中国の核戦略の変容の可能性について、国際関係論と安全保障論の学徒・fj197099さんがつぶやく

中国の限定的な核戦略(張り子の虎)が本当の抑止力(リアル虎)になったらどうするのだとの懸念。
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fj197099 @fj197099

International Security誌のFall 2010に核抑止関連の論文が二つ載っていて興味深い。一つは米国の核の先制不使用(non first use)宣言に係る論文、もう一つは中国の核戦略に関する論文で、どちらも興味深いのだが、ここでは後者を取り上げてみよう。

2010-10-16 23:58:16
fj197099 @fj197099

→M. Taylor Fravel and Evan S. Medeiros, "China's Search for Assured Retaliation," International Security, 35(2), Fall 2010, 48-87.

2010-10-17 00:01:51
fj197099 @fj197099

問いは単純で、中国の核兵器はごく限定的な数しか存在せず、戦略的にも脆弱なのに、なぜ中国はそれを増強しようとも核抑止に係る作戦ドクトリンを発展させようともしないのか、ということである。従来、それは少ない数の核兵器で攻撃を抑止するという「最小限抑止」の考えで説明されてきたという。

2010-10-17 00:04:15
fj197099 @fj197099

だが著者達はそれを確証報復(assured retaliation)という概念で説明することを試みる。これは核反撃による受け入れ難い反撃を相手に与えることで相手の攻撃を抑止する戦略であるという。これは相手に確実に報復することを旨とする点で最小限抑止とは区別される戦略であるという。

2010-10-17 00:08:15
fj197099 @fj197099

中国の核戦力及び核戦略の継続性について、著者らは指導者達の核兵器についての信条と国内及び組織的な制約の二点を挙げて説明する。中国にとって核兵器とは基本的に大国から外交的な脅迫を受けないようにするためのもので、核戦争を戦う手段としては位置づけられていなかった背景があるというのだ。

2010-10-17 00:11:24
fj197099 @fj197099

また中国では文化大革命などの影響もあって抑止戦略に注目され始めたのも1980年代以降と比較的最近であり、しかも国内で自由に議論できない等の政治制約の影響でこれまで余り明確な核戦略を打ち出すことが行われてこなかったと言うのである。だから中国の核戦力&戦略には継続性があるというのだ。

2010-10-17 00:13:32
fj197099 @fj197099

著者らの議論は基本的には1964年の核実験から今日までの中国の核戦略には継続性がある、すなわち「確証報復」に基づいた比較的小規模の核戦力で抑止が実現可能である(その脆弱性には疑問が残るものの)という中国の姿勢が今後も継続されるとの印象を残す内容である。しかし実際そうだろうか?

2010-10-17 00:16:26
fj197099 @fj197099

確かに中国は現在ICBM, SLBM, 戦略爆撃機の所謂核の「三本柱」を揃えているとはいえない。特に脆弱性の低い第二撃能力であるSLBMの実用化に満足に成功していないことは中国の核戦力を米国等の第一撃に対して極めて脆弱なものとしている。故に中国は核の先制不使用を宣言しているのだ。

2010-10-17 00:18:43
fj197099 @fj197099

中国が如何なる場合であれ先に核を使用しないという姿勢を貫く限り、米国も自ら核の敷居を跨いで中国を核攻撃することは難しい。故に紛争を通常兵器のレベルに止められる可能性が高くなる。中国は現在のところは先制不使用宣言を通じて紛争の核次元へのエスカレーションを回避しようとしているのだ。

2010-10-17 00:20:17
fj197099 @fj197099

しかし…仮に中国が生存性が高く、米国の主要都市を攻撃可能なSLBMを実用化したらどうなるのだろうか?その場合は戦略環境が変わるように思われる。米国はもはや、中国の対兵力核攻撃に対して戦略核攻撃で応じることが難しくなる。そのような反撃は中国のSLBMによる更なる反撃を招くからだ。

2010-10-17 00:22:14
fj197099 @fj197099

つまり中国が信頼性の高いSLBM=第二撃能力を手に入れた時、中国はもはや核の先制不使用にコミットする必要はなくなるのである。仮に中国が米国の空母打撃群に先制(対兵力)核攻撃を加えても米国がこれに戦略核反撃で応じることは困難になるからだ。中国の核戦略が未来永劫不変である保証はない。

2010-10-17 00:25:47
fj197099 @fj197099

下記論文は中国の核戦力や核戦略がこれまで余り大きく変化してこなかった理由を説明する議論としては興味深いが、同様の継続性が今後も維持されるかには議論の余地があるように思う。つまり信頼性の高い第二撃能力の獲得は中国の核の先行不使用という核戦略の変化を導くのでは、と思われるからである。

2010-10-17 00:28:58