#角川小説 「エフ・エム」 vol.3
-
- いいね！0
水木ナオ＊
@nytf_fm
「初めて合コンで会った日も、友達にどうしてもって言われて断りきれずにきてたんだとさ。そのうえで悪酔いした俺の、ノリコとの愚痴をずっと聞いてくれてさ。ハルミ、酒飲めないのにな。本当、格好悪いとこみせたわ」【07:36】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-01 20:00:40
水木ナオ＊
@nytf_fm
「でもそれから毎日メールとか電話してさ、1週間経ったとこであーしまった、好きだわって思っちゃったんだよな。その勢いでノリコにも別れようって電話して。馬鹿だよな、ハルミには好きな人がいるって知ってたのにな」【07:11】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-02 01:00:07
水木ナオ＊
@nytf_fm
「1週間のやりとりの中で、ハルミも自分の話をしてくれるようになってたからさ。ずっと好きな人がいるんだと、会社の先輩で、優しくてイケメンなんだっつって、写真も見せられたしな。うん、まあ、モテそうだったよ」【06:56】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-02 08:00:08
水木ナオ＊
@nytf_fm
「それから8年もまあ……我ながらよく頑張ったよ。好きな女と電話したり会うたびに、やれ今日は先輩に褒められただの、やれ今日は彼女と約束があるから定時で帰っちゃっただの、聞かされる身になってみろ」【06:42】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-02 12:00:11
水木ナオ＊
@nytf_fm
「よかったな、とか残念だったな、って頭撫でるくらいはさせてもらったけどな。そんで、何度も冗談めかして、俺にしとけばいいのにって言ったんだけど、うまいことはぐらかされるんだよなあこれが」【06:27】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-02 17:00:49
水木ナオ＊
@nytf_fm
「まあ俺も居心地いい関係が壊れんのが嫌でそれ以上踏み込もうとしなかったし。それで8年、やっとその先輩が結婚してくれてさ。そこにつけこんだっつーか、普通にチャンス到来だろ？ で、めでたく恋人同士になりましたと」【06:03】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-02 20:00:05
水木ナオ＊
@nytf_fm
「そうやって念願叶って付き合うようになったからさ、嬉しくてもう最初の1年は夢中だったさ。電話もメールも欠かさずに、デートだって気合入れて、記念日のための下調べっつたらそりゃあ念入りだったさ。でもさ、」【05:50】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-02 22:00:45
水木ナオ＊
@nytf_fm
「2年目にもなると俺、安心しちゃったんだよね。そんなに必死にならなくても、彼女は俺を好きだからって。そうしたら、その夢中になるのを、自分の時間に向けるようになっちゃって。趣味とか、友達とか、仕事もさ」【05:39】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-03 08:00:50
水木ナオ＊
@nytf_fm
「30超えて責任ある仕事任されるようにもなったし、残業も続いて。電話もメールも、だんだんと向こうからくるようになってった。……最後は月1会えればいいくらいだったな。遠距離恋愛じゃあるまいしなあ」【05:26】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-03 12:01:10
水木ナオ＊
@nytf_fm
「こんなんで付き合ってるの、ってハルミが怒ったんだ。会うための努力をしてないって。彼女だって仕事の忙しさは変わりないのに、頑張って時間を作ってたんだ。だから反論できなくて、いらいらして俺は言っちまったんだ、」【05:14】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-03 17:00:57
水木ナオ＊
@nytf_fm
「ああもうじゃあ結婚すりゃいいんだろ！ って。――最悪だな、はは、今自分で改めて言って最低だわ。……ハルミは、なにそれ、って。もう、1年も前のことだ。それから連絡はしてない」【05:01】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-03 20:00:49
水木ナオ＊
@nytf_fm
「できないしな。どの面下げて、いいんだ元々俺のことは好きでもなんでもなかったろうから。たまたま弱ってた時に近くにいただけで、むしろ4年も無駄に付き合わせて悪かったと思うよ。今頃新しい彼氏もできてるだろうし」【04:45】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-03 22:00:24
水木ナオ＊
@nytf_fm
「だからハルミとかその恋人が今さら俺をどうこうしようと思うとは……」「ええ違います。ハルミさんに今お付き合いしている相手はいません」「へ」ぽかんとした俺がよほど間抜け面をしていたのか、男はふふっと吹きだした。【04:23】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-05 12:01:00
水木ナオ＊
@nytf_fm
「どうしました？」「え、いや……あんたの方から教えてくれるなんてどういう風の吹き回しかと……ああもう時間もないからか？ でも、そっか。じゃあ、ハルミに頼まれたわけでも、ハルミの関係者でもないんだな？」「ええ」【04:02】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-05 17:00:26
水木ナオ＊
@nytf_fm
「そっか……」肩から力が抜けた。首を反らして天井を仰ぐ。はああ、と零れる深い溜息は、ハルミじゃなかったことへの安堵か、それともまた答えを外したことへの絶望か。なんにせよ、「じゃあもう、全部言い尽したなあ……」【03:38】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-05 22:00:34
水木ナオ＊
@nytf_fm
「そうですか。本当にもうないですか？」「ああ、なんにも。空っぽだわ」はは、と力なく笑う俺を、男は静かに、フカダさん、と呼んだ。「あなたのこれまで生きてきた34年間、たった90分で語り尽くせてしまったんですよ」【03:16】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-06 12:01:08
水木ナオ＊
@nytf_fm
「そうだなあ……」言われてみればその通りだ、今さら腹も立たない、これだけ追い詰められて必死に記憶を絞り出しても、思い出せるのはこの程度な人生しか歩んでこなかったってことか。ゆっくりと瞼を閉じる。【02:47】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-07 12:00:54
水木ナオ＊
@nytf_fm
脳裏に次々と、浮かんでは消えていく過去の記憶。冬の部活の帰り道に飲んだ自動販売機のコンポタ美味かったなあ。ノリコが初主演の映画、俺の部屋で二人で、何十回見たっけか。母さんの挽肉カレー、もう一回食いたかったな。【02:04】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-08 08:00:38
水木ナオ＊
@nytf_fm
あれ、これがもしかして走馬灯ってやつか？ へえ、結構色鮮やかに浮かぶもんだなあ。豆電球のようにぽっと灯っては消えていく数々の思い出。その中で一際強い光を放つのは、一年前、最後に見たハルミの――涙を浮かべた顔。【01:35】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-08 12:01:10
水木ナオ＊
@nytf_fm
男が言う。「残りあと1分なので聞いておきます。悔いはないですか？」今聞いてどうすんだよ、あんただって俺と一緒で、残りあと1分だろ？ まあでも、うん。自分勝手だと言われても、「……ハルミを笑顔にしたかったな」【01:02】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-08 15:00:40
水木ナオ＊
@nytf_fm
目を開けると、男はとうとうあの狐のような笑顔を浮かべていた。薄い唇が開き、そして、90分前に聞いたあの台詞を、再び。「それでは改めて、……私は誰でしょう？」【00:39】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-08 18:00:54
水木ナオ＊
@nytf_fm
客で賑わう店内の喧騒が、すっと遠のいた気がした。俺は深呼吸を一回、それから男に負けじと満面の笑みを浮かべて言ってやった。「知らねえよ。俺のこれまでの人生に、お前なんて存在してねえよ」【00:13】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-08 21:01:03
水木ナオ＊
@nytf_fm
俺に思い出してもらえないなら、生きてる意味はないと言ったこの男に対して、最後の悪足掻きだった。男は分かりました、と事も無げに頷くと、「では」と起爆スイッチを押した。【00:00】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO
2013-07-09 00:00:29