モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Summer XI~

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IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 にこやかな微笑みで近づいてきた谷川淳の隣で、腕組みしている無精髭の男。  それは確かに志智が先日出会い、言葉をかわしたVTRの乗り手ではあったが、どこか拒絶を含んだ不機嫌な表情に見えた。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:55:26
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「気にしないでくれ。なあに、こいつはこういう奴なんだ……」 「はあ……」 「難西だ。難西風男(なんぜいかざお)」  それが自己紹介のつもりなのだろうか。自らの名を名乗ると、さっさときびすを返して難西はVTRにまたがってしまう。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:55:42
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「あれっ……え。ええっ?」 「大丈夫だ。キミのことはちゃんと伝えてある」 「そ、そうなんですか」 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:56:00
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 呆気にとられる志智に、谷川はニヤニヤと笑いながら耳打ちした。  無礼としか言いようのない難西の態度も、そしてそれに動揺する志智の表情も、どちらもおかしくて仕方がないといった表情である。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:56:04
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「先週も言ったけれど、コースはここから月夜見第一まで上がって……折り返しだ。  この時間なら一般車もほとんどいないからね。貸し切りで走ってもらえると思うよ」 「分かりました」 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:56:26
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「一応、僕も後から走るから何かあったときのフォローは心配しないでほしい」 「谷川さんも……ですか」 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:56:48
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「━━ちょっと待ってください!! わたくしも、ですわ!!」 「ん?」  亞璃須の声は妙に小さく聞こえた。振り返ると、ゴシックロリータ姿の彼女はどこにも見つからない。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:56:52
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「━━ねえ、聞こえてます、志智!?」 「あ、ああ……聞こえてるよ」  二言目で志智は彼女がどこにいるのか察する。どうも吉脇のハイエースの中で、着替えながら叫んでいるらしい。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:57:01
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「……と言うより、こっちの会話が聞こえてるお前の方がすごいけどな……」 「━━はい? 何か言いました?」 「いや、何でもないよ」 「あはは……姉さん、お兄さんの声なら1km先でも聞こえるとか、いつも言ってますよ」 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:57:19
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「そんなに大声なつもりはないんだけどな……いや、待てよ」  困ったような顔のティックに肩をすくめて返しつつも、頭の片隅で恐ろしい想像に行き着いてしまった志智は、何か小さな機械を探すようにジャケットやジーンズのポケットをまさぐるのだった。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:57:39
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 レーシングスーツ姿の亞璃須が、ハイエースから飛び出してくるまで一分。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:58:49
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 キュルキュルと鳴るセルの音と共に、VTエンジンの二重奏が始まり、続いてヤマハの誇る998cc並列4気筒のエンジンサウンドが、さらにはXR650Rの雷鳴にも似た単気筒エキゾーストノートが加わるまで十数秒。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:58:52
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「あの……先にどうぞ」  VTRに横付けした志智が告げた言葉に、難西(なんぜい)は一瞬、驚いたような表情を見せた。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:59:22
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 だが次の感情をうかがわせるよりも、彼がクラッチをつなぐ方が早い。  ゆっくりと前へ進み始めるVTR。本線上へ出ると、一気にダッシュ。そして志智のスパーダが続く。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:59:28
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(……遅いな……)  最初に志智が抱いたのはそんな感情だった。  川野駐車場からはじまるストレート。VTRの加速は同じエンジンを積んでいるとは思えないほど緩慢であり、志智が2速に入れてから数秒遅れて、やっと左足が動きシフトアップしている。 #mor_cy_dar

2013-09-30 19:59:48
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(このまま前に出られそうなくらいだ……)  スパーダは3速へ。  それから三秒。いや、四秒経ってもVTRがシフトする様子はない。 #mor_cy_dar

2013-09-30 20:00:04
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 やっと動いた。  戸惑いが志智を包む。自分が見たあの速さは何だったのだろうかと。  ストレートを終え、直角に左へ曲がる第一コーナー━━VTRの速度はようやく100kmに達しようかという程度である。 #mor_cy_dar

2013-09-30 20:00:29
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 そして、二台のクォーターマシンはブレーキングを始める。 (……あれっ?)  違和感。志智のスパーダはブレーキングエンドで2速へシフトを落とした。  それはコーナーの立ち上がりでなるべく高回転をキープするためであり、ごく当たり前のことだった。 #mor_cy_dar

2013-09-30 20:00:41
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 ━━しかし、難西のVTRはシフトを落とさない。 「ちょ……そのままかよっ!?」  コーナリングが始まった。VTRがぐんぐん前へ出て行く。  シフトペダルを操作している様子はなかった。3速のままだ。つまり、明らかに難西のコーナリングスピードの方が速い。 #mor_cy_dar

2013-09-30 20:01:02
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(なんでだ……これ……あ、そうか!!)  その時、やっと志智はからくりに気づいた。同じ250ccのVTエンジンではあっても、各ギアの守備範囲が違うことに。 #mor_cy_dar

2013-09-30 20:01:11
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「ふふ、志智くん。なんだか動揺してるじゃないか」  十メートル弱ほど離れた距離からスパーダを追走する谷川には、志智の戸惑いがよく分かった。 #mor_cy_dar

2013-09-30 20:01:24
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 顔が見えなくてもライダーの感情は背中に表れる。  アクセルを操作する腕に、体重移動する腰に。外見上は僅かな変化だとしても、同じ道を走るライダーの目にとっては、膨大な情報となって伝わってくるのだ。 #mor_cy_dar

2013-09-30 20:01:33
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(さしずめスパーダの6速ギアとVTRの5速……その違いが意外だったというところかな) 『深紫(ディープパープル)のYZF-R1』のギアは3速に入れたまま。コーナーの立ち上がりでは涙が出るほどの低回転となる。 #mor_cy_dar

2013-09-30 20:01:51
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 しかし、それでも谷川は悠々と先行する二台についていってしまう。  背中からは跳ね上がるような単気筒の爆音。亞璃須(ありす)のXR650Rがフロントを僅かに浮かせながら、猛然とダッシュしている。 #mor_cy_dar

2013-09-30 20:02:03
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