ほしおさなえさんの140字小説21

ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説21 その210~その219です。番外編として、140字小説家としての所以(?)など。 (まとめ21)http://togetter.com/li/620667→いまここ (まとめ22)http://togetter.com/li/620692 続きを読む
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ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その210。

2013-11-14 17:39:38
ほしおさなえ @hoshio_s

文字はひとつだけであるときがいちばん美しいと思うの。窓というレースのような字をたどりつつその人は言った。指は細く、文字より美しいと僕は思う。文字はうつろわないでしょう、思いそのものの形だから。呟き、息を吐く。窓という字の隙間に草原が透ける。若いころのその人が陽を浴びて笑っている。

2013-11-14 17:40:15
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その211。

2013-11-15 18:24:06
ほしおさなえ @hoshio_s

むかしあの窓辺に深緑のソファがあった。ひとりのころ買ったひとりがけのソファ。結婚しても、昼間はひとりでソファにもたれた。寒い日はジャム入りの紅茶をいれ、本を読んだ。やがて子どもが生まれ、ソファはなくなった。子どもも育っていなくなり、窓辺にぽかんとソファの形の孤独が陽を浴びている。

2013-11-15 18:24:41
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その212。

2013-11-19 15:36:51
ほしおさなえ @hoshio_s

僕たちはむかし眠る前に同じ本を読み、朝は狭いテーブルでハムエッグを食べた。身体も心も同じ素材でできてた。それがどんなに幸せなことか気づかないまま、長い夏休みみたいな時を過ごした。身体の細胞がすべて入れ替わっても、心にはあのときの欠片が残っている。井戸の底の水のように、光っている。

2013-11-19 15:38:03
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その213。

2013-11-22 18:41:16
ほしおさなえ @hoshio_s

夕方、足もとから影がのびている。こんにちは、影法師。今日はずいぶん長いねえ。影に向かって呟く。影がふわっと立ち上がり、となりにやってくる。夕日を浴びて、影の手のひらは意外に暖かく、脈打っている。生まれたときからいっしょだった。ずっと。冷たい空気のなか、長く伸びた双子と歩いていく。

2013-11-22 18:41:57
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その214。

2013-11-24 15:04:18
ほしおさなえ @hoshio_s

その人は半島の小さな灯台に住んでいた。毎晩海を照らし、空が白むと眠った。週に一度町に行き、パンと野菜を買う。遠くに住む会ったこともない友への手紙を出す。船に乗ってほかの国に行くことを夢見る。帰ってきてシチューを煮る。日が落ち星が光り出す。灯りをつける。星のように黙って海を照らす。

2013-11-24 15:05:26
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その215。

2013-11-27 10:56:22
ほしおさなえ @hoshio_s

空が青い。物干し竿を高く掲げ、洗濯物を干す。シャツがぱたぱた風に揺れて、遠くにいるだれかと通信している気持ちになる。元気ですか。そっちは晴れてますか。ごおおっと木が揺れる音がする。会いたくなる。無性にだれかに会いたくなる。おーい。わたしはここにいるよ。風に乗る。世界が光っている。

2013-11-27 10:56:48
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その216。

2013-11-28 17:25:23
ほしおさなえ @hoshio_s

夜になったら空に行く。そこには人やらゾウやらキリンやら、眠っているものの心が漂っている。なにしろぎっしりいるが、相手がなければひとりぼっちにかわりない。いつもはぼんやり明け方になるのを待つ。でも今晩は話しかけてみようと思うのだ。同じようにひとりきりの、ゾウかキリンか人かなにかに。

2013-11-28 17:26:17
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その217。

2013-11-29 19:01:03
ほしおさなえ @hoshio_s

坂をのぼりきる前、空が広がるときのこの感じはなんだろう。黄色く輝く銀杏の葉も、葉の隙間に見える空も美しい。なにかを失ったり悲しいことが起こったり、生きるってそんなことばかり。みな消えてゆく泡なのに。世界を愛するのは絶望と同義かもしれないのに。それでも胸が躍って、あふれそうになる。

2013-11-29 19:02:23
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その218。

2013-12-03 20:28:29
ほしおさなえ @hoshio_s

宿題をして、ごはんを食べて、お風呂にはいって、眠る。子どもとの日々。あきれるほど同じことを繰り返す、それだけの日々。この日々はどれくらい続くのだろう。お風呂で歌う。星を数える。平凡なこの日々は、あとどれくらいあるのだろう。星の光のように、この日々が遠くに届くことはあるのだろうか。

2013-12-03 20:30:16
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その219。

2013-12-04 08:56:31
ほしおさなえ @hoshio_s

小さいころから絵空事が好きで、大切な人たちといても半分くらい心は絵空事のなかで遊んでて、いつもごめんねって思ってた。でも心なんてそもそも絵空事で、心に映った世界も結局絵空事で、みんな絵空事のなかで生きてるんだし、と思ったり。羽衣みたいな雲がのびて、悲しみってあんな形かなと思った。

2013-12-04 08:58:20

番外編

ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説書き続けてきたわけですが、そういえばむかし月刊カドカワとか自分のホームページに書いていた短い詩(あとで『くらげそっくり』という本になったりしたのですが)もこれくらいの長さだったと思い出し、むかしのサイトを見てみたら、どれもほんとに似たような長さで、たとえば

2013-11-26 20:21:44
ほしおさなえ @hoshio_s

象が一列になって、螺旋階段をのぼっている。大きいから一列になるしかないんだ、と思う。象の足型に、階段がぼこぼこ凹んでいる。どこへ行くんだろう。あんなにたくさんのぼって、屋上からあふれてしまうのではないか。心配になって見上げると、一頭ずつ雲になって、空に一列に飛んでいってしまった。

2013-11-26 20:22:07
ほしおさなえ @hoshio_s

とか、ぴったり140字だったりして、驚愕した。90年代に書いたものなんですけど!!もとは行分けになってるんだけど、自分、全然進歩してないのでは!! http://t.co/KH3jFjXSYx

2013-11-26 20:24:56
ほしおさなえ @hoshio_s

最近「500編を超えたらプロフィールを『140字小説家』に変えます」と冗談で話したりしてたんですけれども、というわけで、デビュー当時から本質的に変わってない確信も得られましたし、250編になったらプロフィールを「140字小説家(自称)」に変えようかと思います。

2013-11-26 20:29:30