夕焼け・土方歳三はゆく【シナリオ版】第五章「二人だけの新選組」
おまたせしました! 「夕焼け・土方歳三はゆく」【シナリオ版】第26回 第五章「ふたりだけの新選組」第1回 ゆるゆると始めて行きたいと思います。 #試衛館の青春
2013-08-18 18:03:18① 江戸・鳥居丹後守役宅(仮屯所)の一室 斎藤一が、一人、壁にもたれて遠くを見ている。 千代、徳利と湯呑二つを持って入って来る。 千代「呑みませんか」 斎藤、千代に目をやり気だるく微笑む。 #試衛館の青春
2013-08-18 18:05:24千代、斎藤と並んで坐る。 斎藤、徳利を取り、千代の湯呑に酒を注ぎ、自分の湯呑にも注ぐ。 斎藤、一口飲んで 斎藤「静かだなあ」 千代「今、残ってるのは、私達だけ」 斎藤「土方さんは?」 #試衛館の青春
2013-08-18 18:06:38千代「総司さんのところ」 斎藤「一緒に行かなくていいのか」 千代「行かなきゃダメ、なんでしょうね」 斎藤「じゃあ、なぜ、行かない?」 千代、答えず、前を見たまま、湯呑の酒を一口飲む。 #試衛館の青春
2013-08-18 18:09:34斎藤、千代の横顔を見つめる。やがて前を向き、 斎藤「ごめん」 千代、斎藤を見て、淋しく微笑む。 斎藤、前を見たまま、湯呑の酒を一気に飲み干す。 暫くの沈黙の後、千代、斎藤の湯呑に酒を注ぎながら、 #試衛館の青春
2013-08-18 18:10:56千代「永倉さん達と行かないんですね」 斎藤「性に合わないんだ。つるんで呑むのって」 千代「ふうん・・・ピンさんか・・・」 斎藤「うん?」 千代「そう呼んでましたよね」 斎藤「ああ」 二人黙る。壁にもたれて遠くを見る。 #試衛館の青春
2013-08-18 18:11:53② 庭 満開の梅、枝にウグイスが遊ぶ。 ③ 庭 八分咲きの桜 #試衛館の青春
2013-08-18 18:12:45④ 仮屯所の一室 歳三が「豊玉発句集」を開き、中の句に手を入れている。 廊下を早足で歩く音。 慌しく障子が開けられ、近藤が入って来る。 近藤「歳さん、大名だぞ、大名」 歳三「勇さん・・・大名?」 #試衛館の青春
2013-08-18 18:14:13近藤「勝先生に、甲府城を取れと命じられた。そして、取ったらやると」 歳三「えっ」 歳三、一瞬、戸惑いの表情。しかし、すぐに何か思い当たったように微苦笑し、近藤を見て、力強く微笑む。 歳三「やっと仕事が出来たな」 #試衛館の青春
2013-08-18 18:15:21⑤ 仮屯所一室 千代が本を読んでいる。 障子が開き、歳三の顔が覗く。 千代、顔を上げる。 歳三「ついて来い」 #試衛館の青春
2013-08-18 18:16:12⑥ 植木屋平五郎宅・離れ 沖田総司が、布団の上に坐って、庭を眺めている。 歳三が入ってくる。 沖田、歳三を見て微笑む。 歳三、微笑み返し、 歳三「今日はな、俺一人じゃないんだ」 #試衛館の青春
2013-08-18 18:17:42沖田、歳三の後方に目をやる。 千代が入ってくる。 沖田、一層嬉しそうに微笑む。 沖田「千代ちゃん・・・、やっと来てくれたんだ」 千代、戸惑った様子。やがて微笑む。 歳三と千代、部屋に上がって座る。 #試衛館の青春
2013-08-18 18:18:56歳三「新選組にも、やっと仕事が出来た。甲府城を取りに行く。明日出発する。暫く顔を出せなくなる」 沖田「私も行く。連れて行ってください」 歳三「総司・・・」 沖田「お願いします。一人で江戸に残されるなんて、いやだ」 #試衛館の青春
2013-08-18 18:20:26歳三「無理言うな。今のお前の身体で戦なんて・・・、お前は今は身体を治す事だけ考えろ。それに、一人じゃない。明日から千代がここに居る」 沖田「千代ちゃんが?」 沖田、千代を見る。 千代、驚いて、何か言いかける。 歳三、目で制す。 千代、黙る。 #試衛館の青春
2013-08-18 18:22:57⑦ 帰り道 千代の少し先を歳三が歩いている。 千代、その背中に語気荒く 千代「私、聞いてない!」 歳三、立ち止まり、振り返る。 千代「江戸に残るなんて、聞いてないよ」 歳三「そりゃそうだろう。まだ言ってなかったから・・・。お前、残れ」 千代「いや!」 #試衛館の青春
2013-08-19 18:02:22歳三「千代・・・。甲府城、取るったって空家同然の城だ。お前を欠いたって、どうってことない。だから、残って、総司の傍にいてやれ」 千代「空家同然ねえ。官軍が来てないって保証どこにあるのよ。もし、うまく城を押さえたとしても、いずれは来る」 #試衛館の青春
2013-08-19 18:04:26歳三「そうなったら、戦うまでだ」 千代「戦って勝てる?」 歳三「一時なら充分勝てる」 千代「でも、結局のところ・・・」 千代、ふと思い当たったように 千代「ひょっとして、私だけ助けるつもりで・・・、そうなのね」 #試衛館の青春
2013-08-19 18:06:03歳三「ちがう!」 千代「ちがわない!」 歳三「自惚れるな!」 千代「お兄ちゃん・・・」 歳三「お前の生命、それほど大事に思っちゃいねえよ。死ぬときゃ一緒だ。新選組隊士としてな」 千代「だったら・・・」 #試衛館の青春
2013-08-19 18:07:17歳三「でもな、総司はどうなる。俺は病のことは解らねえ。が、そんな俺が見ても、あいつがもう長かねえ事くらいは解る。俺はあいつを新選組隊士として死なせてやりたい。できれば戦場で。 #試衛館の青春
2013-08-19 18:09:26でも、もうそれは無理だ。だったら、せめて、お前に看取られることによって新選組隊士として死なせてやろうと思うんだ」 #試衛館の青春
2013-08-19 18:10:47千代、歳三の話を聞くうち、だんだん表情が和らぐ。 暫くの沈黙の後、フッと微苦笑し、 千代「医者になんかなるんじゃなかった」 歳三「千代・・・」 歳三、千代を見つめる。 #試衛館の青春
2013-08-19 18:13:22千代、振りきるように、 千代「わかりました。残ります」 歳三、少し間を置いて、 歳三「そうか・・・すまんな」 #試衛館の青春
2013-08-19 18:14:13⑧ 植木屋平五郎宅・離れ(次の日) 沖田が布団の上に坐って庭を眺めている。 千代、入ってくる。 千代「総司さん、来たわよ」 沖田「みんなは、もう行ったの?」 千代「ええ、出発したわ」 #試衛館の青春
2013-08-19 18:15:27沖田「そうか・・・新選組は行っちゃったんだね」 千代「ううん、新選組は行っちゃってなんかいないわ」 沖田「えっ」 千代「ここも新選組よ」 沖田「・・・」 #試衛館の青春
2013-08-19 18:16:42沖田、不思議そうに千代を見る。 千代「だって、総司さんも私も新選組隊士でしょ。だからここは新選組。二人だけの新選組よ」 沖田「二人だけの新選組・・・」 沖田、呟くように言い、微笑む。 #試衛館の青春
2013-08-19 18:18:04