偽ベートーベンとゴーストライター問題について、伊東乾さんの解説

とてもわかりやすい、伊東乾さんの連投ツイート。 随時更新予定ですが、ひとまず完成かも。
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Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

Ph.D Prof. Komponist-Dirigent / Raummusik Kollegium Berlin. Habe viele Interesse an der Wissenschaft und am Mitleben dadurch.

伊東乾さんプロフィール
http://jbpress.ismedia.jp/search/author/伊東 乾

Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

連載にも記しましたが、きちんと譜面を書いて「作曲」する人間には、オリジナルな作品と別に、トレーニングとして書く譜面や教材として書く音符があります。作品以外のそうしたものを著作物とは普通ぼくらは考えていません。例えば生徒のためにレッスン室でちょっと書くものなど、そのままでおしまい

2014-02-08 04:43:47
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

僕自身の実例でいえば1997年から99年までテレビ番組「新題名のない音楽会」の監督を務めていましたが、その間いくつオーケストレーションをしたか覚えていません。100曲単位になると思いますが一つとして編曲著作権登録とかしたことないですよ。あんなものはオンエアがすぎればおしまいの楽譜

2014-02-08 04:45:18

ここで、「著作権法」の関連条文を(ごく一部ですが)。

''著作権法

(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
二  著作者 著作物を創作する者をいう。
【以下 略】

(編集著作物)
第十二条  編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。''

「著作権法」全文はこちらでどうぞ。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html

Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

たぶんこういうのが、クラシックで育った私たちを商売下手にしているのだと思いますが、僕個人は15のとき初めて伺った野田先生のレッスンで「エクリチュールの切り売り」を大変強くさげすむ言葉を伺ったのが原体験になっていて、あらゆる場所で無数の譜面を書きますが、一切権利など考えません

2014-02-08 04:47:40

「エクリチュール」・・・、門外漢には聞きなれない言葉が出てきたので、ぐぐってみました

(仏)【écriture】

書かれたもの、または書くこと。英語のWritingに相当する。

≪哲学≫「話し言葉(パロール)」と対比させた「書き言葉」のこと。間接的・非主体的に表現される「書き言葉」は、書かれた意味が同定的に解釈されないというもの。

≪音楽≫作曲に用いられる記述技法のこと。

Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

あらゆるリハーサルやレッスンで、僕は毎回けっこうな数の楽譜を書くし、そのままプレーヤーや生徒にあげちゃうけれど、もし誰かがそういうものをひそかに自分の著作物としてJASRACに届け出て営利とかしてたら、嫌な気分になるでしょう。新垣君が今回遭遇した事態のきっかけは似たものと思います

2014-02-08 04:49:33
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

つまり、楽譜が書けず、シンセサイザの打ち込みで仕事してる、お金はあるけどアマチュアの人から依頼されて、彼の書いた主題や動機で楽譜をまとめてあげるわけですよね。こんなもの、自分の名前つけませんよ。どうぞどうぞと善意であげちゃう。というか自分の名を惜しみますから僕らは。熨しつけて贈呈

2014-02-08 04:51:04
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

ゲームとか、コンピュータベースの仕事で、エフェクトを狙った古典的なスタイルでの楽譜の作成ということで依頼されれば、多くの良心的な音楽家、これは作曲学科OBOG大半が器用さの範囲でできることですが、それなりの譜面を書き上げて納品して、特段権利も確定しないで買取で終わりはある事です。

2014-02-08 04:53:06
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

僕自身、火がついて、できる範囲で新垣君を守る声をあげなければと思うのは、似て非な酷いことが本当に業界には多いし、僕自身も理不尽で不快な目に山ほどあったし、何より新垣君という将来を嘱望される芸術音楽家がこんなことで、しかも誤った社会の印象で損ねられるのは耐え難いことであるからで、

2014-02-08 04:56:45
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

音楽を知らない法律家や一般の方が「どう使うか分かっていて楽曲を提供したのだから共同共謀正犯」という誤った論旨が、一番困ると思ってみています。絵で考えましょうか。本来の作風は抽象画のアーチストが石膏デッサンとかすごく上手いというのはよくあること。今回の譜面は石膏デッサン程度のもの

2014-02-08 04:58:41
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

新垣君は自分の名前で出す作品とは全く別の次元で「石膏デッサン」の大掛かりなものみたいなレベルで調性の譜面を賃仕事で納品したわけですよね最初は善意で。美術でも芸大OBはデッサン力があるからゲームその他で背景とかに使いまわされて多くは買取、権利料ゼロは普通の事。よく似た構図があります

2014-02-08 05:00:52
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

20年位前怒り心頭の記憶があります。ふざけた電通の営業がまじめなヴァイオリニストを捕まえて「君どこ出身?」「芸大です」「芸大のどこ?」「音楽学部ヴァイオリン専攻です」「そうなんだ。俺慶応の軽音部」というやり取りでカチンときまして、しばらくその営業にモノを言った記憶があります。

2014-02-08 05:03:07
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

この電通営業のように、つまり子供の頃から積み上げて来たプロの音楽家より、一般大学の趣味サークル出身者で社会的に力や金がある素人が上位に立って、プロフェッショナルの音楽作りがゆがめられてゆく構図があります。視聴率その他が正当化の根拠で、僕はここで矢面に立ってサンドバックでしたので、

2014-02-08 05:04:55
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

自分自身も含め一つ一つの楽案を考え構成し実施、器楽法の細部まで仕上げてゆく手作業に心を砕く人間を「お針子ふぜい」と軽んじたり、それなしには成立しない音楽を商品としてまわし、利権を抜いてゆくような手合いには心底怒りを禁じえず、思わず腰を上げぬ訳には行きません。分かって貰えますか?

2014-02-08 05:07:48
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

新垣君自身が記事や会見ではっきり言っている通り彼はこうした譜面を書くことを「自分の仕事の本流」とは思っておらず、いまある楽譜も著作権など一切放棄する、自分の作品とカウントされなくてよいと言っている。金なんかいらないんです芸術として自分の名を冠するものではなく「デッサン」程度だから

2014-02-08 05:11:46
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

これたぶん多くの人が判んないと思うんですね特に新聞記者とか評論家とか(桐朋の今の学長さんも新聞記者なので心配しています)ライターとか裁判官とか。書いたものはみんな自分の権利、著作物と抱え込むのが当然と思う人には。柿右衛門は意に満たない焼き物は釜から出した瞬間に割る。それが品質管理

2014-02-08 05:13:28
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

例えば今回の中で比較的大規模な譜面は、ゲームか映画か分かりませんが、何かイベント目的があって効果が上がるようにチャートで発注されて「苦難から歓喜へ」みたいな使い古された商用シナリオに従って書いた筈で、たぶん長三和音で終止とか、作品だったら「安易!」とプロ皆が言うような構成と思われ

2014-02-08 05:16:10
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

印象批評でレコード評を書くジャーナリスト、大学教授さんなど消費者がマーケットを支えてCD業界とか回ってた訳ですが既にCDの時代は実質終わったし、こういう品質破壊の文字がお金とともに膨張、回転していた時代を腐敗、堕落と改めて見直す必要があると思う。石膏デッサンの方が金になるのだから

2014-02-08 05:18:40
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

リスナーの皆さんにも考えて貰いたい。絵で言えば多くの人は「こんなに写実的」「うまい。そっくり!」見たいな技術、芸当の部類で反応してくれ、お金も発生するけれど、美大芸大類で4年間とか頑張って考える「その先」に大半の消費者は無関心。これを空洞化とか腐敗とか堕落と僕は言ってるわけで、

2014-02-08 05:20:16
Ken ITO 伊東 乾 @itokenstein

画家は自分固有の作品で評価を受けたい。石膏デッサンがいくら上手くても、そんなもの評価して貰うのはむしろ心外、小手先の技術に過ぎませんからと謙遜する人は多い。芸術人はこういう反応になる。なぜって誰がやっても同じだから。自分の仕事ではないから。これ下手すると裁判官とか分からないと思う

2014-02-08 05:23:04

「エクリチュール」に関する説明は、こちらにも出てきます。
「偽ベートーベン事件の論評は間違いだらけ
あまりに気の毒な当代一流の音楽家・新垣隆氏」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39905