#角川小説 「エフ・エム」 vol.2

角川Twitter小説コンテスト応募作品をまとめました。 おかげさまで最優秀賞候補作品30作品にノミネートして頂きました。ありがとうございます。 「これからあなたに90分間、時間を差し上げます。何回間違っても構いません。 90分以内に私が誰か、当ててください。もし時間内に私が誰か、思い出せなかったら、」 続きを読む
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水木ナオ* @nytf_fm

さらりと言ってのける男に、説得は無駄だと悟る。0か1か、男にはそれしかないのだ。心を読んだように、「私の存在を否定することは、あなたを殺すことになりますよ」心なしか寂しげな微笑みを男は浮かべた。【39:14】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-05 22:00:58
水木ナオ* @nytf_fm

あーもういっそ、ぶん殴っちゃおうかなあ。なんて、物騒な考えが頭を過ぎる。目の前の男は自分とそう変わらない体格だ。腕力には全く自信が無いし、喧嘩らしい喧嘩なんてしたことないけど。【38:48】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-06 12:01:01
水木ナオ* @nytf_fm

がん、とテーブルを蹴り上げて、一瞬男が怯んだ隙を見逃さず起爆スイッチを奪いとり、そのまま手を背中にひねり挙げて床にうつ伏せに押し付ける――とか、ドラマみたいにうまくいけばいいけどな。何せ主演は俺だ。【38:23】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-06 17:00:54
水木ナオ* @nytf_fm

スマホすら隙を突いて取り返せない程度の反射神経だしなあ……だいたいあんなにしっかりスイッチを握ってるんだ、いきなり殴りかかって、勢いで押しちまったらどうするんだ。先にスイッチを手放させられればまだしも。【37:50】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-06 22:01:04
水木ナオ* @nytf_fm

男に気付かれずにこの状況を店員に知らせるのは、さっき失敗したばかりだし。スマホもない、ボールペンも取られた。未だ手をつけないまま、微かに湯気をたてる2杯目のアメリカンをじっと見つめる。【37:32】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-07 12:00:15
水木ナオ* @nytf_fm

じゃあもう何としてでも、男が誰なのか思い出すしかないのか――…そう思ったときだった。いらっしゃいませ、という声が微かに耳に届く。店の入口に目をやれば、サラリーマンが2人、店員に案内されるところだった。【37:00】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-07 17:01:02
水木ナオ* @nytf_fm

気付けば店内は、ほぼ満席になっていた。空いている二人掛けの席は、もう俺の後ろの席だけで。やがて、こちらにどうぞ、と店員の快活な声が背後から響いて、俺は思わず肩を揺らした。【36:17】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-07 22:00:22
水木ナオ* @nytf_fm

「いやあ暑いっすねー」「クールビズったって外回りじゃ結局ネクタイ外せねえしなあ……あ、アイスコーヒー2つで」そんな会話が耳朶にふれる。はは、と笑い声と共にこつ、と背もたれが俺の椅子に当たった。【35:09】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-08 22:00:35
水木ナオ* @nytf_fm

「フカダさん?」男の声にはっと背筋を正す。「あ、うん、続けるよ。小学校時代は、……もう思いつかない」「そうですか。では他には?」「他、ほかは……ええと」口ごもりながら俺は自分のアメリカンに手を伸ばし、【34:26】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-11 08:00:14
水木ナオ* @nytf_fm

次の瞬間それを思い切りよく弾き飛ばした。白いカップはアメリカンを撒き散らしながらごっごっとテーブルの上を転げ、咄嗟に手を上に逃した男の腹に当たって動きを止めた。起爆スイッチは、握ったままだ。【33:57】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-11 10:00:09
水木ナオ* @nytf_fm

あわよくば手を放さないかとは思っていたので内心舌打ちするが、でもこれで終わりじゃない。男が口を開く前に、「わ、悪い!手が滑って……!」慌てたように、頭を何度も下げる。「……なら、仕方がないですね」【33:35】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-11 12:00:10
水木ナオ* @nytf_fm

男は軽く椅子を引くが、ぶちまけられたアメリカンはぽたぽたと男の膝へと落ちていく。「おいスーツ、大丈夫か?」そう言いながらも、おしぼりでさらに茶色の波を押しやるようにテーブルを拭いていると、【33:02】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-11 17:00:18
水木ナオ* @nytf_fm

「お客様、大丈夫ですか」騒ぎを聞きつけたのか、店員が慌てたようにこちらにやってきた。「すいません、珈琲を零してしまって。何か拭くものを貸してください」びしゃびしゃのおしぼりを渡してそう頼む。【32:48】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-11 20:00:42
水木ナオ* @nytf_fm

新しいおしぼりと雑巾を手にすぐに戻ってきた店員に促され、ようやく男はゆらりと立ち上がった。床を拭く店員からスイッチを持つ右手を隠すようにさりげなく体を傾け、左手だけで器用に腹や胸元を拭っていく。【31:33】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-11 22:00:32
水木ナオ* @nytf_fm

同じように受け取ったおしぼりで、すっかり珈琲臭くなった手を拭いながら、俺は後ろの二人の様子を伺っていた。さっきから会話が途切れ、ちらちらとこちらを気にしている。後は、できれば店員が口火を切ってくれれば――【30:57】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-12 08:00:41
水木ナオ* @nytf_fm

「あらお客様、ズボンの裾にも結構飛んでしまってますわねえ」果たして神の声が、足元から響いた。「どの辺です?」「こことか、脛の方にも結構……」店員に言われ、男は身を屈める。俺の視界から、男の姿が消えた。【30:29】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-12 10:00:21
水木ナオ* @nytf_fm

全てはこの、一瞬の隙のために。がばりと後ろを振り向くと、肩越しにこちらを伺っていた後ろのサラリーマンがうわっ、と小さく声をあげて仰け反った。それを逃がしてたまるかとばかりに、がし、と肩を掴む。【30:15】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-12 12:00:13
水木ナオ* @nytf_fm

へっ、と目を白黒させるサラリーマンの耳元に口を寄せると、俺は押し殺した声で一気に言い切った。「たのむおれのつれにばれないようけいさつをよんでくれあいつばくだんもってんだ」【30:01】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

2013-06-12 17:00:52