異文化理解の心理学

九州大学の2008年後期文系コア科目「異文化理解の心理学」を聴講した際に提出したレポート。
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倉沢 繭樹 @mayuqix

(1)異性のみに魅力を感じること(同性に惹かれることはあり得ない)、(2)異性との愛情や恋愛、性的関係を正当なものとして認める結婚式を教会で挙げること、(3)パートナーとの間に実子をもうけること、(4)その家族と生涯ともに暮らし、(5)老後は孫を持ち、

2013-12-07 19:56:14
倉沢 繭樹 @mayuqix

その面倒を見ることを生き甲斐にすること。将来の孫を想像してみると、そこには幸福かつ健康で「ノーマル」な彼、または彼女のイメージが思い浮かぶはずだ。  社会の中で異性愛者として生活していく上では、この神話は子育ての手引きや精神的な拠り所ともなり、社会的なサポートにもなる。

2013-12-07 19:57:21
倉沢 繭樹 @mayuqix

しかし、セイム・セックス(同性)に惹かれるひとにとっては、幸福なヘテロセクシュアル像という神話は、葛藤の原因であり、重荷にもなっている。  同性愛(ホモセクシュアリティ)は、犯罪や道徳的退廃、精神疾患、現代においてはエイズなどと結びつけられてイメージされてきた。

2013-12-07 20:00:38
倉沢 繭樹 @mayuqix

社会の中の負の要素が、無根拠にスティグマ(烙印)としてラベルされてきた。  「青年たちが同性への欲望を口にすると、家族は激しい拒否反応を見せることが多い。社会全体はゆっくりと変化し、社会に根付いた神話の変化のスピードはそれよりも遅いことが多い。多くの人々にとって、

2013-12-07 20:02:26
倉沢 繭樹 @mayuqix

同性愛は出来の悪いハリウッド映画に登場するモンスターと同じく、想像するだに恐ろしい邪悪な存在なのだ。大勢の人々が同性愛の扱いに戸惑い、息子や娘の感情を隠し、押さえつけようと強い圧力をかけることもある。その結果、若者たちは同性に対する欲望を公言すれば、家族を裏切り、

2013-12-07 20:03:48
倉沢 繭樹 @mayuqix

結婚や姓の継承に重きを置く性文化や性の生活様式の伝統に背くことになると考えるようになる」(ハート、同書)。  こうした社会の側のホモフォビア(同性愛恐怖)は、彼らゲイ・レズビアンに内面化されて、自己嫌悪につながることもある。

2013-12-07 20:05:03
倉沢 繭樹 @mayuqix

この自己嫌悪には、4つの強力な呪術的とも言える信念が存在するという。1つ目は、ホモセクシュアルは狂気で、ヘテロセクシュアルは健康だという認識。2つ目は、同性に向かう欲望に関する問題は自己の中にあり、社会にはないという認識。3つ目は、同性に向かう欲望を持つことは、

2013-12-07 20:05:58
倉沢 繭樹 @mayuqix

それまでのジェンダーを反映した役割を捨て、ジェンダー転換した人間として行動することを意味するという意識。4つ目は、ゲイ・レズビアンになるには、目標や規律、役割、そして実践され、表現されなければならない政治的、社会的信条が必要であるという思い込みである。

2013-12-07 20:06:56
倉沢 繭樹 @mayuqix

 このような、異性愛を正常で健康な規範的存在様式として強制し、同性愛を抑圧するメカニズムの総体を「ヘテロ・システム」と呼んでもよいだろう。このヘテロ・システムにおいて、「新たな自己規定、すなわち自分自身やゲイ・コミュニティとの新たな社会的契約への道を切り開いてくれる儀礼」が

2013-12-07 20:07:58
倉沢 繭樹 @mayuqix

「カミングアウト」である(ハート、同書)。  人類学者ファン・ヘネップは、20世紀初頭、「通過儀礼」という概念を提唱した。人間の一生の中で、それぞれの節目に行われる儀礼のことだ。ある集団から次へと移るときに、前段階からの分離、移行、後段階への合体の儀礼が行われた。

2013-12-07 20:09:03
倉沢 繭樹 @mayuqix

 「異性愛者であると思われながら一方で、同性愛者であることを完全に隠して、秘密を抱えたまま暮らすという『どっちつかず』な状態に置かれ、アイデンティティの危機に直面している人々にとって、カミング・アウトは事実上の通過儀礼となる。ゲイやレズビアンの生活様式、

2013-12-07 20:10:36
倉沢 繭樹 @mayuqix

あるいはゲイやレズビアンの性文化に足を踏み入れて初めて、人々は新しい文化の規律や知識、社会的役割と関係へと社会化されていく。多くの人々にとって、この経験は解放を意味する。それは大いに物議を醸すと同時に、感情の変化を伴う劇的過程であり、人生のあらゆる領域に及ぶ

2013-12-07 20:11:36
倉沢 繭樹 @mayuqix

――血縁家族を持ち、仕事仲間や友人、学友に囲まれ、生涯にわたる性的な恋愛関係を同性のパートナーとの間に築きながら――大人のゲイやレズビアンへと変容するためのプロセスなのである」(ハート、同書)。  カミングアウトは、同性愛者のアイデンティティ形成過程の画期であり、

2013-12-07 20:13:49
倉沢 繭樹 @mayuqix

また既存のヘテロ・システムに対する異議申し立てでもある。私たちの社会のステレオタイプや反同性愛的な法律の中に否定的イメージやスティグマ、社会の著しい悪影響が存在し続けていることから、同性愛者はカミングアウトを課されるとも言える。だから、カミングアウトは非常にリスキーである。

2013-12-07 20:14:51
倉沢 繭樹 @mayuqix

たとえば、アメリカの富豪や著名人には、カミングアウトする者が少ないという。  「市場競争を基本原理とする資本主義社会では、カミング・アウトはそのまま社会的資本の喪失につながりかねない。雇用主や顧客といった立場を問わず、彼らは常に、ホモフォビアによって

2013-12-07 20:16:24
倉沢 繭樹 @mayuqix

市場からはじきだされるのではないかという恐怖を感じている。ゲイのカミング・アウトとは、職や収入を失うリスクに身をさらすことである。雇用主や家族の社会的地位の低下を招き、地域社会で得ていた特権や名声を失う可能性もある。ホモフォビアの根強い社会では、同性愛者は不本意にであるが、

2013-12-07 20:17:14
倉沢 繭樹 @mayuqix

いわゆる重要な他者にさえ、そのような損害をもたらしかねない。社会・経済的ステータスと社会階層上の地位を喪失する可能性は、強固な壁となってカミング・アウトを阻んでいる」(ハート、同書)。  しかし、自分らしく生きたいという願望と、社会の偏見や抑圧との間のアイデンティティを

2013-12-07 20:18:41
倉沢 繭樹 @mayuqix

めぐる葛藤は、異性愛者として「パス」するという秘密主義の段階を経て、カミングアウトへといたる場合もある。  「ゲイやレズビアンはそもそも、異性愛者であるという仮定のもとに成長する。同性への欲望を隠し、それとは逆に振る舞わねばならないという意識や、

2013-12-07 20:20:10
倉沢 繭樹 @mayuqix

ストレートとして行動しようという意識から、そうした欲望を自覚した人々は様々な秘密を抱えることになる。しかし、のちに性的にも社会的にも経験を重ねると、それまでとは異なる意識が芽生え始め、真実を公表したいという感情が生まれる可能性がある。その次に続くのが

2013-12-07 20:21:15
倉沢 繭樹 @mayuqix

カミング・アウトのプロセスであり(中略)それはゲイやレズビアンとしての自己アイデンティティの確立へとつながっている。この秘密を明らかにする儀礼的段階を通して、ゲイ及びレズビアン・コミュニティへの加入を含めた、あらゆる種類の新たな社会化や機会がもたらされるのだ」(ハート、同書)。

2013-12-07 20:22:03
倉沢 繭樹 @mayuqix

 特に、ゲイ・レズビアンの権利主張や差別反対運動といった「アイデンティティの政治学」の領域では、「隠さないこと」を選択するよう求められている。また、ホモフォビアにまつわる非合理で呪術的な社会通念の影響圏から遠ざかり、精神的健康への肯定的な第一歩を踏み出すためにも、

2013-12-07 20:23:01
倉沢 繭樹 @mayuqix

カミングアウトは重要である。実際、アメリカのゲイ・レズビアンの若者の間では、心理的、文化的に「カム・アウトしていること」が、自己を守り情報を得て、仲間同士のネットワークを獲得する能力において決定的な前提となっているという(ハート、同書)。

2013-12-07 20:23:46
倉沢 繭樹 @mayuqix

カミングアウトは、そうした有形無形のソーシャル・サポートにアクセスするうえで、自己呈示となる。  ゲイ・レズビアンの、既存の社会体制・秩序と相容れない側面を突き詰めた地点に「クイア」という概念が浮かび上がる。

2013-12-07 20:24:55
倉沢 繭樹 @mayuqix

 「『クイア(Queer)』は名詞、形容詞、動詞として機能するが、いずれの場合も『正常(ノーマル)であること』、正常化の逆を意味する。クイア理論は単独の、あるいはシステム化した概念的、方法論的な枠組みを持たず、むしろ性、ジェンダー、性的欲望の関係についての

2013-12-07 20:26:09
倉沢 繭樹 @mayuqix

知的な取り組みの集合したものである」(スパーゴ、2004)。  ゲイ・バッシングに対抗するために町のパトロールを組織し、街頭の落書きキャンペーンで同性愛嫌悪の暴力の犠牲者を追悼し、ストレートの連中のたむろするバーで反同性愛嫌悪の学習会を開いたりしていたラディカルな共闘グループ、

2013-12-07 20:27:45