- treeofevil
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それは悲しそうに。何処かを見るように、虚ろで、病的に顔色を悪くして。 「……此処をくぐるのが、『梦遊』の僕であれば、きっとこんなに悲しい気持ちにはならなかっただろうに。悲しいことだ」
2013-12-26 17:05:20「遊び…ね。」 此処で言う【遊び】が、何を示すのかはわかっている。 それは、少年にとっても、少女にとっても、最も忌むべきものだ。憎むべきものだ。 少年はその顔を不快そうに歪めた。 警戒するように、その瞳は【赤】を深め。
2013-12-26 17:54:28「…あなた、顔色が悪いわ。…大丈夫?」 少年とは対照的に、酷く悲しそうな色を湛えた少女がそっと手を差し伸べた。 けれど、抱きかかえられている位置からはその腕は届かない。 不自由な己の身体に歯痒さを感じたのか、それとも諦めたのか、少女は小さく息をついた。
2013-12-26 17:54:56「大丈夫、僕はなんともないんだ」 組んだ足をゆっくりと解いて、そのまま立ち上がった。立ち上がってもまだ、髪は地についたまま砂を撫でる。 「優しいね、優しい……『特別(大罪)』の君はとても、優しいね」 赤が警戒を表しているのを悲しげに見て、 「こんな僕に優しくしなくたっていいよ」
2013-12-26 21:31:14自分達の特別とは何かと、問うた【嫉妬】の言葉。 その意図を測りかねて、少女は小さく首を傾げた。 「…【それ】を聞いて、貴方はどうするの?」 相手の考えていることがよく分からない以上、素直に喋るのは得策ではない、少女はそう考えたらしかった。
2013-12-26 21:45:44それは少年も一緒のようで、黙ったまま、ただ少女の問いの答えを促すように、【嫉妬】へと視線を向け続けている。 ……今まで【大罪】として生きてきた彼女たちなりの、警戒心か。 【大罪】はいつだって、彼女たちの【特別】を奪おうとしてきたから。
2013-12-26 21:46:17「どうって、しまっちゃおうかなって思ったんだ、これに」 ぽうっと手元に黒い箱を出す。 「『特別』は『箱』へしまうのが、一番いいんだ。『大罪』は特別でしょう? 特別は『箱』に入ってないと、ね?」 言葉はうつろに。
2013-12-26 22:07:45(その『警戒』は、君たちの命を守る『特別』なもの) 『悲観』が声のない言葉で呟いた。 オリア・レゾンは頷いた。誰でもなく自分に。その意識はとても大事で、『特別』だと納得した。 (『警戒』はしまっちゃおうね)
2013-12-26 22:07:49中にしまわれてしまえば、形あるものは触れられず動かせず、形ないものは認識すらされない、全てから遮断される黒い箱へ。 ……開かない箱が、無音で警戒を飲み込むように影を濃くして。
2013-12-26 22:08:13差し出されたのは、黒い箱だった。 黒い黒い、夜空を詰め込んだような、そんな箱。 その中に、何かが【しまわれていく】感覚。 【何】がしまわれたのかは分からない、けれど、確実に【何か】を失った感覚。 そんなものを感じて、少年は反射的に後ろへと飛びずさった。
2013-12-26 22:57:19「…お前…、今何を盗った…!!」 唸るように、少年は吼える。その口から覗く牙は、人間のそれとは違って鋭く、長い。 ――またか、またなのか。 ――自分達は、また、引き離されるのか。 そんな思いは少年の激昂を深くし、少女を抱く腕には益々力がこもる。
2013-12-26 22:57:44苦しそうに、小さく呻いた少女の身体は、温かい。 この温もりは、二度と離してはいけない。 自分では歩くことも出来ない愛しい片割れ。そのささやかな願い位は、叶えてあげたかった。 「邪魔は、させない」 少年の瞳は、紅く、紅く。 その瞳孔は、まるで獣の様に縦に割れた。
2013-12-26 22:58:15激昂する少年を見つめて、深海が、零れた。 黒くも青くも見える其処からは、ぼろりと水は溢れて。 「盗ってないよ、しまったんだ」 箱を大事に抱え、頬を寄せる。濡れた頬で、寄せた箱を悲しげに。指先に触れるか触れないかを漂う箱がうつろを示すように。
2013-12-26 23:31:59「……ああ、」 赤い、人ではない眸、鋭い牙を覗かせる口。それらを見つめ浮かべるのは恐怖ではなく悲しみ。あの『傲慢』の感情とは違う、曲がりくねって歪みに歪んだ感情。 ……何故、『特別』は外にいるのだろう。『特別』は『箱』の中であってこそなのに。
2013-12-26 23:32:04「僕は、『特別』な君たちが、羨ましくて、羨ましくて、――悲しい」 ふわり靡いた淡い色。黒い服の裾が少し膨らむ。 「さあ、『特別』は箱にしまうおう、それがしまわれ続ける僕が示せる悲哀観」 悲しみにくれて、涙を流す眸が獣のそれを見つめ、 ……その『怒り』は、特別だね。 ただ悲観した。
2013-12-26 23:32:24「返さなければ同じことだ…!」 叫ぶ声に、獣の咆哮が混ざり始める。 今にも目の前の嫉妬に飛びつきそうな様子の少年を、寸での所で、少女が止めた。 「まって」 その鳶色の瞳は、何か考えがあるのか、やはり少年とは対照的に冷静だ。
2013-12-27 00:09:08「…ターシャ…っ、でも…!」 「お願い、待って」 強い口調で再びそう言えば、少年は押し黙り、沈黙した。 その様子に、有難う、と少女は微笑むと、何とか体制を変えて少年の手からすり抜けた。 地についた少女の身体。何とか座る体制にはなっているが、筋肉の衰えた体ではそれすらも不安定だ。
2013-12-27 00:09:36ひどく不恰好ではあるが、少女は微塵も気にした様子を見せない。 真っ直ぐな眼差しで、嫉妬の悲しみに満ちた目を見据えていた。 「…それがあなたの【罪科】?すてきな宝箱ね」 紡がれた言葉は、皮肉か、それとも本心か。それは彼女にしかわからない。 ただ、その微笑みは穏やかなものであった。
2013-12-27 00:09:55「特別なものは、確かにしまっておくものだわ。なくさない様に。…私も、時間っていう【箱】の中に、特別なもの、しまってるの」 静かに目を伏せ、問う。 「…でもね、しまうのは、自分にとって大切なものの筈よ。誰かの特別じゃないわ。ねぇ、あなたには、あなたにとっての、特別なもの、ないの?」
2013-12-27 00:11:15少年に向けた少女の制止を、深海は眸の端をじんわりと赤く染めて見つめ、箱を抱きしめる。不安定なその姿に、何を思うこともできず。 「……宝箱? 綺麗な響きだ」 初めて言われたよと涙を零す。浮かべた悲哀の表情が和らぐことなく。 「最悪な舞台でそんな綺麗な言葉を聞かされるなんて」
2013-12-27 13:21:57「誰かのとか、自分のとかは関係ない。『特別』は『箱』へ」 『特別』と思うことに他人の言葉は無用だと切り捨てて。 悲しみの感情以外を読み取らせることのない表情と声音。自分の感情と言葉の悲観を感じ、同時に、相手の感情と言葉を理解するのを心は放棄していく。
2013-12-27 13:22:01(あの子は箱の中で聖者に)(あの子は箱の外で紅に) (羨ましい)(けど)(そうであってこそ)( ) あの箱の中で。かみさまの箱の中で息絶えて。『可能性』の芽は二つとも、もう何処にもない。在るのは、受け入れて、残った、かみさまの残骸。
2013-12-27 13:22:55「僕の『特別』はしまわれて、終えたんだ」 ぽつり零して、箱を小さく小さく丸め――消した。 それはもう何処にもない。何処にあるのかも、わからない。 「でも、それは悪いことじゃあない。だって、今までだってそうやって終えてきたのだもの。『特別』は『箱』の中で終える。――僕のように」
2013-12-27 13:23:12「…あなたの【箱】は、私達の【箱】とは少し違うのね」 目を伏せたままの少女は、ただただ穏やかに、【嫉妬】の言葉に耳を傾ける。 黒い箱が消えていくのと同時、少女と少年が感じたのは、【しまわれてしまった何か】が消えていく感覚。
2013-12-27 17:39:03