【twitter小説】失くした右腕#1【ファンタジー】
「いくぞ、ミレイリル。次は画伯のお宅だ。準備をしなさい」 ミレイリルは急いで本を本棚にしまって、青いヘルメットを被った。これはレックウィルの被っているヘルメットと同じで、彼のお古だ。 「先生、ようやく仕事に連れていってくれるんですね!」 24
2013-10-14 16:48:02ミレイリルのミニスクーターは小屋の裏にしまってあった。これは灰色の量産スクーターで、街でも同じ物をよく見かけることができる。簡単な作りで、排気量は少なく、金属パイプと薄い金属板で出来ていた。 「仕事のほとんどは遺族との付き合いだ。よく見て勉強するように」 25
2013-10-14 16:51:572台のスクーターは街の大通りを避けるようにして穴だらけの街を進んでいった。まだ大通りでは葬式が大々的に行われている。このクノーム市は露天掘りの跡地に出来たため、あちこちに鉱山へ続く縦穴が開いていた。ゴオゴオと風の抜ける音が排気音をかき消す。 26
2013-10-14 16:56:38亡くなった画家クレイシルムの家は弔問客でごった返していたが、離れにあるアトリエはひとがまだ少ない。先程事務所に帰った時電信を送っていたため、クレイシルムの家族はすぐ二人をアトリエに通してくれた。 27
2013-10-14 17:01:09「爺さんが化けて出るなんてね……いや、あの絵を見たら確かに未練が残るのも分かりますよ」 クレイシルムの息子である家主はそう言っていた。孫娘はいま外に出払っているらしい。レックウィルとミレイリルはアトリエに入る。 28
2013-10-14 17:04:19ミレイリルはアトリエの中を見て息をのんだ。アトリエの中には所狭しとキャンバスが積み重ねられ、鮮やかな色の絵具を覗かせていたのだ。信じられない量の絵が積み重なっている。飾られている美しい絵は一部にすぎない。 29
2013-10-14 17:08:10「積まれている絵はみんな描きかけの絵なんですよ。いつか続きを描こうとして残しておいたんでしょう」 そう言って家主は、イーゼルに掛っている幾分か小さめの絵を指差した。イーゼルは反対側を向いていてこちらからは絵は見えない。 30
2013-10-14 17:11:20「あれも描きかけの絵ですが……素晴らしいものですよ。きっとあれの続きを描きたかったのでしょう」 レックウィルは家主に断りを入れ、絵を見に行った。ミレイリルも続く。そこには信じられない世界が広がっていた。 31
2013-10-14 17:16:07それは部屋の中の絵だった。ひとりの少女が人形で遊んでいる。たくさんの人形が飾られていて、落ちついた色調で深く彩られていた。ミレイリルはこれが未完成品に見えなかった。ほぼ完成しているのだ。少なくとも、彼女はどこが足りていないか分からない。 32
2013-10-14 17:21:46「これが天才の世界か……これでもまだ不十分なんだね」 ミレイリルは深くため息をつく。その時である。レックウィルの緊急携帯電信がカチカチと緊急信号を発し始めたのだ! 33
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