無名大戦；第一戦闘フェイズ　第七の狭間ログ

強欲グリード @noname_greed

気付かないまま俯いていた顔を上げる。《勇気》の目を見る。 「……何で『名前』なんだ？」 わからない。 「俺は強欲だからグリードだって皆に呼ばれてる。俺は強欲だから『大罪』に数えられてる。新しいのは欲しい、でもグリードって呼ばれないなら、そう呼ばれる俺はいなくなる」 わからない。

勇気fortitude @fortitude_nonam

何故かと問われればまた微笑んで。《慈愛》かと紛うくらいの、やさしさを湛えて。 「それが、あなたを『生かす』ために必要なものだからね、キティ。」 俺の《勇気》は生きる勇気、そして、生かす勇気。 「大丈夫。『グリード』もあなたの名前だよ。だから今までどおり、そう呼ばれてもいいんだ。」

強欲グリード @noname_greed

——よく、わからない。わからないけれど新しいそれで呼ばれるのは『嫌』な感じはしなかった。ちゃんと考えればわかるだろうか。だからそのまま頷き返す。 「なくならないなら、いい」 『キティ』。なんとなく後ろ首の方がくすぐったいような。ちょっと下の方。思いながら《勇気》の次の言葉を待つ。

勇気fortitude @fortitude_nonam

「俺たちはこれから、それぞれの在るべき場所に帰るために、戦わないといけない。殺し合わないといけない。そうしないと帰れないからね。」 だから、生き、生かすことが本質である俺は、大罪を殺す覚悟をしてここへ来た。 「だから俺は、これからあなたを殺そうとするよ。」 宣言。剣は立てたまま。

勇気fortitude @fortitude_nonam

「『生かす』ことと『殺す』ことは、《不屈》において、矛盾しない。」

強欲グリード @noname_greed

不屈か。剣の鋭さに目を落とす。切られたら絶対に傷が出来るだろうな。怪我はダメだと皆言っていたし自分もしないように気をつけると言って出て来た。 「死ぬのって、怪我しないとダメだよな」 両手を冷たい床につく。押し出すようにして体重を掛けて立ち上がる。 「なら、『嫌』だなあ……」

強欲グリード @noname_greed

帰らないと。ここに来た目的はわかっている。帰る為には殺さないといけない。《美徳》でなくさせなければならない。大きく数歩分の距離。手にはまだ何も持たない。どうせいくらでも手に入る。 「——俺から奪っていいのは俺だけだから、《美徳》にはやんない」

勇気fortitude @fortitude_nonam

抵抗の意志を見せる『キティ』に、聞こえるかもわからない、ごく小さな声で告げる。 「『奪う』わけじゃない。『預かる』だけだよ。」 聞こえなくていい。信じなくていい。だって今、俺たちは悲しくも、間違いなく敵同士なんだから。立ち上がり、少しの距離を保った『キティ』に、右手の剣を向ける。

勇気fortitude @fortitude_nonam

俺の片腕には重すぎるその切っ先は、わずかに震えながら少し下がっている。感情からくるものでなく、膂力が足りていないだけの震え。それでも、大罪を斬れる武器はこれしかない。 「俺は《勇気》を守り、キティ、あなたを生かしてみせる。……いざ！」 改めての宣言、そして気合の一声。

勇気fortitude @fortitude_nonam

それとともに下がっていた切っ先を水平に持ち上げ、左手を柄頭に添えながら、足を踏み出し床を蹴る。ただの人間と比べてさえ脚は遅い。数歩もの距離があれば、躱すのは容易だろう。少しでも避ける意志があれば、俺が彼女の心臓に定めた狙いは、ほとんど意味を成さない。

強欲グリード @noname_greed

ああ、それならわかる。やっとわかる。知ってる。それって。 「それって、傲慢って言うんだ」 虚飾の中に取り込まれて消えたもの。傲慢の意味を問いかけた時には虚飾はいつものように笑っていた。 「傲慢の手を空にするのも生かすって意気込むのも、全部」 銀の軌跡は緩い。入れ違うように避ける。

強欲グリード @noname_greed

突き立ったままだった鉄の槍に手をかざす。『凝聚』する。『鋭さ』を。握ったそれは細身の剣。 「全部《勇気》が持ってる《不屈》の勝手だろ。俺はそんなの、生きるなんて言わない」 距離を取る。空気を『凝聚』する。『速さ』を。掌の中に現れた玉を口の中に。飲み下せば身体が軽くなるような。

強欲グリード @noname_greed

「——俺を生かすつもりなら、『全部』だ。『総て』だ。世界だって足りない、それを俺に寄越せよ《美徳》」 漆黒の目を、ゆるりと細める。

勇気fortitude @fortitude_nonam

空を切った剣に、脆弱な体が振り回される。そしてそのまま、『振り回させる』。刃はぐいと、まるでそれ自体に意志があるかのように、その場で反転した。俺はただ、全力で柄にしがみついているだけ。 俺の言い分に対して傲慢と言った『キティ』の台詞に対しても、俺は否定をしない。

勇気fortitude @fortitude_nonam

「久しぶりに聞いたな、その名前。」 懐かしくすら思う。 「大罪が美徳になれないなんてルールはね、キティ。」 過去か未来か、最初の俺はどこから来たか。少なくともそれは今でなく、此処でない。 「どこにもない。なかったんだ。」 剣は『キティ』の心臓へと馳せる。

勇気fortitude @fortitude_nonam

俺の体は剣に振り回され、引きずられるように駆ける。 「あげるよ、キティ。その名前だけじゃない。俺があなたにあげられるものすべて。生も死も、過ぎ去った過去もやがて来る未来も、《勇気》も《傲慢》も、何もかも持っていくといい！」

強欲グリード @noname_greed

剣を握ったまま飛ぶ。後方へ。さらに距離を。剣が来る。《勇気》は柄を強く握って駆けるとも縺れるとも言えるように向かってくる。 傲慢の音に否定はない。『大罪』と《美徳》の間に広がる溝すら無いと《勇気》は言う。 「でも、それがどうしたって言うんだよ」 鉄を握る。剣を振るう。《勇気》へ。

強欲グリード @noname_greed

狙う先は《勇気》の剣ではなく振り回される身体。『凝聚』する。空気の『厚さ』を。銀を阻むように展開して。 「美徳でも大罪でも関係ない、全部欠ける事なく総てだ奪うからこそ強欲だとされた俺を与える事で満たせるなんて思うなよ《勇気》！」 振るう。刃を《美徳》へ。腕を落とせばそれで良い！

勇気fortitude @fortitude_nonam

剣にかかる重圧が増した。まるで空気がひどく粘りを得たようにまとわりつき、刃の勢いを削ぐ。 「だからこそ、俺一人では満たせないからこそ！　あなたを殺し、そして生かすんだ！」 空気の抵抗にあっている間に、『キティ』の持つ剣が、身動きのできない俺の腕へと降り下ろされた。

勇気fortitude @fortitude_nonam

肉を切り裂くのに音は響かない。だから、その瞬間、鈍く耳障りな悲鳴をあげたのは、腕の骨。柄を握っていた右手は、見えない何かに突き立った剣とともに空中に漂う。添えていた左手は切り落とされはしなかったが、腕の半ばの傷口あたりでぐんにゃりと折れ、だくだくと流れる血を浴びながらぶら下がる。

勇気fortitude @fortitude_nonam

両の手を失った俺は、それでも屈するつもりはなかった。ピアスのひとつを床に落とすと、倒れこむようにして這いつくばい、それを唇でつまみ上げた。一瞬の後、銀は左手用短剣（マン・ゴーシュ）に形を変える。

勇気fortitude @fortitude_nonam

床の上を転がり、ばねのように全身を跳ねさせて脚だけで起き上がると、口にくわえた最後の武器と最期の力でもって、『キティ』へと挑みかかる。

強欲グリード @noname_greed

空気に突き立った切っ先が揺れる。泳ぐ。触れないように避けて振り落とした刃は《美徳》の片腕を落とし片腕を半分断ち切る。使い物になくなっても欠けたわけじゃないなら良い構わない。後でいくらでも回収できる。血を吸った鉄はすぐに使い物にならなくなった。刃を投げ捨てる。もうこれは強欲のもの。

強欲グリード @noname_greed

次を。思う間に《勇気》が立ち上がる。跳ね起きたそのまま来る。『凝聚』してきた人間の感情の一つがさざめいて自然と舌打ちが一つ。 「死ねば終わりだ、『もう何も手に入らない』！！　《美徳》が『大罪』を殺した上で養うとでも言うのかよ！？」 銀がひとつ。ああ時間を声に使ってしまった。

強欲グリード @noname_greed

なんで人間はこんなもの抱えてるんだろう。強欲には感情がわからない。経験が揺らぐ感覚しかない。それを制御する術を持たない。切り離すこともできない。振り回されるしかない。 「俺は『凝聚』の『強欲』だ、『仲間(ろく)』と並ぶ『大罪(Greed)』だ！！」 ——『凝聚』する。何でもいい。