大罪戦闘企画

第六公演《孤守唄》
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【魔王】 @Tokimine_Seo

身を退かれた瞬間、ぴたりと歩む足を止めた。 ぼりり、と最後まできちんと食べきってから、それ以上近づかずに声をかける。 「……分けてはくれねぇの?」 残念。小さく囁いて、しょんぼりと眉尻を下げた。 怖がられているのか、警戒されているのかは、わからないまま。

2013-11-16 19:02:29
華夏の勇者 @battle_atom

よかった。人間君はピタリと動くのを止めてくれた。 悲しそうに顔を歪めて、分けてはくれないのかと僕に言う。 そんなにも欲しいのだろうか、自分と同じ肉が。 もし分け与えたなら、この子は帰ってくれるのかな。

2013-11-16 19:15:20
華夏の勇者 @battle_atom

ガリガリの体は、昔を思い出すから、みていて気分が良いものではないし、このままじゃ落ち着いてゆっくり『ご飯』も食べられない。 それにやっぱり、自分から僕に近づいて来ようとする人間は、こわい。 僕はばかだから、また『だまされて』しまいそうで、こわい。こわいんだ。

2013-11-16 19:15:42
華夏の勇者 @battle_atom

ぶちり、と『ご飯』の片腕をちぎって、目の前の人間君に向かってなげる。 …これで、かえってくれたら、うれしいのだけど。

2013-11-16 19:16:09
【魔王】 @Tokimine_Seo

宙を舞う、それなりに重みのあるちぎられた腕を軽やかに受け取った。 「あんがと」 受け取った勢いのまま肉にかぶりつく。喰いちぎって、もそもそと噛む。飲み込んだ瞬間にそれは溶けるように掻き消えて、十二指腸を使わない間違った形で身体へと吸収された。 骨まで残さず噛み砕き。

2013-11-16 19:27:17
【魔王】 @Tokimine_Seo

「ごちそうさま」 口端についていた血をべろりと舐めとって、にっと笑う。あくまで友好的な、裏のない笑顔。 「なあ、何でそんなに怯えてるんだよ」 退かれて、追い払うように手にある食物を分けて。彼は何に怯えているんだろう。何故、俺から逃れたいんだろう。

2013-11-16 19:27:22
華夏の勇者 @battle_atom

「おびえる?ぼくが?ぼくがきみに?おびえてるの?」 せっかく僕のご飯をわけてあげたのに、人間君はまだ僕に話しかける。 うるさい。うるさい。お願いだからどこかにいって。 僕にはなしかけないで。ぼくにちかづかないで。

2013-11-16 19:45:05
華夏の勇者 @battle_atom

君達は『餌』なんだから、余計なことしゃべらないで、ただ僕に怯えて悲鳴をあげればいいんだ。 なんで?どうして? そんなの、君がそうしてわらってるからにきまってるじゃないか! 「…しらない、しらないよ。かえれ、そんなにたべられたいの」

2013-11-16 19:45:42
【魔王】 @Tokimine_Seo

「見るからに怯えてるじゃねえか」 小動物のように、近づいたら、離れる。怯えていない以外に、なんだと言うのだろう。 「食べられたくはねえなー」 「俺はお前と話がしてみたい」 俺と同じように、ごく普通に「人」を喰らうこの男に、興味がわいて。

2013-11-16 20:08:52
【魔王】 @Tokimine_Seo

「こんな風にさ、俺もお前も『人』を喰っててさあ」 「似てると思わねえ?」

2013-11-16 20:08:56
華夏の勇者 @battle_atom

「………」 この子は、今、何と言ったのだろう。 食べられたくないとかいってる癖に、僕と話したいといった。 こんな僕と、話を。 ……ああやっぱりだ、やっぱりこいつもそうだ。 おかしいと思ったんだ、こんな化け物の僕に、笑いかけてくれるんだから。

2013-11-16 20:38:34
華夏の勇者 @battle_atom

ときどき、とはいっても僕がこんな姿に成り果ててしまってからはまったくと言っていい程なかったけれど、偶に、こうして人間から僕に近づいてくる事がある。 そういう奴らはだいたい決まって、笑顔で、今この子が僕に言ったみたいに、僕と話がしたいだとか、そんな事を言って僕に近づいてくるんだ。

2013-11-16 20:39:34
華夏の勇者 @battle_atom

――僕を家族だと言って頭を撫でてくれた老夫婦がいた。次第に僕の正体を知り、出される食事が全て毒のスープに変わった。 ――僕を友達だと言って一緒に遊んでくれた女の子がいた。実はそれは全部演技で、ある日女の子につれられていった先には、危ない刃物を持った人間が沢山僕を待っていた。

2013-11-16 20:41:50
華夏の勇者 @battle_atom

昔はよく騙されていたけれど、何度も何度も繰り返し騙されるうちに、頭の悪い僕でもいい加減わかってきた。 きっとこいつも同じ、奴らと同じ。 「…うそつき」 言い終わるより前に、身体が動いていた。 手にしてた餌をあの子に叩き付ける様に、大きく振るう。

2013-11-16 20:42:53
【魔王】 @Tokimine_Seo

「うえっ、ちょっ!?」 突如彼の手にあった人の残骸が振るわれる。とっさに後ろへ移動して距離を取ったが。何が気に障ったのか、全く分からなくて。 「……大して相手の事知りもしねえのに、『うそつき』はねえんじゃねえの?」 ほんの少し、眉をしかめて。

2013-11-16 21:02:57
【魔王】 @Tokimine_Seo

「さすがの俺だって気分はよくねえよ?」 ゴミの山から、折れたスコップのようなものを引きずり出して、その柄をがりがりと食い漁る。 「何の根拠があって俺をうそつき呼ばわりするんだよ」 意外といらいらしているようだ。

2013-11-16 21:03:01
華夏の勇者 @battle_atom

「だって、しゃべる餌は全部、うそつき。そう、うそつき、うそつきなんだ。」 思いきり振るったそれは上手く当たらなかった。人間君が避けてしまったから。 さっきよりも少しあいた距離。 人間君は不機嫌そうに顔をしかめて、僕に言う。 こんきょ。こんきょってものが何か僕にはわからなかった。

2013-11-16 21:43:05
華夏の勇者 @battle_atom

でも、それが理由を意味するのなら、それは間違いなく僕の今まで生きてきた道のりだ。 たしか、ジンセイって、いうんだっけ。 今すぐ人間君にそれをぶちまけてやりたいけど、僕の口は何かを食べる事は得意でも、喋る事は駄目だから、口に出すと、拙い単語の羅列に変わってしまう。

2013-11-16 21:43:50
華夏の勇者 @battle_atom

空腹感と、伝えたいのに上手くしゃべれないもどかしさと、目の前の人にたいするこわさと、怒りと、悲しみと、みんなみんな混ざって、ぐちゃぐちゃになる。 どうすればいいかわからなくて、とりあえず目の前のものを拒絶したくて、ぶんぶんと首を横に振った。 それしか、できなかった。

2013-11-16 21:45:42
【魔王】 @Tokimine_Seo

「餌」 目を、細めた。 「そーか。お前は俺を餌だと思ってるのか」 それならば、会話が成り立たないのも当たり前だ。対等ではないのだから。 家畜が言葉を発したとて、聞こうとする奴はいない。 止めていた一歩を、踏み出す。

2013-11-16 22:11:55
【魔王】 @Tokimine_Seo

「しゃべる餌がうそつきだって言うんなら、俺から見てお前もうそつきになるかもしれない」 下げた右手に、チェーンソーが具現する。目の前の者を食物として認識した証。 「『うそつき』だって、『餌』だって思われるのは、どんな気分だ、よッ!」 力いっぱい地を蹴って、チェーンソーを振るう。

2013-11-16 22:13:08
華夏の勇者 @battle_atom

ギュィイイイインと、けたたましい音が鳴り響く。 ああやっぱりそうだ。やっぱりそうだ。 彼は餌、餌だ。 いつもみたいに、僕を騙しに来る『餌』だ。 …だったら、食べられる前に、食べなきゃ。

2013-11-16 22:35:42
華夏の勇者 @battle_atom

人間君が振り回してきた音の出る塊を、身体を後ろに引いて避ける。 名前は知らないけど、たぶん、あれも人間が何かを殺すときに使うものなんだろうな。 「僕、化け物だもん。人間じゃない。嘘つかない。…人間は、………嘘、ばっかりだ」 …出した声は、震えてないかな、大丈夫かな。

2013-11-16 22:36:18
華夏の勇者 @battle_atom

餌を持ったまま動き続けるわけにもいかないから、とりあえずこの餌は全部食べてしまおう。 残った肉塊を全部お腹の口に押し込んだ。 それにはもう最初の生暖かさはのこってなくて。 すっかり冷えきってしまったそれをもうおいしいとは感じなかった。

2013-11-16 22:37:05
【魔王】 @Tokimine_Seo

腹に開いた大きな口に、肉塊が押し込まれるのを見る。腹にあんな口があったことにたった今気づいた、けれど。 「俺だって人間に見えるか?」 少なくとも見た目だけは、がりがりに痩せ細って不健康であっても人間だろうが。 おおよそ人間の食べ物ではないものを食べている俺は、果たして。

2013-11-16 23:51:43
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