走れひかりん

李乎飛から始まる壮大なストーリー。 メロス:飛華梨 その妹:妹 セリヌンティウス:海那 老翁:シルバー 続きを読む
3
ヒカリさん @vvHiKaRivv

飛華梨は口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。 竹馬の友、海那は、深夜、woda城に召された。暴君wodaの面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。飛華梨は、友に一切の事情を語った。海那は無言で首肯き、飛華梨をひしと抱きしめた。

2014-01-12 21:02:12
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

友と友の間は、それでよかった。海那は、縄打たれた。飛華梨は、すぐに出発した。初夏、満天の星である。 飛華梨はその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。

2014-02-27 20:57:28
ヒカリさん @vvHiKaRivv

飛華梨の十五の妹も、きょうは姉の代りに卵孵化の番をしていた。よろめいて歩いて来る姉の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく姉に質問を浴びせた。

2014-02-27 20:59:25
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

「なんでも無い。」飛華梨は無理に笑おうと努めた。「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの入試を行う。早いほうがよかろう。」 妹の顔は青ざめた。

2014-02-27 21:03:06
ヒカリさん @vvHiKaRivv

「悲しいか。過去の問題集も買って来た。さあ、これから行って、他の受験者へ知らせて来い。入試は、あすだと。」 飛華梨は、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って勉強机を置き、入試の準備を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

2014-02-27 21:07:44
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

眼が覚めたのは夜だった。飛華梨は起きてすぐ、試験官を訪れた。そうして、少し事情があるから、入試を明日にしてくれ、と頼んだ。試験官は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、花粉の季節まで待ってくれ、と答えた。

2014-02-27 21:11:09
ヒカリさん @vvHiKaRivv

飛華梨は、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。試験官も頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか試験官をなだめ、すかして、説き伏せた。

2014-02-27 21:13:32
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

入試は、真昼に行われた。受験生達の、数学の試験が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。

2014-02-27 21:15:46
ヒカリさん @vvHiKaRivv

入試を受けていた受験生たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い試験会場で、きんと冷える寒さを怺え、必死に問を解き、時間と戦った。

2014-02-27 21:19:30
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

飛華梨も、寒さに震え、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。 入試は、夜に入っていよいよ面接になり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。 メロスは、一生このまま見守りたい、と思った。この受験生の合格を願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。

2014-02-27 21:23:15
ヒカリさん @vvHiKaRivv

ままならぬ事である。飛華梨は、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。

2014-02-27 21:25:00
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

少しでも永くこの会場に愚図愚図とどまっていたかった。飛華梨ほどの女にも、やはり未練の情というものは在る。今宵呆然、受験で疲れている妹に近寄り、 「お疲れ。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市に出かける。

2014-02-27 21:27:16
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには学校があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの姉の、一番嫌いなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。友達との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。

2014-02-27 21:28:15
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの姉は、たぶん廃人なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」

2014-02-27 21:28:19
ヒカリさん @vvHiKaRivv

妹は、夢見心地で首肯いた。飛華梨は、それから妹の肩をたたいて、 「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹とポケモンだけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、飛華梨の母校に入学できる事を誇ってくれ。」

2014-02-27 21:32:40
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

試験官は拍手して、喜んでいた。飛華梨は笑って合格者達にも会釈して、発表会場から立ち去り、育て屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。 眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。

2014-02-27 21:35:48
ヒカリさん @vvHiKaRivv

飛華梨は跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。

2014-02-27 21:47:55
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

そうして笑って磔の台に上ってやる。飛華梨は、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、飛華梨は、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、ブレイブバードの如く走り出た。

2014-02-27 21:49:29
ヒカリさん @vvHiKaRivv

私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。王の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。

2014-02-27 21:51:57
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

若い飛華梨は、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止やみ、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。

2014-02-27 21:54:29
ヒカリさん @vvHiKaRivv

飛華梨は額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹は、きっと素晴らしい高校生になるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。

2014-02-27 21:56:19
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、飛華梨の足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。

2014-02-27 21:58:59
ヒカリさん @vvHiKaRivv

きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼女は茫然と、立ちすくんだ。

2014-02-27 22:02:14
海那はヴァリスゼアから帰った @kaina_n_718

あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚れて影なく、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、オホーツク海のようになっている。は川岸にうずくまり、飛華梨は女泣きに泣きながらてんてーに手を挙げて哀願した。

2014-02-27 22:06:26
ヒカリさん @vvHiKaRivv

「ああ、鎮しずめたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」  濁流は、飛華梨の叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。

2014-02-27 22:08:45