漫画から学ぶ演出情報の出し方

web連載中の「極光の銀翼」ってこれ? http://www.garakunomori.com/products/s_aurora.html
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榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 操縦士は――しかしそこで絶句した。 『どうした〈トンプソン13〉!?』  管制官が慌てた様に尋ねてくる。  機長も操縦士も揃って愕然と凍り付いていた。  異様なものが目の前にいる。  それは―― 「逆だ……」  呆然と呟く操縦士。 #sousaku

2013-09-21 23:21:33
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

『何だって?』 「前後逆に飛んで――」  そう。それは『さかさま』だった。  その戦闘機は鼻先にプロペラが無い。代わりに機体の後部――後端にプロペラが装備されているのだ。それはあたかも、空中を逆進しているかの様な、異様な光景だった。 「何なんだこいつは!?」 #sousaku

2013-09-21 23:22:00
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

〈トンプソン13〉の乗員達――彼等は知らなかった。 ★敗戦国の一つが、戦争末期、米軍の高高度爆撃機を迎撃する為に開発した局地戦闘機。  機体後部にプロペラを配した極めて前衛的な『前翼型』機の一種。  その名を――『震電』。 #sousaku

2013-09-21 23:22:23
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 そう。知らずとも当然だ。 『震電』が実戦に参加した記録は無い。試作機が終戦の年にようやく完成した代物だ。当然、敗戦国の兵器としてそれらは米国が押さえている。だからそれは、今、この空を飛んでいるはずの無い、幽霊機であった。★ #sousaku

2013-09-21 23:22:45
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 その『さかさま』の奇妙な機体の背後には、先にも見た『鼻の長い二機』の姿も見える。  機種もばらばらながら、同じ部隊であるかの様にその三機は揃って飛んでいた。  そして―― 『このまま高度と進路を維持して飛んでくださいませ』  通信が入る。 #sousaku

2013-09-21 23:23:18
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 それが、件の『さかさま』からのものだと〈トンプソン13〉の乗員達が理解するには数秒を要した。斜め上を飛ぶ機体を仰ぎ見る乗員達は、まるで挨拶するかの様に機体を傾け、操縦席をこちらに向けている『さかさま』を見た。 #sousaku

2013-09-21 23:23:53
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『さかさま』の操縦士がこちらを向いているのが見える―― 『そうしてくださるなら、命の保証はいたします』 「命の保証だと? 武装して囲んでいるのはそっち……」  そこまで応じてから。  ようやく――機長は気付いたらしい。   #sousaku

2013-09-21 23:24:24
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 空電雑音にざらつく電波越しのその声の、甲高さに。  機長ははっと驚きの表情を浮かべて言った。 「!? お前、女なのか?」  女が戦場に立つ事が無いとは言わない。 #sousaku

2013-09-21 23:24:46
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 ★やむにやまれぬ事情で非戦闘員が銃をとる事もある。だがそれも精々が銃や車といった歩兵兵器までだ。戦闘機となると、専門性が高く、維持にもそれなりの資材が必要となる以上、その辺に転がっていた武器を、素人が拾って使うのとは話が異なる。   #sousaku

2013-09-21 23:25:33
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 操縦士達の常識では、専門訓練を積んだ女の兵士は恐ろしく珍しい存在だった。戦闘機乗りとなると皆無といっても良い位だ。★ #sousaku

2013-09-21 23:25:56
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 しかし―― 『お話は後で』 『さかさま』の操縦士は何処か癖のある、しかも微妙に古臭い言い回しでそう答える。  恐らく英語圏の国の出ではないのだろう。 『幸運を!』 #sousaku

2013-09-21 23:26:33
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 そんな言葉を残して機体を翻し、離れていく『さかさま』。  一体何を考えているのか?  確かにあの『さかさま』と仲間の二機は、完全に〈トンプソン13〉を包囲していた。それはつまり額に銃口を押しつけた状態に等しい。 #sousaku

2013-09-21 23:27:05
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

彼等――いや彼女等はいつでも〈トンプソン13〉を撃墜出来た筈である。  だがそうしなかった。  では何の為に? 「機長!」  乗組員の一人が叫ぶ。 「真上から別の奴がッ!!」 「何……!?」 #sousaku

2013-09-21 23:27:27
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

振り仰いだ硝子越しの蒼穹に、黒い点が見える。  それは猛烈な早さで大きく成長し――急降下中の戦闘機になった。  先の三機とは別だ。  六機編隊。いずれも機種は同じ。  綺麗な隊形を維持したままこちらに向かって飛んでくる―― #sousaku

2013-09-21 23:28:01
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 操縦士は息を呑んだ。  戦争中に何度も観た。  それはつまり獲物に襲い掛かる猛獣の姿だ。戦時中に何度も繰り返されてきた光景――とても典型的で分かり易い『鈍重な輸送機を襲うべく、急降下する戦闘機の編隊』の図。 「こっちを狙ってます!! 本気ですよ!!」 #sousaku

2013-09-21 23:28:36
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 乗組員の誰かが操縦士の想像を裏打ちするかの様に叫ぶ。  操縦士は背筋を冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。  こちらだ。後から出てきたこちらの戦闘機群こそが――『敵』だったのだ。  しかし……『敵』?  操縦士は自分自身の思考に焦りを覚えた。 #sousaku

2013-09-21 23:29:00
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 もう戦争は終わった。敵は居ない。かつて敵だった敗北者達が居るだけだ。  なのに―― 「こいつら……まだ戦争をしている積もりかーッ!」  愕然と叫ぶ操縦士。 「機長! 雲の中に……」  彼は機長を振り返って叫ぶ。 #sousaku

2013-09-21 23:29:25
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 迎撃や反撃など出来る筈も無い。ならば逃げるしか無い。  逃げるとすれば視界の利かない雲の中だ。  少なくとも精密照準の上での射撃は出来なくなる筈だから。  しかし…… 『なりません!』  却下の一言は機長からでは無く、通信機から飛んできた。 #sousaku

2013-09-21 23:30:05
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

「!!」  愕然と震える操縦士。  その声は先程離れていった『さかさま』のものだった。 『針路、高度、そのままで!』 「し、しかし……」  この時点で操縦士は今現在『さかさま』が何処に居るのか分からなかった。 #sousaku

2013-09-21 23:30:37
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

少なくとも〈トンプソン13〉の操縦室から見える範囲にその姿は無い。  もし全てを俯瞰する――神の如き視点が在ったなら、見る事が出来たろう。 #sousaku

2013-09-21 23:31:02
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

〈トンプソン13〉の真下から――その大きな翼の陰に隠れる様にして、しかし、大気を抉り抜くかの様な、猛烈な速度で上昇してくる『さかさま』の機影を。 ★『さかさま』――即ち〈震電〉は、高高度爆撃機B29の迎撃用に開発された機体である。 #sousaku

2013-09-21 23:31:22
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

 その強烈な速力、特に上昇能力を活かし、一瞬で獲物を仕留める。高度一万を飛ぶB29にすれ違いざま、大口径30ミリ機銃四門の斉射を浴びせかける事で、自分に数倍する爆撃機を撃墜すると考えられていたという。★ #sousaku

2013-09-21 23:31:41
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

「――ッ!」 『さかさま』の女操縦士が鋭い呼気を吐く。  強烈な集中力による照準と――射撃。 「させませんッ!!」  その一言を発した時には、もう決着はついていた。 #sousaku

2013-09-21 23:32:07
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

上空から飛来した『敵』戦闘機群は、『さかさま』の一撃を避けようもなく真正面から喰らい、空中に四散する。ばらばらと部品をまき散らしながら墜ちていく戦闘機。無害な獲物だと思っていた輸送機の陰から、突然飛び出してきた『猛犬』に、致命の一撃を食らってしまったのである。 #sousaku

2013-09-21 23:32:29
榊一郎@来年のスケジュールを模索中♪ @ichiro_sakaki

『さかさま』は空の青に猛烈な上昇軌道の跡を白く刻みつつ、更に旋回。  それを見上げながら――呆然と〈トンプソン13〉の乗組員は呟いた。 「す、スゲェ……一撃で」  憧憬すら込められた視線の先で、異形の機体に陽光が跳ねて燦めく。 #sousaku

2013-09-21 23:32:55
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