ジャック・ウォマック『ローラの日記(3月分その1)』(山本ニュー訳)
3月1日 今のとこはとくになにも変わってない。でもこうやって書かないとアンがあたしのこと忘れちゃうんじゃないかって心配になって。ママもパパも引っこしのことはひとことも言わないから、もしかしたら死にものぐるいで手をつくしてなんとかなったのかもしれない。 #RASV 0102
2013-08-12 20:49:13でも、ふたりともずっといらいらしてへんな調子。じぶんたちのことばっかり心配して、あれはゆめだったって思いたいんじゃないかな。あたしがまだ子供のときだったらそんなママとパパ見たら不安で不安でしょうがなかっただろうと思うけど、もうなれちゃった。 #RASV 0103
2013-08-12 20:52:43でもブーブはあたしみたいにできない。かわいそうなブーブ。こないだみんなで話しあいしたときからずっと病気みたいになってる。っていうか自分は病気なのって自分で言ってる。あたしにはそうは見えないけど。 #RASV 0104
2013-08-12 20:55:34ブーブはブーブなりにこのじょうきょうを何とかしようとしてるんだとは思うけどさ。あたしだけでもこうやって落ちついてるからまだいいけど、だれかがこのぐちゃぐちゃなのをどうにかしてくれたらいいのに。えっと、今夜はこれくらいしか話すことない。じゃあね。ぐない、アン。 #RASV 0105
2013-08-12 20:59:323月2日 昨日はキャサリンがとまりに来て、ばんごはん食べて、ビデオ見ようってなって、キャサリンがファンタジア見たいって言った。あの映画はバカっぽい場面がいっぱい出てくるからあの子のお気に入りなんだと思う。最後に出てくるデビルとかしりすぼみもいいとこだし。 #RASV 0106
2013-08-12 22:22:00でもまあ面白かった。 学校でのキャサリンはそうでもないけど、外で会うあの子はすごく面白い。あと、ロリがいない時ね。なんでかわからないけど、外で会う時のがのびのびしてるっていうか。それで、映画が終わってから、あたしの部屋に行っていっしょにねた。 #RASV 0107
2013-08-12 22:28:34キャサリンは持ってきたパジャマに着がえたけど、その時おしりにでっかいアザがあるのが見えた。 「どしたんそれ?」 「えっと、ころんだ」 「いたくないの?」 「そんなにも」 そういえば今日はキャサリンは立ちっぱなしで一回もカウチにすわらなかったの思い出した。 #RASV 0108
2013-08-12 22:34:42そのことアザを見るまでぜんぜん気づかなかった。どんだけはでにころんだんだろ? それから「あたし床でねようか?」と言ったけどキャサリンはううん、いっしょにねてほしいと言うので、あたしは良かった、と言っていっしょにベッドに入った。 #RASV 0109
2013-08-12 22:38:31それからふたりでいっぱい話した。さいしょの方はあたしばっかりしゃべってたけど、今はふたりだけだって分かったのかな、キャサリンもだんだんしゃべるようになった。親といる時とか、ロリといっしょの時とか学校の時間はどっちかというとおとなしい子だから。 #RASV 0110
2013-08-12 22:49:25先生とか、ほかの女子とか、クソやろうのベッキーのこととか話した。それと、ママとパパが引っこしの話をこないだしたけど、もしかしたらふたりとも考えすぎかもって話した。4年の時英語のワイズガーヴァー先生があなた考えすぎよって言ったけど、これっていでんなのかな? #RASV 0111
2013-08-12 23:00:10でもあたしには何が本当のことで、何がもうそうかくらいはわかる。家族の中でマトモなのはあたしだけかもってさいきんは思う。 だいぶしゃべってから、イメージごっこしようってなって、キャンプのねぶくろにあたしとキャサリンが入ってることにして、ぎゅっとだきあった。 #RASV 0112
2013-08-12 23:07:25それからキャサリンの番になって 「それでは次に、新しい家族をイメージしてください。どんな家族ですか?」 「ヴァーモントに住んでいます。パパは書さいで本を書いています。ママは美人でやさしくていつもわたしたちをにこにこしながら見ています。 #RASV 0113
2013-08-12 23:12:01ジュニアリーグのお母さんみたいにすてきな人で、それから、ブロンドのかみのかわいい子供が3、4人いるの。大きな家に住んでて、そこにはだんろもあって、それから、外には白くてりっぱな柱が4本もたってる」 「すごくすてき」とキャサリンが言った。 #RASV 0114
2013-08-13 20:57:11キャサリンのパパはとうしの仕事をしてて、今はダウンタウンのぎんこうと仕事してるんだって。キャサリンの家は78番街のパークにあるけど、あんまり行ったことがない。なんでかって言うと、うるさくするとパパやママにおこられるってキャサリンが言うから。 #RASV 0115
2013-08-14 00:31:41次はあたしが聞く番。「あなたの家族をイメージしてください。どんな家族ですか?」 「みんな自分の部屋にいて、わたしも自分の部屋から出ません。わたしはずっと本を読んでて、ときどきテレビも見ます。パパは外国で働いていて、週末になるとママが電話します。 #RASV 0116
2013-08-13 21:03:43パパは1年に1回だけ家に帰ってきます。わたしにはお姉さんが3人いて、みんな美人で、わたしにとてもやさしくしてくれます。 じゃあ次はわたしね。あなたの彼氏をイメージしてください。どんな男の子ですか?」 「あたし男の子きらい」 「もしもの話よ。どんな男の子?」 #RASV 0117
2013-08-13 21:06:52「えっと、あんまり背は高くなくて、あごにヒゲがはえています。それから、メガネをかけています。あたしがあれとってよと言うと、とってくれます」 「それあんたのパパじゃん」と言ってキャサリンは笑いだした。 「ちがうよ。次あたしね。彼氏はどんな子ですか?」 #RASV 0118
2013-08-13 21:09:45「かみはブロンドで、顔はすごくかっこよくて、自転車の選手みたいなハーフパンツをはいています。水泳がとくいで、わたしをディナーにしょうたいしてくれます。わたしのたんじょう日をぜったいに忘れません」 「それってコリーのことじゃん」と言ってあたしも笑ってしまった。 #RASV 0119
2013-08-13 21:12:53「ちがうよポールだよ」 「まだあたしの番ね。イメージしてください。あなたは好きな場所に行くことができます。どこに行ってみたいですか?」 「わかんない」と言ってキャサリンの足があたしの足に乗っかってきた。あたしも足をからめたら、あったかくて気持ちよかった。 #RASV 0120
2013-08-13 21:15:49「どこに行きたいかなあ。どこでもいいや」 「フロリダじゃないの?」と聞いたらキャサリンは首をふった。家族で毎年フロリダに行くって聞いたからそうかと思ったのに。 「あたしだったらヨーロッパかな。おじいちゃんとおばあちゃんがいるから」とあたしは言った。 #RASV 0121
2013-08-13 21:58:15「アメリカ人じゃないの?」とキャサリンが聞いた。 「プラハ生まれよ。ああプラハ行きたいなあ。次はどうする?」 キャサリンはねころがってふっきんするみたいなかっこうになった。 「じゃあ、イメージしてください。あなたは男の子でわたしをレイプしようとしています」 #RASV 0122
2013-08-13 22:03:51「なんであたしがそんなことしなきゃなんないのよ?考えるだけでキモいよ」 「いいから、イメージしてください」 「もしもあたしが男の子だったら、ぜったいレイプしません。だいたいなんでそんなこと聞くの?」 「男の子はレイプが好きだもん」 「やめようもう。ねなきゃ」 #RASV 0123
2013-08-13 22:07:21キャサリンはねがえりしてあっちを向いた。 「もしいびきかいてたらたたいていいよ」 「たたかないよ。ける」 「りょうかい」 でもすぐにはねむれなかった。なんでキャサリンはあんなこと言ったんだろうとずっと考えてた。#RASV 0124
2013-08-13 22:10:59もし自分が男の子だったらとそうぞうするのはできないことはないし、もしあたしが男の子だったらそこらの男の子よりぜったいいい子になれると思うけど、レイプなんて考えられないし、なんでキャサリンがそんなこと言い出したか分からない。キャサリンはときどきすごく変。 #RASV 0125
2013-08-13 22:13:46キャサリンはいびきなんてかかなかった。だれかにお前いびきがうるさいって言われたのかな?あたしはかべの向こうから聞こえてくるブーブのねごとをじっと聞いていた。ひとりになりたいな。そしたらアンと話ができるのに。でもおそくなったけどこうやって書けたからよかった。 #RASV 0126
2013-08-13 22:19:28