11 18:21:49「マイケルは、いい人だけどお金の使い方が下手なの。ママだってパパのこと言えないけど、だってしょうがないじゃない?早く次の仕事見つけないといけないけど、パパは何をしたらいいかわかってないのよ。ほんとに・・・ドアの外までオオカミが来てるってやつよ」 #RASV 0074
2013-08-11 18:24:17ブーブはげんかんまで行って「いないよ!」と言ったので、ママは笑い出した。 「パパは貯金してなかったの?」とあたしはママにたずねた。 #RASV 0075
2013-08-11 18:29:08「もちろんしたかったわ。でもほら、物価がこんなに上がりつづけてるんじゃどうしようもなかったの。毎週毎週くるったみたいに。あくまのしわざとしか考えられないわまったく。今ではもうニューヨークもくらしやすい町ではなくなってしまったのよ」 #RASV 0076
2013-08-11 18:32:30「引っこしはやだよ」とあたしは言った。 「そういうわけじゃないの。でもね、ニューヨークでこれからもくらしていくってことは、今までよりもっともっとお金がかかるってことよ」 「お金のことはパパが考えればいいじゃん」 「そういうわけにはいかないの」とママは言った。 #RASV 0077
2013-08-11 18:37:47「とにかくどうにかしなきゃ。つらいこともあるかも知れないけど、でも少しのしんぼうよ、ローラ」 ブーブが「少しってどれくらい?」と言った。 「長くはないってことよ」とママが答えた。 それからパパが帰ってきたけど、ママが夕食を用意してなかったので中華をたのんだ。 #RASV 0078
2013-08-11 18:42:33ママはさいきんクスリばっかり飲んでるからやらなきゃいけないことを忘れてしまうんだと思う。 出前の人が来たので夕食食べることになって、あたしはエビとカシューナッツのいため物で、ブーブは牛肉のガーリックソースだけど、パパとママはごまラーメンしかたのまなかった。 #RASV 0079
2013-08-11 18:47:07ふたりともおなかがすいてないからそれでいいんだって。 食べながらニュースを見てたら、大とうりょうが「じたいはさほどしんこくではないので心配はむようです」と言ってて、パパが、こののうなしめと言った。 #RASV 0080
2013-08-11 18:53:20「ピエロよ。こういう手あいを1ぴき見かけたら、その百ばいはいると思ってまちがいないわ。こいつらどこにでももぐりこんでるんだから」とママが言って、パパもどこにでもな、と言った。 「大とうりょうは、じたいはさほどしんこくじゃない、って言ってるよ」あたしは言った。 #RASV 0081
2013-08-11 18:57:25「あいつは自分が何を言ってるのかもわかってないのよ。きっと自まんのゴルフクラブで頭なぐりすぎたんじゃない?」とママが言った。 ママやパパもそうなんだけど、大とうりょうが「見通しは明るいです」と言うとき、目をぱちぱちするから、きっとウソなんだろうなあと思った。 #RASV 0082
2013-08-11 19:00:43だれかが大とうりょうになんとかしてくれとちんじょうすると、大とうりょうは「こまりごとははあくしている。しかし人々にはそれぞれのけんりがある。われわれはそれをさまたげることはできないのだ」と言う。 #RASV 0083
2013-08-11 19:06:17それでも大とうりょうせん用ヘリコプターに乗っていろんなとこには行くんだけど、デトロイトでもシアトルでもマイアミでもぼうどうは起こってる。シカゴとロスはそれでやけちゃったし。 近ごろはどいつもこいつもけんりを主ちょうしすぎなんだよ、とパパが言った。 #RASV 0084
2013-08-11 19:08:142月27日 アン、きのうはあんまりいい一日じゃなかった。パパがすごく落ちこんでて、ブーブはパパのごきげんとるのがすごく上手な子なんだけど、それも意味なかった。どうしたのってママに聞いたけど「なんでもないから。心配しなくていいの」って言うだけだった。 #RASV 0085
2013-08-11 22:09:06夕食の時にまたいつものがはじまった。アンならもうわかるよね、パパとママがお金のことで話してたの。パパはもうどこからも引き出せないと言い出して、そしたらブーブが「銀行に行って今すぐお金ちょうだいって言えばいいじゃん」と言った。 #RASV 0086
2013-08-11 22:13:17パパは、わたしを中に入れてくれる銀行なんてもうどこにもないんだよと言って、ママは「考えすぎよそんなことあるわけないでしょ」と言った。それからパパが、売りこめそうなアイデアはないでもないんだが、今すぐ買ってくれる相手がどこにもいないんだと言った。 #RASV 0087
2013-08-11 22:17:38パパはあたしとブーブをじっと見て、もうどうしようもないんだと言った。 「それでもなにかできることはあるよね?」とあたしは聞いたけど、パパは何も言わなかった。それはもう言うことが何もないという意味だとわかった。「本当に何もないの?」と言ったらパパはうなずいた。 #RASV 0088
2013-08-11 22:22:27それからママが「でもひとつだけ方法はあるの。聞いてくれる?もしかしたらこれしか方法がないわけじゃないかもしれないけど、それでも聞いてほしいの」と言った。 「どんなお話?」とブーブが聞いた。 「少しの間引っこすってことよ。長い間じゃない。落ちつくまでの間だけ」 #RASV 0089
2013-08-11 22:27:44ブーブはママが話してる間だまってパパを見つめて、それから「どこに引っこすの?」と聞いた。 「小さなアパートを借りるの。2、3ヶ月の間だけ。夏までか、もしかしたら秋まで。長い間じゃないの、少しの間だけ。たぶんね」 #RASV 0090
2013-08-11 22:33:27「少しってどのくらいなの?」とあたしは聞いた。 「だから、長くないの」 「もう夏休みにロング・アイランドに行けないの?」 「それはちがう問題よ。お金があったってもうあそこには行けない。あそこはキリスト教かげき派があばれてるきけんな場所になってしまったのよ」 #RASV 0091
2013-08-11 22:38:21「でもニューヨークをはなれるんじゃないよね?」 はなれないよ、とパパが言ったけど、お金がよけいかかるからだと思う。マンハッタンに小さい家を借りてみんなで住むんだ。今までとはいろんなことが変わってしまうけどお前たちがどう思うか教えてほしいとパパは聞いてきた。 #RASV 0092
2013-08-11 22:44:19