角川twitter小説投稿作品「すてきなみらいのおはなし」第一話「マルシェ」

日向日影🍊📖@文化系物書きVtuber（HUB） @hyuugahikage

第１話『マルシェ』 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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「ねえ、私たちも、そろそろじゃない？」 タブレットに映る預金残高を見ながら、妻は夫に話しかける。夫も「そうだな」と同意する。子どもは欲しかったし、新しい役職にも慣れ、生活にも心にも余裕が出てきていた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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「ちょうど今日はいい日だし。」 妻のその声で夫は気づき、笑顔を見せ、腕時計を外し、服を脱いでベッドに入る。すでに寝巻き姿の妻も同じベッドに入り、何度かキスを交わすと子どものいる生活を語らいながら眠りについた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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翌朝、二人は早くから最近買ったばかりの燃料電池車に乗って出発した。住宅街を出て広い幹線道路に出ると妻は車を加速させる。燃料電池車は加速と減速が気持ちいいと妻は嬉しげだ。夫はタブレットでニュースを見ている。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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20分ほど経ち、３回ほど右左折をしたところで、駐車場に車を停める。着いたのは街のはずれにある大きなホールだ。ナビ代わりに車の速度メーターの脇に置いていたタブレットをケースに入れて妻が持ち、入り口の行列に並んだ。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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翌朝、二人は早くから最近買ったばかりの燃料電池車に乗って出発した。住宅街を出て広い幹線道路に出ると妻は車を加速させる。燃料電池車は加速と減速が気持ちいいと妻は嬉しげだ。夫は自分のタブレットでニュースを見ている。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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ホールの入り口では職員が並んでいて、彼らの前には、小さな機械が折り畳みの長机の上に乗っていた。夫妻はその機械の前に立つと掌と目を機械に向ける。掌の静脈と虹彩での二段認証により、瞬時に彼らが参加者として登録された。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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チャラーン。 夫妻のタブレットが同時に通知音を鳴らす。初めて二人でデートした公園の鐘の音を聞きながら画面に触れると会場案内がダウンロードされていて、手洗いのあとそれを読みながらエアシャワーを浴びて会場へ入った。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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ホールの中は賑やかであった。所狭しとベッドが並んでいて、老若男女のがやがやとした声が響いていた。夫が小走りになったのを慌てて妻が追い、同時に入口から一番近いベッドの前に着くと、 そこに眠る赤ん坊に目をやった。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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妻も夫も、子どもの提供会場へ来るのは初めてであった。妻には弟がいるが、会場へは一緒に行かなかった。二人ともベビーベッドですやすや眠る赤ん坊を見ながら、「自分にもこういう日があったのか」と不思議な感慨を抱いていた。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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ベビーベッドには赤ん坊の情報が掲示されている。会場案内で読み方を確認する。とはいえ彼らも身分証明アプリで何度も見た自分の遺伝情報と同じようなものであったので、スラスラと読むことが出来た。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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個人による生殖が禁止され、子どもが国によって作られるようになってから、もう百年以上経つ。三ヶ月前に「個人によって出産された最後の女性死去」というニュースが出た時は大きな話題となった。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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　再生医療の発達により、人工的に精子と卵子を作り、受精させることができるようになった。これを子宮と同じ機能を持つカプセルで育て、希望する人が親となるのだ。 　この制度によって、人類には大きな恩恵があった。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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夫妻が顔を上げると、向かいに男性が二人、幸せそうにどの赤ん坊を自分たちの子どもにするか考えている。生殖能力が問われなくなったため同性カップルも当然子どもを異性カップルと全く同じ条件で持つことが出来るし、 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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その隣には、電動車いすの50歳位に見える女性が一人で赤ん坊に微笑みながら話しかけている。その笑顔に妻は自分の母を思い出していた。一人であろうと障碍があろうと高齢であろうと自分の意思で子どもを持つことができるのだ。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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もちろん子どもを持たないことを選ぶこともできるし、遠くではしゃいでいる五人組のように集団で育児をすることを選んでもいい。生殖を人間から切り離すことで家族のありかたや生き方の自由を得ることができたのだ。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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だからこの会場には多様な人が集っている。子どもを授かりたいわけだから生活に余裕がありそうな人が目立つが、性別、年齢、人数、障碍の有無を超えてそれぞれわいわいと子どもを見ては話す姿はまるで駅前の市場のようであった。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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もう一つの大事な恩恵は、赤ん坊の遺伝情報を完全に分析することによって将来の資質やリスクを予測して育児ができること、また遺伝情報に基づいた格差是正措置を行うことで子どもたちにある程度平等な未来を保障できることだ。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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人の多さと、照明の熱に顔に薄く吹き出てきた汗をぬぐいながら、夫妻は顔を寄せて子どもの遺伝情報に目をこらしている。この子どもは背が大きく運動神経のよい子どもになる確率が遺伝的に高いらしい。遺伝性の病気因子も少ない。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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「やっぱり４割で、どっちもなしか、それはそうだよな」 ４割は医療の自己負担率で、「どっちも」というのは育児給付金と税の減免である。この子のように遺伝的に恵まれている場合には医療の自己負担は最大の４割となり、 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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育児給付金や国税の減免も受けられない。もし、遺伝性の病気因子が多かったり、免疫が強くない子どもであれば医療の自己負担率は下がるし、遺伝的な資質に恵まれなかったり障碍がある場合には給付金や税の減免が受けられるのだ。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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夫妻は隣の赤ん坊の遺伝情報に目をやる。見た目はさっきの遺伝的に恵まれた子と変わらないが、多くの遺伝性疾患と弱視の因子があるということと、筋肉がつきづらく太りやすいことから「２割、一時給付金あり」と書かれている。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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おそらく向かいの右手の一部が欠損した赤ん坊、あるいは知的障碍の可能性がある子は医療負担率が０か１割で、恒久的な給付金、税の一部、または全額減免が受けられるのだろう。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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遺伝的な格差を統計的に分析して金銭に変換し、格差是正を図っているのだ。 これは生殖と遺伝情報を国が完全に管理し、それを万人の平等のため有効に利用しているからこそ可能になったことであった。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説

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もう一つの恩恵として、人間から生殖機能を取り除くことが可能になったということである。医療技術の革新もあり、生殖機能の除去はあらゆる新生児に対して安全に行われる。まず女性は月経の苦しみから開放された。 http://t.co/AMQbR483UR #角川小説