角川twitter小説投稿作品「すてきなみらいのおはなし」第一話「マルシェ」

日向日影🍊📖@文化系物書きVtuber（HUB） @hyuugahikage

また、セックスでの妊娠が不可能になったので、意図せぬ妊娠により人生を大きく軌道修正せざるを得なくなることもなくなった。個人が、家族が、自分の身体や人生設計を自分の意思で選ぶための大きな一助になっている。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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さて、夫妻は会場をひとしきり回り、どの赤ん坊を自分の子どもとしようか考えていた。是正措置があるので、まずは遺伝情報のことを考えずに、直感で「この子かわいい」と思う子どもを捜してみた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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そのあと夫妻は会場のベンチが空いたのを見計らって腰掛ける。遺伝情報の掲示についている二次元バーコードをタブレットのレンズに写すと子どもの情報がダウンロードされるのでそれを見ながら子どもを決めることにした。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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タブレットの画面をスライドさせると、さっき見て気に入った子どもたちの顔が次々と出てくる。知性が高いが遺伝性疾患の因子が多い医療負担率２割の男の子、運動能力が高く健康な体だから保険率は４割の両性具有の子、 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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共感能力が高いが、右手と耳に障碍があるため自己負担ゼロで親子とも恒久的な税の減免がある男の子…どれもこれもかわいい子どもであったが、法律により子どもは２年に１度、１人しかもらうことができない。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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悩んだ結果、遺伝資質としては全体的に悪くないが、遺伝性疾患の因子が多いため医い医療の自己負担率が３割になっている女の子を第一子とすることにした。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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いくら是正措置や児童福祉サービスがあっても障碍のある子どもを最初の子どもに授かるには不安がある。また、夫妻とも医療負担率が４割なので、それが意外と大変であるということも身をもって知っていた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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それに、経済的にも多少余裕があるので給付金や税の減免もそこまで求めてはいなかった。たとえば、生活に苦しい世帯では障碍のある赤ん坊を、そこで得られる恒常的な給付金を目的に子どもにもらうこともままあるという。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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妻が近くに寄った係員に声をかけ、三人で女の子のもとに行く。係員が端末を差し出すと、妻、夫の順に掌の静脈と虹彩をかざして個人認証をする。係員が親子関係の法律を読み上げるのを適当に聞き、また掌と目で承認をした。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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係員が端末をなにやらいじくり、ベビーベッドにかざすと被されていた透明でドーム状のカバーがすっと開く。自然に女の子に寄ろうとする夫妻を制しながら係員は無表情のまま赤ん坊の目と掌に端末をかざす。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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係員はまた端末をいじると、表情を変えないまま夫妻の方を向く。一瞬夫妻はたじろぐ。 「これであなたたちは親子となりました。保護者の義務を守り育児をしてください。なにかあれば該当する部署に連絡してください」 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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係員はまったく表情も変えずに、 「もう、触れていいですよ。あ、少しここで待っていてください。」 そう言うと係員は速足気味にどこかへ行った。それを見送ることもなく妻は子どもを慣れない手つきで抱き寄せた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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友人の両性具有の子どもを抱っこしたことはあったが、初めて抱きしめた「自分の」子どもは不思議と暖かく、何かが通じたような感じがして、妻はああ、この子を選んでよかったのだなと改めて実感していた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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夫は妻のその姿を見ながら、赤ん坊を抱きしめる練習をして家族局からの許可をもらっていなかったことを後悔していた。そうしているとさっきの無表情な係員がベビーカーを持ってやってきた。お礼を言うと係員は浅い笑顔を見せる。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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娘をベビーカーに載せ、家族三人で歩き出す。さきほどの車イスの女性は目が見えない赤ん坊の前でどうしようか悩んでいる。生活が厳しいのだろうか。彼女も給付金をもらっているはずだが、それだけでは難しいのかもしれない。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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会場の出口に行き、夫、妻、そして妻が抱えた娘の順に掌と目をレンズにあてて認証をする。 「初めてだといいお子さんに出会えない方も多いんですけど、出会えてよかったですね」 係員の言葉に、家族揃って笑顔を見せる。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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先ほどの集団育児の５人組もベビーカーを連れて出てきた。若いのに大丈夫かな？と思うが、みんなで話し合いながらなんとかやっていってほしいものだ、と妻は考えてながら娘をベビーカーに載せなおし、車へと向かった。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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夫はベビーカーの座席部分を外すと、それをそのまま車の後部左側の座席に装着した。本人認証で車を所有していることがわかっているから、ベビーシートと兼用できるものを用意してくれたのだ。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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夫が後部座席の右側へ座るのを確認しながら、妻はまたナビにしようとタブレットを取り出すと、ファイルがダウンロードされていた。何だろうと開いてみると、この子専用にコンピューターが自動生成した育児マニュアルであった。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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読み流してみると、おむつや食事に始まり、行動から心を読む方法とその対応、資質に合った買うべきおもちゃから好む色まで、あらゆることの基本的な方針、そして『詳細』を選べばかなり深い内容まで読めるようになっていた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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そのとき、娘がぐずりだして、夫があたふたしているので早速マニュアルを検索すると、この子は変な顔をすると泣き止みやすいということだった。 夫に伝えると、ちょっと悩んだ挙句苦笑いしながら鼻を指に突っ込む。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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勢いよく突っ込みすぎたらしく少し痛そうにする夫に「なにそれ」と妻が思わず吹き出すと、娘の表情が一瞬停止を押したかのように止まり、そのあと満面の笑みを見せた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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それを見て夫が指を抜こうとするとまた目を潤ませるので、しばらく指を突っ込んだままにしてもらうことにして、車を発進させることにした。ルームミラー越しに少し痛そうに鼻に指を突っ込む夫と笑う娘を見て、妻も笑った。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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娘の分重くなっているから、鈍くなっていてもおかしくない燃料電池車の加速はいつもより心地よく感じられた。会場を出ると、来る時は逆向きだから見えなかった巨大な電波塔に沈みゆく夕日がかかっているのが見えた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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私たちの個人認証や情報の送受信を一手に担ってくれる電波塔にかかる夕日は暖かさとやわらかさを兼ね備えていて、まるで太陽が私たちの選択、そしてこの世界に「それでいいんだよ」と言ってくれているかのようであった。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説