#僕の彼女の自傷癖がヒドい件 挿話
- isibasitomo
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放課後。 橙(オレンジ)色がかった斜光が差し込む誰もいなくなった教室で僕はいつものように自分の席に座ったまま、やがて来るであろう彼女のことを待っていた。 「ねえ………」 やがて聞こえる声。 乾いた砂を纏ったような擦れた雑音。 「なんだい?」 2
2013-11-08 18:43:16「それは………」 今更過ぎるくらい今更だね、と言う言葉を飲み込んで僕は肯いた。 「私ね、実は―――」 そこまで言うと口篭って。 『右の手』で僕の目を塞いだ。 4
2013-11-08 18:43:52「―――ごめんなさい、私を見ないでもらっていいかしら?」 「お好きなように」 僕は椅子ごと反対を向いた。 両の肩にやわらかい感覚。 「手を握ってもいい?」 「お願いするわ」 手に触れ、そして指を絡ませる。 5
2013-11-08 18:44:24手を洗ったばかりなのか、彼女の手は少し湿り気があり、そして冷たかった。 ぎゅっと、少しだけ力を込める。 6
2013-11-08 18:44:40「………」 「………………」 「………………………」 先に口を開いたのは例によって僕だった。 「うん、分かった」 8
2013-11-08 18:45:21背を向けたまま頷いた。 「真剣なのよ。これはとても大切なことなの。」 前に廻り込んだKが僕の肩を今度は正面から掴む。 僕はその手首を掴んで肩から離………離れない。 9
2013-11-08 18:45:53「僕にはちょっと、君の琴線とか癪に障るとか矜持(プライド)とか羞恥とかのココロの臨界点(リミット)がちょっと分からないよ。まあ今に始まったことじゃないけど………つまりこう言うことだろう?流さなかったんじゃなくて流れないんだって君が困ってることは何となく分かったんだけど」 12
2013-11-09 06:40:05「じゃあ先生にでも言ってくればいいじゃないか」 「ちょっと」 ココロから心外であると言う貌と非難の色彩を秘めて、そして、 「それはつまり先生に、トイレが流れなくて、私の、わたしの………」 躯中から力と血を振り絞る取るような粗面(ざらつ)いた声で。 13
2013-11-09 06:40:35「トイレの水が流れなくて私の、お、お、おしっことそれを放出(だ)した下半身を拭いた紙が便器の中にそのままになってしまっているから、なんとか大至急、迅速に、流せるようにして下さい。お願いします。とでも言えというの?」 15
2013-11-09 06:44:42「なんだ、『大』じゃないのか」 煽ったつもりはないけれど第一仔細に告白し過ぎではないかな、とそれは言わずに率直に感想を述べた。 「逸(はぐ)らかさないで欲しいの、おねがいよ」 「分かったよ」 16
2013-11-09 06:46:09彼女の手首を掴んでいた僕の手は彼女の手の上に。 「それじゃ確認しに行こう、ほら、手を離して」 解放された僕は彼女の左手を取ったまま席を立った。 17
2013-11-09 06:46:31気持ちを切り替えるように深く息をしたのが四本の指からも伝わる。 「洗ってこない方が良かった?」 彼女の瞳にいつもの光彩(いろ)が戻って来た。 20
2013-11-09 06:47:19